第43話

「ただいま、じゃあ行こうか」

「クゥ!」「アウ!」


 軽い食事とトイレを済ませてきたので、そのまま西の街へ行く。


「宝石のカットをお願いします」

「分かりました。どちらの宝石でしょうか?」

「この3つです。あんまり詳しくないのでカットの種類はお任せします」


 そう言って紅い瞳、漆黒石、聖光石の3つを渡す。

 

「かしこまりました。明日の朝までには間に合わせます」


 やっぱりどこもオークションに間に合うように、明日の朝を意識しているんだな。


「じゃあお願いします」


 そう言ってすぐクリスタルを使い、南の街の冒険者ギルドの方に向かう。


「ユーマさん!」

「早いなキプロ」

「楽しみでちょっと早く来ちゃいました。というか、装備が昨日と違ったので少し声をかけるのが不安でしたよ」


 最初からキプロのテンションが高い。

 もし俺が今日来てなかったら、相当落ち込んだだろうな。


「じゃあ今日はどうするか」

「昨日と同じで採掘系の依頼を受けないんですか?」

「いや、それもいいけど、また同じところで採掘するだけだからなぁ」


 依頼者が困っているならまだしも、他の人も受けてそうな依頼だし、同じ依頼ばかり受けるのは楽しくない。


「じゃあもしかしたら無駄になるかもしれませんけど、依頼を先に受けずに道中の採掘ポイントだけ掘っていって、後で依頼達成できるものだけしますか?」

「そうだな。結局は昨日行けなかったあの奥が今日はメインだし」


 ということで依頼は受けずに早速あの場所まで進む。


「あの、ユーマさんの周り光ってませんか?」

「あぁ、昨日の宝箱から出た装備品に、そういう効果のあるやつがあったんだ」

「凄いですね。これがいっぱいあればプレイヤー様達もサポーターを雇わなくなるかも」

「いや、そんなに無いんじゃないか? 今でも全然見かけないし」


 そんな話をしながら、サクサク進んでいく。

 キプロも今日は最初からスケルトンアニマルにビビることもない。


「昨日の採掘ポイントは全て見ていきますか? せっかく近くを通るなら掘りにいってもいいと思いますけど」

「そうしよう。まだ早い時間だしそんなに急ぐこともない」


 と言うことで、少し距離がある場所も掘りに行く。

 また宝石になる可能性がある原石がいくつか取れたな。


「本当にユーマさんは採掘が上手ですね」

「魔法のツルハシのおかげだな」


 キプロが昨日見つけた採掘ポイントに近づくと声をかけてくれるので、俺は魔法の手袋をつけて変な草や石を集める。


「なんか結構生えてるもんなんだな」

「いや、僕は全くどれが使えるのか分かりません!」


 そんな話をしながら昨日のボスがいた場所まで来た。


「え、居ないのか。もしかしてなにか条件とかあるのか?」

「居なくて良かったです。またあんな相手と戦うのは見てるだけで疲れますよ」


 昨日マグマだらけになったエリアも、元通りになっている。

 

