第40話

「じゃあ行ってきます」

「ありがとう。ミルクも美味しかったよ」


 フカさんとはあの後一緒に部屋を少し回って、ミルクを飲みながら雑談していた。

 するとガイルからチャットが来たので、丁度いいしフカさんとはここで解散して、カヌスさんのとこへ装備を取りに行く前に、先にガイルと会うことにする。




「お、ついに来たか」

「悪い、初日に張り切りすぎて結構寝てた」

「でもその後西のボス倒してここまで来たんでしょ」

「生産職のレベル高いやつが数人と、10レベルくらいの俺みたいなやつ数人で、回復ガンガン回してなんとか倒してきた。俺はユーマのおかげでボスを見てるってのもデカかったな」


 それでも良く倒したと思う。生産職だけってことは結構全員で頑張らないと倒せないだろうし。


「じゃあそんなガイルにはプレゼントをあげよう。メイちゃんも一緒なんだけどね」


 そう言って、西の街カジノ裏通り:工房(鍛冶・錬金用)1部屋の権利書を渡す。


「何だこれ?」

「カジノの景品でもらったやつ。あ、あと余ったポイズンスライムゼリーとワイルドベアーの爪渡しとくね」

「いや、まぁくれるなら貰っとくが、説明してくれ」

「なんかこのゲームって家が買えたり借りることができるらしくて、特にプレイヤーが買える場所は限られてるから結構レアかも。まぁでもそれは家じゃなくて作業場みたいな扱いかもしれないから、ログアウトとかの仕様は自分で調べてみて。メイちゃんも魔獣居るし、ログアウト出来るんだったらラッキーだね」


