偶然か、それとも――

 

「少し同調しすぎました」

と宮迫は額に手をやっている。


 白い顔が月光のせいだけではなく、蒼褪めて見えた。


「おい、嬢ちゃんでも呼んでこようか」


「呼びようがないじゃないですか」

と宮迫は苛立ったように言う。


 その言葉は、様々な意味を含んでいるように聞こえた。


「なんとしても連れてくるさ。何か理由をつけて。

 それか冴木に」


「やめてください」

 宮迫はぴしゃりと拒絶する。


「それより、彼女が本来死んだ場所に戻るかも」

「どういうこった?」


「『死んでたのに殴られた――』


 辻占のとき、彼女はそう言いました。


 あれは犯人が、生きている彼女を、都のように殴り続けたわけではなく。


 一撃で殺しておいて、此処へ運ぶかどうかして、間を置いたあと、殴りつけたという意味かと思っていました。


 でも、ちょっと違いましたね。


 彼女の死因は恐らく、交通事故です」


「は?」


「犯人がねたのか、別の人間が撥ねたのをたまたま見たのか。


 程よく死体を見つけた犯人は、それを此処まで連れてきて、一連の猟奇殺人事件と見せかけるため、既に死んでいた彼女を殴り続けた。


 この辺りの警備もすっかり緩んでいたから、簡単だったでしょうね。


 つまり、『何故、木曜ではなく、火曜に犯行が行われたのか』


 この答えは簡単です。


 たまたま死体があったから、犯人は模倣犯的に事件を起こした。


 ほんとは木曜がよかったんですが、仕方なかったんですよ。


 たまたま手に入った死体の都合がそうだったんですから」


「ちょっと待て。


 じゃあ、もしかして、嬢ちゃんが言ってたって言う、前回の事件のもうひとりの犯人と、今回の犯人は――」


「やっぱり違うんじゃないですか?」

 宮迫はあっさりそう言った。


「これで手口の違いがはっきりしましたからね。


 撲殺してから、更に殴ったか、生きたまま殴り続けたか。

 そんな微妙な殺し方の違いじゃなかったんですから」


 今度の犯人は予めあった死体を持ってきて、程よく、最初の打撲痕が消えるよう、万遍なく殴りつけただけなのだ。


「じゃあ、今度の犯人は、殺人犯じゃない?」


「いやあ、撥ねたのが犯人なら、殺人犯ですよ。

 めぼしい女性を見つけて、わざと撥ねたって可能性もありますしね。


 しかし、こうも考えられます。


 犯人は、此処に似たような死体を置いて、閉められかけていた捜査本部をもう一度活動させようとしたとか、そういう目的で動いているわけではなく。


 単に自分が撥ねてしまった女性の死体を隠すために、以前あった連続殺人事件を利用した」


「そんな……」

 だが、勢いを失いかけた矢島は、再び、宮迫に向き直る。


「待てよ。

 じゃあ、斉藤零児や斉藤怜奈はなんなんだ?


 なんだって、前回の事件の関係者が辻占絡みで、ボロボロ出てくる!」


「そもそもですね。

 斉藤零児があそこに現れたことが辻占の結果だったのか。


 いや……まあ、そんな偶然はないかもしれませんが」


 何かもっと別の理由があるような、と宮迫は呟く。


 そのとき、すぐ近くで、生きた女の悲鳴が聞こえた。






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