第41話

「出来てるよ。こっちは原石を磨いて出た宝石ね。それにしても運が良いプレイヤー様だよ」


 職人ギルドで鉱石と原石の加工をお願いしていたことを思い出して、北の街の職人ギルドへとやって来ていた。


「銀と銅のインゴットか。で、宝石の方はいっぱいあるな」


 15個中当たりが7つあったらしく、名前を聞いたことのあるルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドの他に、紅い瞳、漆黒石、聖光石があった。


「宝石の加工もうちでできるけど、あんまりオススメしないよ」

「じゃあどこでお願いするのが良いですかね?」

「西の街か、はじめの街あたりは綺麗に出来るんじゃないか?」


 急いではいないが、宝石をこのままの状態にしてても意味がないので、近い内にどっちかの街に持っていこう。


 俺は店主にお礼を言って職人ギルドを出る。


「今のところ夜はキプロとあの洞窟の先に行くつもりだし、それまで依頼を受けるか、どっか探索に行くか」


 あまり行ってない東の街にでも行ってみるか?


「ウルとルリは東の街行きたいか? 魚が食べられるらしいけど」

「クゥ!」「アウ」


 ウルが行きたそうなので、東の街に行くことにする。




「やっぱり釣りをするプレイヤーが多いな」


 海の方に行くと、釣り竿を海に向かって投げているプレイヤーが結構居るので声をかけてみる。


「ちょっとお話いいですか?」

「あぁ、どうしましたか?」

「釣りをされてると思うんですけど、釣り竿はどうやって手に入れました?」

「職人ギルドで売ってますよ。それよりも更に良い釣り竿を手に入れるなら、作ってもらったりしないといけないと思いますけど」


 なるほど、他の街では売ってるのをあまり見たことないが、ここでは普通に売ってるんだろう。


「じゃあ釣りで獲った魚ってどうしてます?」

「気が向いた時に魚市に出すくらいですかね。インベントリに入れておけば新鮮なままなので。大物を釣った人はそのまま競りに出したりしてるらしいですよ」

「じゃあ要らない魚って売ってもらったりできます?」

「え、それはもちろんいいですよ。正直釣りが楽しくてやってるだけなので、あまり大きくない魚はインベントリの肥やしになってました」


 ということで魚を売ってもらうが、1匹50G〜100Gでかなり安い。


「立派なのは残しておきたいですけど、それくらいの魚はみんな釣っても売れないですから、ここに居る人達なら他の人もそれくらいで売ってくれると思いますよ」


 というアドバイスを受け、声をかけて回ってみると、俺からすると十分大きそうな魚も安い値段でみんな売ってくれた。


「釣った瞬間はインベントリに入らないんだな」


 ちょうど声をかけたタイミングで魚を釣った人を見たが、かかった針を口から外す最後まで魚が動いているリアルさだったので、これだけ釣りをするプレイヤーが居るのだろう。


「大分貰えたな」


 声をかけた人の中には、タダで貰ってくれという人もいた。

 小さい魚は釣ってもリリースするらしいが、普通サイズはみんなインベントリに入れるらしい。

 そしてインベントリに入れてしまえば魚は生き返らないので、食べる以外どうしようもなくなるのだ。


 魚を売ろうにも、店に並べるためにはお金がかかるし、プレイヤー達は少し困っている状況らしい。


「そろそろ料理人も来るだろうから、余った魚の処理は解決するだろうな」


 結局プレイヤーに直接売れば、色々な手間を無視できるため、近い内に俺みたいなことをする料理人が増えるだろう。

 それに釣りで稼ごうとしてる人もあんまりいなかったし、みんな今の状態でも釣り自体には満足してそうだ。


「じゃあ探索行くか」


 冒険者ギルドに寄るついでに職人ギルドで釣り竿も買っておいた。


「依頼はゴミ拾いと配達ね」


常設依頼

内容:海岸沿いに落ちているゴミの回収

報酬:1000G

期限:なし


配達依頼

内容:指定された場所まで荷物を運ぶ。

報酬:5000G

期限:3日間

 

