仲直りのハンバーグ

第13話 仲直りのハンバーグ(1)

 レンは宣言通り、とてもきれいなオリガミを披露した。

「このオリガミの名前をハスの花というらしいです。聖女さまの好きな花で、泥の中でも美しく咲く花だそうです」

「へぇ、そんな謂れがあったんだ。レンは物知りだね」

 レンは出来上がったオリガミの花を指で撫でる。アルヴィドもレンの見よう見まねで作ってみたが、残念なオリガミができていた。ここのところ、いいところを見せられていない。

 結局飾る分はレンが全部折ってくれた。折り目も美しい花は近年まれにみる出来である。



「よし、じゃあ。ぼちぼちハンバーグを作ってみるか?」

「はい!」

 レンは顔を上げて笑顔を見せた。



 ハンバーグには、炒めたピプルと生のピプルを合わせて使う。そうすることでハンバーグに食感と、深い甘みを足すことができる。

 レンはさっそくアームクリップをつけて、袖を上げていた。

「すごく、ラクです。ありがとう、アルさん」

「いや、うん。よかった」

 自分のプレゼントが喜ばれること、それを目の前で使ってもらえることがこんなにこそばゆいとは思わなかった。照れかくしに手を動かしていると、いつもよりたくさんピプルを刻んでしまった。

 レンは火加減を見ながら、ピプルを炒めていた。

「ここに乳酪を少し入れると味にまろやかさが増んだよ。炒め終わったら、冷まして」

 レンはうなずいて、近くの皿に鍋の中のものを開けた。

 続いて用意したのは肉の塊だ。

 スコオル亭では、脂身の少ない部分を使う。そのために、ひき肉を作る作業は力仕事になる。

「これ、ばあちゃんの時代からあるひき肉機なんだ。ここの穴に肉を入れて、このハンドルを回すとほらこうやってこっちから、引かれた肉が出てくるんだ」

 ぐっと力を込めて、ハンドルを回すと肉がぐにゅぐにゅと穴からひねり出てくる。

「魔道調理器でやってもいいんだけど、それだと肉に微熱が伝わって風味が落ちるから、うちはこの手動機械でやるようにしている。レンも回してみる?」

 レンはうなずいて、ハンドルを両手で持つ。ぐっと力を入れてみたがすぐには動かず。両足を踏ん張ってもう一度ハンドルを持つ手に力を込めた。ゆっくりと、ハンドルが動き出した。ちょびちょびと穴からひき肉が出てきた。

「やった!」

「上手上手。この作業は力仕事だからよくじいちゃんがやってたんだ。手伝うね」

 アルヴィドはレンの手に余った部分を握って、ぎゅんっと回す。レンは驚いた顔でハンドルに力を込めた。

 ぐんぐんとひき肉ができていく。穴に入れた肉がすべてひき肉になるまでハンドルを回した。

「よしっと」

 アルヴィドはハンドルから手を放して、レンを見下ろす。レンは耳まで真っ赤になってハンドルを握ったまま固まっていた。夢中で気付かなかったが、距離が近かったみたいだ。

「あぁああ、ごめん!!!」

「いえ。あの僕が非力なのが……ぜんぜんぜんぜん」

 レンはぶるぶる震えてあたふたと両手を振った。

 そんな風に赤くなられてしまうと、意識してしまう。

「レンといると、なんかばあちゃんが生きてた頃みたいな感じがして。レンにも俺がしてもらったみたいにやっちゃうんだ。ほんとごめん」

 なんでか、世話を焼きたくなる。なんだか、気を引きたくなる。

「それって……?」

 レンの言葉に、アルヴィドは自身の心の奥を見ないようにして答える。

「……家族?」

 レンは顔を赤くして、手で覆った。

「そうですよね、僕意識しすぎですよね。家族……家族!」

 アルヴィドはどう対応していいかわからず、レンが落ち着くまで待った。


「手動器具だとね、部品が単純だから、解体して洗えるようになってるんだよ」

 アルヴィドは間を持たせるように器具の説明をして、ひき肉の入った容器を手に取る。

「あとはおろし金でおろしたパンと、この香草類を混ぜていくんだけど」

 アルヴィドは、へらでひき肉を混ぜ始めた。

「まずはひき肉と塩でしっかり捏ねて粘り出させる。手でやると脂が溶けちゃって、水分と脂分が分離しやすくなるから要注意だよ。脂分が溶けちゃうと、パサついたり、焼いたとき崩れやすくなるからね。レンやってみる?」

 レンは真剣な顔でコクリうなずくと、へらをぎゅっと握る。


「聖女さまのレシピではひき肉は手でこねるって言われてたんだけど、ばあちゃんや俺は体温が高くてひき肉をこねるのには向いてなかったんだ。聖女さまのところにいた時は、聖女さまがひき肉をこねていたらしいよ。ばあちゃんが言うにはハンバーグは聖女さまが一番だって。俺もそれが食べてみたかったな」


 レンはへらを持つ手を止めて、アルヴィドをじっと見返す。

「僕は聖女さまより、アルさんのハンバーグのほうがおいしいです」

 アルヴィドは強い視線に瞬きをする。

「え? ありがとう」

 アルヴィドは一拍置いて目を見開いた。


「え?ちょっと待って……聖女さまのハンバーグ食べたことがあるの?」

「いえ、その……えっと」


 だが、レンが口を開こうとした途端、店の扉が乱暴に開く音が聞こえた。扉の鈴がチリンチリンと激しく鳴る。

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