第42話

「モニカさんどれくらいで来るんだろ」


 今は北の街の冒険者ギルドでモニカ・ファーベスターさんが来るのを待っている。


 東の街で一度別れた俺は、冒険者ギルドでゴミ拾いと配達依頼の報告を済ませたあと、すぐにクリスタルで北の街に移動してきた。

 依頼の報告時にゴミ拾いの依頼をとても感謝されたが、頭の中には早く北の街に行かないとというのがあったので、心ここにあらずな返事になっていたかもしれない。


「ユーマ、待たせた」

「思ったより早いですね。ワイバーン交通でしたっけ?」


 俺がここに着いてから5分ほどで来たのは早いほうだろう。


「近々プレイヤー様も利用できるようにするらしいぞ。一度は乗ってみるといい、料金は高いがな」


 そんな話をしながら家に向かっているのだが、やはりモニカさんは注目されている。


「なに、これくらいなら慣れている。気にしなくていい」

「できるだけ早くここから離れますね」


 そう言って、早足で家まで向かう。


「見えてきました、あれです」

「おお、随分と大きい家に住んでいるんだな」


 モニカさんに立ち入り許可を出して、自由に出入り出来るようにしておく。


「今更だが、良かったのか? 私が何か悪いことをするとは思わないのか?」

「まぁ最悪何か盗まれても残念だなって思うだけですし、本人から過去の話も聞いて、ずっとあの場所から出て来ることができなかった人ですからね」

「うぅ、それを言われると痛いな。だが、ここで人に慣れてしまえば悪い出来心が「元騎士がそんなことします?」そうだな」


 家の中を案内する前に、モニカさんに住んでもらう部屋を決める。


「玄関前の空き部屋はないな。リビングの空き部屋を使ってもらうか」


 リビングにあった空き部屋2つの内1つをモニカさんに案内する。


「ここが一応モニカさんに住んでもらう部屋ですね。何か要望があったら言ってください」

「私が住んでいたあの小屋よりも広いんじゃないか」


 流石に小屋の方が広かった気がする。荷物を置いていないからそう見えるだけだろう。


「じゃあ一応家の案内です。ここが玄関で、玄関すぐの空き部屋、進んで右が錬金部屋と鍛冶部屋で、戻ってさっきのところを左に行くと冷蔵室と冷凍室でその間に地下室、玄関から真っすぐ行くとあのリビングです。リビングにはモニカさんの部屋と俺の寝室と、あと空き部屋ですね。リビングからは露天風呂に繋がってるのと、裏の農場というか、牧場というか、俺の持ってる土地が奥まで広がってるとこに出れますね。それと裏を出てすぐのところにクリスタルがあって、急に俺が現れるとしたらそこかもしれないので、一応避けてもらえるといいかもしれません」


 と説明はこんな感じかな。


「分かった。少し後で見てみるよ」

「入ったら駄目なところもないですし、何でも使ってください。あ、一応今厩舎にいるライドホースのお腹に赤ちゃんがいて、隣の家の使用人さんの協力で様子を見てもらってるんですけど、生まれるまでは近付かないようにお願いします」


 そしてモニカさんにはフカさんとセバスさんに立ち入り許可を出していることも伝えた。

 お隣さんだし心配はしてないけど仲良くしてくれると嬉しい。


「では私は部屋に荷物を置いてくる」

「俺もフカさんにモニカさんのこと伝えに行こうかな」


 ということでフカさんの家に行く。


「すみませーん」


 声を掛けるが出てきたのは使用人の方で、今家にフカさんが居ないらしい。

 なので、新しい同居人ができたことの伝言を頼んで、また自分の家に戻る。


「微妙な時間だな、どうしようか」


 今は17時くらいで、遠くに行くには時間が足りない。かといってここでキプロと約束している時間までじっとしているには長いな。


「そうだ。宝石のカットをしてもらって、余った時間で料理だな」


 今日は本当にクリスタルを使う事が多いなと思いながらも、はじめの街に移動する。


「あ、ギムナさん今空いてますか?」

「あぁ、どうした?」

「今日お昼に来た時は混んでいたので食べに来れなかったんですよ」

「そうか。またあと数時間したらそうなるかもしれないな。何か食うか?」


 そう言われて迷うが、もう食べる気満々のウルがキラキラした目をこちらに向けているので、いただくことにする。


「あと、前と同じでこの肉を焼いて欲しいです」

「少し時間かかるが大丈夫か?」

「その間に職人ギルドまで行ってきます」


 横で美味しそうにウルが食べているが、このまま大きくなっていったら本当にいくらでも食べてしまいそうだ。


「じゃあ先にお金渡しときますね。ちょっと行ってきます」

「あいよ」


 食べ終わったウルとルリを連れて、職人ギルドに向かう。


「あの、宝石の加工とかって出来ますか?」

「できますよ、どれですか?」

「この7つなんですけど、あんまりよく分からないんでカットはおまかせします」

「おお、これは時間がかかりそうですね。明日の朝までとなると4つが限界ですが、大丈夫ですか?」


 なぜ明日の朝までなのだろう?