 最近は、前まで絶対にしなかっただろうなと思う依頼をやることに楽しさを覚え始めている。

 レベルが上がったり、アイテムが手に入ったり、報酬が良かったりする依頼ばかり受けてきた反動で、こういう誰もやらなさそうな依頼が特別なものに感じてきた。


「うわ、結構落ちてるな。ウルもルリも汚そうなのはあんまり触らないようにインベントリに入れてってくれ」

「クゥ」「アウ」


 正直インベントリを使ったゴミ拾いは簡単過ぎるので、どんどん綺麗になっていく。

 クエストを受ける時にゴミをインベントリに入れることが出来るか聞いておいて良かった。


「やっぱゲームだからって全部が綺麗じゃないのもなんか良いな」


 なんて考えていると、横からモンスターが出てきたのだが


「クゥ!」

「ナイス、ウル」


 相手はブルースライムで、ウルが1番活躍できるモンスターの1つだった。


「もしかして海近くに出る敵は、ウルの氷魔法が結構良い感じなんじゃないか?」

「クゥ!」


 それから出てきた敵も、大体ウルのおかげで楽に倒すことができた。


「位置取りが大事だな。敵の背中が海側になる陣形にして、ウルの氷魔法を使うことができればほぼほぼそれで倒せそうだ」


 シザーズクラブ、オモイガメ、ヤドクビカリなどというモンスターが出てきたが、どれもウルの氷魔法で凍らせることが多く、本当に敵なしだ。


「そろそろ配達先なんだけどな」


 モンスターも近くには居なさそうなので、配達物を手に持って探す。


「あ、もしかしてあれか?」


 海岸から少し離れたところに小屋がある。


「すみません。配達依頼を受けてきたんですけど、居ますか?」

「はい、ちょっと待ってね。おや、プレイヤー様かい、ありがとうね」


 配達依頼で預けられた茶色い袋で包まれた荷物をその人に渡した。


「うん、これはうち宛の荷物だね。わざわざこんなとこにまで届けてくれてありがとう」

「いえ、では失礼します」

「帰りも気を付けてね」


 ここに来るまでの道中はモンスターが居たが、流石に人が住んでる場所の近くは居ないらしい。


「なんでこんなとこに住んでるんだろうな」


 結構1人で暮らすのはしんどそうなお年寄りの方だったけど、これまでも住んでるんだから、心配はいらないのだろう。


「あ、そうだ。丁度いいしおばあさんの家の近くで、釣りと料理させてもらうか」


 料理はまた家に帰ってするのでもいいけど、釣りをしてる間は暇だし、やっぱり釣りをするならこういう街から離れた場所でやってみたい。


 街の近くで釣りをする人が多いのはモンスターに襲われないからだろう。そして街から離れたモンスターが襲ってこないセーフゾーン的な場所を見つけて釣りをしているプレイヤーもいっぱいいるはずだ。


