悲鳴



 宮迫は、悲鳴の聞こえた方へと駆け出した。


 角を曲がったすぐそこ、先程まで居た場所に何処かで見た女が居た。


 頭を抱え、路上に、しゃがみ込んでいる。


 ひとつに結ばれた長い黒髪、小さな頭、細長い手足。


「桜井先生!?」


 宮迫のその呼びかけにも答えることなく、孝子はアスファルトだけを見つめている。


 何故、此処に――


 普段はこの辺りはあまり通らないようにしているようだったのに。


「……ココハ、ドコ?」


 えっ?


 孝子は頭を押さえていた手を下ろし、見開いた眼で地面を見つめる。


「ココハ、ドコ?」


 なんでだ?

 この人の霊力は、ほとんど消えているのに、何故、この霊の影響を?


 ココハ ドコ


  ココハ ドコ



  「此処は―― 何処?」



 そのとき、ただ漫然と繰り返すだけだった孝子の言葉に、微かな知性の光というか、意思のようなものを感じた。


 これは……ただ言わされているだけではない?


「此処は、何処?

 此処は、何処?


 なんで……


  なんで私がっ!」


 そんな孝子を、霊が辛そうに見ているのに気がついた。


 孝子と霊の表情が同調している。


「なんで私がこんな目にっ!?

 なんでよ、どうしてよっ!


 どうして……っ?


 どうして――


      ……綾あっ!」


 ……ああ。

 ああ、そうか。


 宮迫は、ほとんど霊力の残っていない孝子が、簡単にこの霊に同調してしまった訳を知った。


 何故自分がこんなめに遭わなければならなかったのか。


 そう永遠に問い返し続ける霊と。


 何故、親友が自分を刺したのか。


 そして、そのことを彼女が知らぬふりをし続けるのは何故なのか。


 心の底でずっと問い続けていた孝子。


 二人の想いが、今、宮迫が造り上げていた空間で接触することにより、シンクロしてしまったのだ。


 普段の孝子ならありえないことだが、地面に突っ伏したまま、声を上げて泣き始める。


 抑えていた想いを吐き出すことで、孝子も少しは楽になれるのかもしれないが。


「宮迫?」


 宮迫はポケットから携帯を取り出す。


 泣き続ける孝子を見ながら、既に調べてあった番号に電話した。


「……すみません、冴木の部下の者ですが。

 都さんはご在宅でしょうか?」


 矢島は無言でこちらを見ていた。




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