「えっと明日って何かあるんですか?」

「え、西の街のオークションに出品するためじゃなかったんですか?」


 あ、第一回オークションの特別席を持っておきながら忘れてた。


「なるほど、じゃあ赤い瞳と漆黒石、聖光石はこっちで持っておきます」

「じゃあこちらの4つを仕上げますね。4万Gかかりますけど、お持ちですか?」


 そう言われたので代金を先払いしておく。


「ありがとうございます。では明日の朝にはお渡しできるようにしておきます」

「お願いします」


 そしてギムナさんのところへ戻ると、数人のプレイヤーが屋台の前で食べている。


「出来てるぞ、そこのを自分で取ってってくれ」

「ありがとうございました、また来ます」


 目は焼いている肉の方に向けていて、一見無愛想な感じだが、とても親切な人なのを俺達は知っているから何も気にしない。

 

 肉を待っているプレイヤー達は、頑固親父を相手するみたいな感じで緊張気味だったけど、そんな怖がらなくても優しいのに。


「じゃあ余った宝石は南の街に行く前に西の街に行って加工してもらおう」


 キプロに会う前に西の街の職人ギルドへ行けば間に合うだろう。


「す、すいません!」

「え、はい。俺ですか?」

「あの、この前はナンパから助けていただきありがとうございました!」


 頭を下げているためちょっと顔は見えないが、多分ナンパされて無理やりパーティーを組まされそうになってた人だな。


「ミカ、この人に助けてもらったんだ(なんか見たことある気がする)」

「うん。あ、私はミカです。で、こちらは友達のくるみです」

「どうも、ユーマです。こっちがウルでこっちがルリ」

「クゥ!」「アウ!」


「あの、何か困ったことがあったら言ってください!」

「あたしらこう見えて結構強いよ」


 と言われても特に今は何も無いな。強いて言うなら東の街でもらった大量の魚を焼くのが面倒くさいくらいか。


「うーん、時に今は無いです。もし何かあれば言いますね。わざわざ声をかけてもらってありがとうございました」

「いえ、私の方こそ。じゃあ失礼します!」

「何かあったらチャットしてねー」


 こうしてミカさんとくるみさんの2人とフレンド登録をして別れた。


「今日は、随分と色んな人に会うな」


 フカさんとセバスさんはいつもだけど、知ってる人にも知らない人にも今日は話している気がする。


「まぁ取り敢えず帰って魚を焼くか」

「クゥ!」「アウ」




「おーい、インベントリに入れてくれ。そのまま食べたらお腹すいた時困るぞー」

「クゥ」


 家に帰って100匹近い魚を焼き続けている。


「いい匂いがすると思ったら、帰っていたのか」

「モニカさんも食べます?」

「では少しいただこう。うん、美味しいな」

「良かったです。ウルとルリにはいろんなご飯を預けてるんで、俺が居ない時にもし困ったら声かけてください。あと、冷蔵室のミルクとか、今後は野菜とか果物もどうぞ。ウルもルリもその時は渡して欲しい」

「クゥ!」「アウ!」

「ありがとう、その時はお願いするよ」


 そんな話をしながら次の魚をどんどん焼いていく。


「疲れたぁ。全部焼き切ったぞ」

「クゥ」「アウ」


 料理の途中で気付いたが、これまでも料理中にステータスを確認していなかっただけで、料理のスキルを持っていた。

 スキルとしては、回復料理と補助料理、包丁研ぎがあり、前の2つは料理で回復したり攻撃力や防御力が上がるのもので、包丁研ぎは武器が包丁だと攻撃の威力が上がるのだろう。

 料理人はこれと似たようなスキルでモンスターと戦うのかもしれない。


「でも、欲しいのは美味しさなんだよな」


 料理で回復するのも、ステータスを補助してくれるのも助かるが、結局は美味しい料理を作りたいだけだ。


「まあそんなうまい話はないか」


 ゲーム内だと大体何をしてもある程度美味しく作れるのは優しい仕様だし、地道に腕を磨くしかないな。


「じゃあトイレだけ行ってくるから、その後すぐ西の街に行こう」

「クゥ」「アウ」


 そう言って俺は一度ログアウトするのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る