「何度もすみません。この近くで釣りってやってもいいですか?」

「ええ、お好きにどうぞ」

「ありがとうございます」


 と言うことで、早速釣りをする。


「お、ルリやってみるか? じゃあ俺は魚を焼くから、ウルはルリと一緒に居てやってくれ」


 生活魔法で火をつけて、かつて湖でやった時のように魚を串に刺して焼く。


「串を買っててよかった。ちょっと大きいやつは何本も刺して千切れないようにしないと」


 10も焼き魚を焼いた頃には、ルリの方も何匹か釣れたようだ。


「アウ!」「クゥ!」

「焼けってか? さっきベラさんとこで食べたばっかだけど、まぁ食べたいならいいか」


 3匹は釣れたらしく、1人1匹ずつ食べることに。


「釣れてるかい?」

「はい。うちの魔獣、ルリが釣ってくれたのを今焼いてるところです。その前は買った魚をずっと焼いてました。一緒に食べます?」

「気持ちだけもらっておくよ。ここに住んでると嫌でも魚は食べることになるからね」


 確かに俺からすると魚は食べる機会が少ないけど、おばあさんからしたらいつもか。


「じゃあ何かあるかな。うちで取れたマウンテンモウのミルクとかいります?」

「プレイヤー様は牧場もやってるのかい? じゃあ少し頂こうかな」


 意外と買ったコップが活躍する機会があって嬉しい。


「どうぞ」

「ありがとね」


 そしてミルクの入ったコップを渡す時、少しおばあさんと手が触れた瞬間、パリンッと言う音とともにおばあさんの姿が変わった。


「え」

「えっ、なんで!?」


「あの、さっきまでのおばあさんですよね?」

「あ、え、そ、そうだ。でもなんで、偽装の腕輪は付けてたはずなのに」


 あ、それは本当に申し訳ない事をした。


「ごめんなさい。それは多分俺のせいです。そういう装備を付けてまして、誰にも言わないので安心してください、って言っても信用はできないですよね」

「いや、そういうことか。それは仕方がない。こちらも不注意だった」


 そこからはもう吹っ切れたのか隠さなくなった。


「私はモニカ・ファーベスター。一応騎士を数年前までしていた。しかし、少し理由があり今はこうして身を隠している」

「ユーマです。一応北の街に家があって、そこに住んでます。さっきのミルクもそうですけど、農業もやってます。普段は色んなとこで冒険者ギルドの依頼とか魔獣ギルドの依頼をしてることが多いです」


 あまりモニカさんに踏み込んだ話をしないように気を付けながら、雑談を続ける。


「ではこのミルクも今朝取れたものなんだな」

「はい。気に入ってもらえてよかったです」

 

「その、話を聞いてくれるか?」

「モニカさんが話したいなら、聞きますよ」


 それからはモニカさんがなぜここに姿を隠して住んでいたのかの話だった。


 本人も最初に言っていた通り騎士を数年前までしていたらしいが、それは騎士になりたかったという理由の他に、爵位の高い貴族からの婚約の申し出を断るためでもあった。


 しかし、どうしても断れないような相手から婚約の申し出が来て、これは受けるしかないだろうというタイミングで、同じような爵位を持つ相手からまた申し出が来た。


 どちらかを断ればどちらかとの関係が悪くなる。モニカさんにとってもファーベスター家にとっても難しい状況だった。


 そしてファーベスター家はどうするか悩んだ結果、モニカさんの意志を優先し、どちらも断るために大事な娘を外に出すことにしたらしい。


 元騎士ということもあって、1人でも無事に遠くまで来ることはできたが、婚約の申し出がいくつも届くくらいモニカさんは綺麗な方なので、行く先々で目立ってしまった。

 そこで実家から送ってもらった偽装の腕輪を付け、念には念を入れて今までこの小屋で住んでいたらしい。


「本当は少し前に帰るつもりだったのだ。しかし、なかなか出るタイミングが無く、結局今日までここに残ってしまった」


 どうやら数ヶ月前にはもう婚約の心配はなくなっていたらしいが、だからと言ってそのまま家に帰れるものでもないらしい。


「家族にもたまに会えるだろうし、領内の目立たない場所に住もうと思っていたが、まだこんな街の外の人目につかない場所で過ごしている。はぁ、笑ってくれても良いんだぞ」

「まぁ長い時間人の目を避ける生活をしていたら、急に人の輪には入りづらいですよね」


 モニカさんはここを出ることには何の問題もないが、出たあとが不安なんだろうな。


「あの、俺の家来ます? 使用人もいるような大きい家に住んでる人が隣に居ますけど、その人も結婚して家族が居ますし、周りは農場ばっかりなので他の人が来ることはほぼ無いですよ。それに俺も朝は居ることが多いかもしれないですけど、大体は外に出てますし、帰る前のリハビリにはなるかなと」

「う、うぇ、いや、それは申し訳ない」

「じゃあもう領内に帰るんですか?」

「うっ、いや、そうだな。これは運命が私に動く時だと伝えているのかもしれん。ユーマ、よろしく頼む」


 俺としては軽く言ってみただけだったが、本当に来ることになった。この家を出るのに数ヶ月も動けなかった割には決断力がある。流石元騎士という感じだ。


「じゃあ一旦持っていくものをインベントリに入れますね。あ、モニカさんはどうやって北の街に来ます?」

「私は街でワイバーン交通を使おう。それと、ユーマのインベントリに入れるのは必要ない。私もこれくらいの量なら入るカバンを持っているからな」


 こうして東の街までは一緒に行き、北の街の冒険者ギルドの前で待ち合わせをして解散した。



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