 これで渡すものも無いし、カヌスさんのとこへ行「おい、それヤバいんじゃないのか!?」


「どうしたのガイル、急にそんな大きい声出さないでよ」

「お前これ、めちゃくちゃ高いんじゃないか?」

「流石ガイルさんお目が高い。チップ2500万枚と交換の景品だよ」

「チップで言われても分かんねえけど、ヤバそうなのだけは分かる」


 ガイルはゲームやってるだけあって、ものの価値はすぐ気付くな。


「前にもこんな状況があった気がするが、これを誰かに売ればいいんじゃないか?」

「本当にそれを売ってお金に変える未来もあったんだけど、そんなのしなくて良くなったからあげるよ」

「でも、流石にこれは高すぎるぞ。これ売ってそれこそ自分の家でも買えばいいのに」

「あ、自分の家はもうあるから。あと、鍛冶部屋と錬金部屋もあるし遠慮しないで。流石にその工房に比べたら広さも設備も劣るだろうけどね」


 ガイルが固まった。

 丁度いいし今のうちに逃げ「待て」「はい」


「そういうことなら、本当に不本意だが、ありがたく受け取っておく。断るとメイにも悪いしな」

「良かった。メイちゃんはまた今度ガイルの方から誘っといて」

「で、ユーマの家はどこにあるんだ?」

「北の街にあるよ」

「いつから」

「ゲーム内では2日目からかな? 夜が来ない日だったから日にちの感覚はあんまり無いけど」


「分かった。もう驚くのをやめるわ。また今度見に行っていいか?」

「いいよ、暇な時なら全然」


 こうしてガイルとは商人ギルドまでついて行って、工房の場所まで一緒に行ってから解散した。




「おぅ、そこで待っててくれ。もう終わる」


 カヌスさんは何やら最後の調整をしているのか、俺に声をかけたあとまた作業に戻る。


「よし、終わった。これが装備だ。確認してる間に素材買取の料金も計算しとくから、ゆっくり確認しててくれ」


 そう言ってカヌスさんはまた奥の方へ戻っていった。


名前:四王の片手剣

効果:攻撃力+35、筋力+5、敏捷+3、空き


説明

製作者カヌス:獅子、大蛇、大鷲、水牛のボス素材から作られた片手剣。筋力値と敏捷値を上昇し、装備装飾品を1つ付けられる。


はじめの四王シリーズ

名前:四王の鎧 

効果:防御力30、頑丈+5、敏捷+2、空き


名前:四王の小手 

効果:防御力20、頑丈+3、敏捷+2、空き


名前:四王のズボン

効果:防御力27、敏捷+4、頑丈+2、空き


名前:四王の靴 

効果:防御力+23、敏捷+3、頑丈+2、空き


説明

製作者カヌス:獅子、大蛇、大鷲、水牛のボス素材から作られた防具。頑丈値と敏捷値を上昇し、装備装飾品を1つ付けられる。


「凄いな、もっと弱くなると思ってた」


 カヌスさんにお願いしたのは、装飾品スロットを各武器・防具に付けて欲しいということだった。

 スロット部分を作ると少し性能が落ちると言われていたので、もう少し落ちることを覚悟していたのだが、全然強くてびっくりしている。


「お、どうだ。そんな感じで大丈夫か?」

「もう大満足です」

「なら良かった」


 そして俺が渡していた素材の余りの買取価格が思っている数倍高かった。


「20万Gですか?」

「少なかったか? なら23までは出すが、それ以上は無理だぞ」

「いや、逆です。そんなに高く買い取ってくれるんですか?」

「そりゃあこの街の近くじゃなかなか取れない素材があるのと、何よりも時期が良かったな。もっとプレイヤー様が直接売ってくれるようになりゃ、もう少し値は落ちてた」


「ちなみに素材の何が1番お高いです?」

「やっぱりその装備に使った余りだな。ちょっとずつしか使わなかったから結構余ったのと、何よりも性能がいい」

「なるほど、そうなんですね」

「まぁ、それよりも強い素材はまだまだあるから、今後頑張って倒してくれ」

「分かりました。じゃあ、そろそろ行きますね。装備ありがとうございました!」

「おう! 予約は埋まってるが、素材の買取はいつでもやってるからな」 


 カヌスさんから20万Gを受け取って外に出る。


「じゃあ早速装備装飾品を付けるか」


 装備装飾品の暗闇の照明を四王の小手に付ける。


名前:ユーマ

レベル:18

職業:テイマー

所属ギルド :魔獣、冒険者

パーティー:ユーマ、ウル、ルリ

スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』

装備品:四王の片手剣、四王の鎧、四王の小手(暗闇の照明)、四王のズボン、四王の靴、幸運の指輪(ビッグ・クイーンビー)


 これでしばらく装備の心配はいらないな。


「ちょっとご飯の買い溜めでもしに行くか」

「クゥ!」「アウ!」


 ということではじめの街に行こうと思うが、この数時間移動してばっかだな。


「よしよし、急がなくていいから」

「クゥ!」「アウ!」


 2人ともご飯の言葉には敏感だ。特に今はお昼時で、お店から食欲をそそる良い匂いがする。


「ほら、久しぶりにギムナさんとことベラさんとこ行くぞ」


 2人にそう声をかけてクリスタルまで向かった。




「うわ、ギムナさんとこ混んでるな」

「クゥ」「アウ」


 ギムナさんがやっているのは小さな串焼きの屋台なので、プレイヤーですぐ溢れてしまう。

 いい匂いがするし、その場で食べる人も多くて、これは買いに行けないな。


「残念だけど後でまた来よう」

「クゥ」「アゥ」


 少し落ち込んだ2人を連れてベラさんのお店へと向かう。


「良かった、流石にこっちは大丈夫か」


「いらっしゃいませ」

「ルリ、今日は食べたいやつ2つ頼んでいいぞ。ウルも2つ好きなの選んでくれ。選び終わったら店員さんに伝えて。俺はあっちでピザとパン買っておくから。店員さんすみません、ショートケーキとチーズケーキ1つずつと、あの2人が選んだもの4つ、全部合わせて6つになると思います。隣で買い物してくるので、終わったら戻ってきますね」

「うふふっ、かしこまりました。ではご用意してお待ちしてますね」


 ということですぐ横にパンとピザを買いに行く。


「ちょっと多めに買うか? いや、2人が飽きても嫌だしピザもパンも3食分くらいにしとくか」


 パンとピザを買って、またウル達のところへ戻る。


「ウルとルリは決めたか?」

「クゥ」「アウ」


 時間がかかるかもなんて思ってたが、案外すぐに決められたようだ。


「おまたせしました、どうぞ」

「ありがとうございます」


 お金を払って出ようとした所で、声がかかる。


「ユーマ様、お久しぶりです」

「ベラさん、お久しぶりです」


「アウ!」

「いや、デザートの前にピザかパンを食べような」

「クゥ!」

「ウルはそれでも足りなさそうか、もう1つ出すから待って」

「ふふっ、元気そうで良かったです」


 確かにベラさんには今後どうするか悩んで相談した時から会ってないのか。もしかしたら心配させていたのかもしれない。


「ベラさんのアドバイスのおかげで今も楽しく出来てます。あの時は相談に乗ってくれてありがとうございました」

「いえいえ、少し話を聞いただけですので。もしよろしければ、これまでのお話をお聞きしても?」

「そうですね、じゃあまず、あの後ボスを倒しに行くことになっ……」


「で、北の街でマウンテンモウっていうモンスターを捕まえ……」

「あら、それは良かったですね。私のお店で使って……」


「カジノがほんとに運が良かったのと商品……」

「ユーマ様もギャンブルはほどほどに……」


「マグマの番人っていうボスから宝箱が……」

「冒険には夢がありま……」


「ライドホースのお腹に赤ちゃ……」

「無事に生まれると良……」


 ベラさんに会っていなかった間の話をしていると、話す内容が多くて結構会っていなかったんだなと気付かされた。


「お話とても面白かったです。またお暇な時や、ケーキが食べたくなった際は是非いらしてください」

「また来ますね。美味しかったです。ありがとうございました!」

「クゥ!」「アウ!」


 そして帰りにまたギムナさんの屋台を見るが、余っている肉を渡して焼いてくれるような状況では無さそうだ。


「また今度だな。待ってるわけにもいかないし、今回は残念だけど諦めよう」

「クゥ」「アウ」


 少し落ち込んだ2人を見て申し訳なくなるが、また近い内に来ようと心に決めて、歩き出すのだった。



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