 このゲーム的には、はじめの街のボスのことを考えると、何度もボスと戦えるようになっているだろうから、なにか俺たちがあのボスに挑戦する条件を満たしていないのだろう。


「まぁ俺としてはちょっと残念だけど仕方ないか」


 と言うことで、ボスのいないボスエリアを抜けて、奥に進んでいく。


「この前はここで終わったんだよな」

「そうですね。正直に言うと、今日ユーマさんが来てくれなかったら、気になりすぎて夜も眠れなかったかもしれません」


 キプロはサポーターするために今は昼夜逆転した生活送ってるだろ、とは言わないでおこう。

 俺は一応読める空気は読むことにしているんだ。


「じゃあ行くぞ、離れるなよ」


 こうして洞窟の中に入ると、キプロの松明だけだと進行が難しかっただろうなと感じる。


「ここは一切の光がないな」

「僕、ちょっと、ちょっとだけ、怖いかもしれません」


 キプロの方を見てみると、ブルブル震えている。


「ウルはキプロと少し下がってくれ。前は俺とルリで行くから」


 そうすると照らされている範囲が広がったおかげで、随分と窮屈さがなくなった。


「ルリっ、モンスターだ!」

「アウ!」


 5体くらいの大きな獣っぽいモンスターがこちらを睨んでいる。


「名前は洞窟ネズミね。ネズミって言う割にはめちゃくちゃ太ってるな」

『ギーッ』『ヂュー』……


 するとルリと俺めがけてモンスター達は飛びついてきた。


「うわ、こいつら強いな。ウルも攻撃してくれ!」

「クゥ!」


 動きはそこまで厄介ではないが、1体倒すのにこの装備でも何回も攻撃しないといけないため、簡単な相手ではなかった。


「よしなんとか倒せたか。ルリは大丈夫か?」

「アウ」


 ルリが1番この中で最初に敵の攻撃を受ける可能性が高いから、相手が強ければ強いほどルリの負担が増える。


「キプロも見ての通り、ここのモンスターは外よりも少し強いから、気を付けていこう」

「そうですね。僕も気を抜かないようにします」


 ルリが攻撃を受けたので少し休憩してから進む。

 こういう時に超回復のスキルは便利だ。


 また少し奥に進むと、ビッグバットというコウモリのモンスターが複数体襲ってきた。


 ビッグバットは飛んでいるため洞窟ネズミよりも厄介な相手で、キプロが攻撃されないように、ウルはキプロと一緒に離れてもらった。


 ただ、そのせいで俺とルリだけで敵を倒さなければならなかったため、時間も体力もだいぶ使ってしまった。


「ああいう飛んでる敵はウルも戦わせたいけど、あの状況は無理だよな」

「すいません。僕が1人で離れられたら良いんですけど」

「いや、それは大丈夫だ。そんなことされたらそれこそ心配でもっと戦いづらくなる」


 また休憩が終わって進むと、今度はアイアンスパイダーというモンスターが襲ってきた。


「どうにもここの敵は体力が多いかもしれないな」


 これまでにはなかった苦戦の仕方をしつつも、アイアンスパイダーも倒して今は休憩している。


「もう暗い場所での戦いは慣れたが、単純に敵が強いな」


 これで馬鹿みたいな量の敵が襲ってきたら、俺達は一瞬で倒されてしまうだろう。


「ルリが1番前、俺がその後ろで、最後がウルの配置が安定するか。でも、俺が1番前にいかないとそろそろヤバそうなんだよな」

「クゥ」「アウ」


 ルリが相手の攻撃を受けてしまうシーンが少しずつ増えてきたため、俺が前に行って対応する方が安定はしそうだ。

 ただ、ルリが真ん中で活躍できるかと言われれば難しいと言わざるを得ないので、もしその配置にすればどうしても火力不足になるだろう。


「まぁとりあえず俺が前で戦ってみるか。それでヤバそうだったらルリを前に戻そう」

「クゥ」「アウ」

「頑張ってください!」


 ルリが回復し終わったので、また進むことにしたのだが


「行き止まりか」

「そうみたいですね」


 確かにただの洞窟の可能性も少しはあるが、ここまで強い敵が出てきて、これで終わりなんてことはないだろう。

 

「ちょっとどこか先に行ける場所がないか探すか」

「クゥ!」「アウ!」

「分かりました! 僕はどうすれば良いですか?」

「じゃあウルと一緒に居てくれ」

「クゥ!」

「よろしくお願いします!」


「どうだ? 見つかったか?」

「特に怪しい場所はないですね」

「俺も魔法の手袋と魔法のツルハシを出してみたが、なんの反応もなかったな」

「クゥクゥ」「アゥアゥ」

「だいぶ時間使ったけど、もうちょっと探そう」


 そう言ったはいいものの、全く進展はない。


「はぁ、ちょっと疲れたな。一旦奥の方で休憩するか」

「そうしましょう」


 壁にもたれかかり、インベントリからアポルの実とオランジの実を出す。


「ほら、どっちも1つずつ食べていいぞ。キプロもほら」

「ありがとうございます。あ、美味しい」


「そういえば明日オークションがあるんだけど、どんな物が出品されるとか知ってる?」

「宝石とか絵画とか、モンスターの素材とか装備とか、あと、滅多に手に入らないポーションとかですかね。あんまり詳しくは知らないですけど、そういう物はオークションに出されることが多いと思います」


「なるほどな。じゃあ買うには結構高くなるのか」

「確か明日はプレイヤー様が来られてから初めてのオークションのはずなので、プレイヤー様向けに開催されるはずですよ。もちろん僕達も出品したり、見に行くことはできますけど、買うことができるのはプレイヤー様だけなんじゃないでしょうか」


 じゃあこの世界の人と競り合うことはないわけか。

 流石にそれがありだとプレイヤーが買えるものなんてほぼ無いだろうしな。


「よし、十分休憩したしもう一回だけこの辺を探すか」

「分かりました!」

「クゥ!」「アウ!」


 俺も探しに行くために、後ろの壁を支えにして立ち上がろうとした瞬間


「うぉっ、こんなとこで転けるなんて恥ず、か、し、……」


 さっきまであった壁がなくなっている。


「皆ちょっと来てくれ!」


「えっ、続きが出来てます!」

「クゥ!」「アウ!」


 なるほど、最初魔法の手袋をつけてこのあたりを触ったから、暗闇の照明の効果が発動しなかったんだな。


「すまん、俺の凡ミスだった。もっと早く見つけられてたかもしれない」

「いえ、見つけられただけ良かったです!」


 と言うことで、気を取り直してこの更に奥へと進んでいく。


「ん? あれは、なんだ?」

「何でしょう? 緑色に光ってますね」


 進んでいくと、先程までの空間とは違い明るく、ここには植物も生えている。


「まずは周りを見てみよう」


 ぐるっと一周したが、この空間はどこにも繋がっていなさそうなので、ここで最後だと思われる。


「この切り株の上のやつは取っても良いのか?」

「良いのではないでしょうか?」


 大きな切り株の上に、1つの緑色に輝く綺麗な石が置いてある。


「じゃあ取ってみるか」


 その石に触れ、持ち上げた瞬間、地面が揺れ周りの植物が一気に成長し始めた。


「ユ、ユーマさん、どうしますか!?」

「大丈夫だから、一旦落ち着いてくれ!」

「クゥ!」「アウ!」


 周りの植物は大きな切り株を包み込むようにどんどん伸びていく。


 俺たちは少し下がり、成長が止まるまでその光景を見ていた。


「止まったな」


 地面の揺れが収まり、周りの植物の成長が止まった所で、目の前の切り株の上を見ると、そこには1つのタマゴがある。


「いや、木の上の方には剣とか槍が絡まってるな」


 もしかしたらプレイヤーに合わせて物を用意してくれるのかもしれない。


「あれ、でもこのままじゃ取れないな」

「もしかしてさっきの石をそこにはめるんじゃないですか?」


 確かに木に窪みができていて、そこに石をはめられるスペースがある。


「おお、木の枝が避けてく」


 タマゴを守っていた木の枝が、あの石を木にはめた瞬間タマゴを取り出せるように避けてくれた。


「これはいつも通りインベントリには入れられないよな」

「ユーマさん凄いですね! もう僕冒険者よりも冒険してます!!」


 この状態でモンスターが襲ってくることがあれば逃げ場がないので、キプロには静かにしてもらう。


「じゃあキプロには悪いけど、一旦外に出てモンスターと戦わせてくれ」

「? 分かりました」


 洞窟から無事抜け出したあと、俺とキプロが中心で、外側をウルとルリが守るような陣形でモンスターを倒していく。


《あなたのタマゴが進化しました》

《あなたのタマゴが進化しました》

《あなたのタマゴが進化しました。これ以上進化する事はありません》


「結構倒しましたね。もうこれで大丈夫なんですか?」

「あぁ、ありがとう。取り敢えず冒険者ギルド、は目立つから、目立たなくて安全そうな場所に案内出来るか?」

「はい! 任せてください!」


 こうして洞窟を探索し謎のタマゴを手に入れた俺達は、タマゴを進化させたあと休める場所を探して歩くのだった。



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