第39話

「だから、ここを買いたいんです!」

「いや、私にそう言われましても」


 北の街の家から職人ギルドへ続く道の途中で、おそらく商人ギルドの人と思われる格好をした男性と、複数人居るうちの1人のプレイヤーが、だだっ広い畑のど真ん中で言い合っていた。いや、プレイヤーが一方的に興奮して話していたが正しいか。


「どうしたんですか、とは言いに行けないよな」


 もし興奮しているプレイヤーが今にも手を出しそうだったら止めに行ったが、1人のプレイヤーが暴走しているだけで、他の人達は冷静に成り行きを見守っている感じなので、放っておいても大丈夫だろう。


「この辺にもプレイヤーがちらほら見えるようになってきたな」


 他の街と比べたらまだ全然居ないとは思うが、それでも最初の頃よりは増えた。

 俺1人しかプレイヤーが居なかった頃が懐かしい。


「よし、多分売ってるだろう」


 やっぱりこの街の職人ギルド周りは賑わっている。


「いらっしゃい」

「マウンテンモウのミルクを保存しておく容れ物を買いたいんですけど」

「そうかい、どれくらいの大きさでいくつ欲しい?」

「じゃあ20Lを4つと10Lを4つで」

「はいよ」


 すると、想像していた通りの形をした、銀色の容器が出てきた。


「これ全部で12万Gだけど、買えるか?」

「はい。ありがとうございます。あ、このコップ6つとその食器を6つ、大きいお皿と小さいお皿も6つお願いします。あ、その金属の串も50本くらいお願いします。あ、そのお箸・スプーン・フォークも6つで、料理用のお箸とボウル大中小、おたまにヘラに……」

「お、おう、分かった」


 結局20万G払って、ミルク保存缶と食器と料理用の道具を一式揃えた。


「なんか一気に買っちゃった」


 気付いたら止まらなくなってた。

 癖で6つずつ買ったけど、今はウルとルリしかいないからこんなに買わなくてよかった。


「ウルに箸使えってい言うわけにもいかないしな」

「クゥ?」


「そうだ、この際だし鉱石の加工をお願いしよう」


 キプロと一緒に採掘ポイントを探して掘った鉱物が残っているので、取り敢えず使える状態にしておきたい。あと、宝石になる原石らしきものも磨いてもらおう。


「すみません」

「うぇ、うちに客が来るなんて珍しいね。どうしました?」

「鉄鉱石を掘りに行った時に色んなものが掘れまして、一旦延べ棒的なやつにして欲しいなと」

「なるほどなるほど、分かりました。少し時間がかかりますがよろしいですか?」


 プレイヤーの鍛冶師ならすぐ出来るだろうが、俺には無理なのでお願いする。


「あと、原石を磨いてくれる人ってどこに居ますか?」

「それもうちでやってるよ。頼んどこうか?」

「じゃあお願いします」


 これで一旦職人ギルドでやることはなくなったか?


「あ、不思議の種と苗で頭がいっぱいになって、骨粉使うの忘れてた」


 しかし俺は骨粉の正しい使い方が分からないので、ここに居る人に聞いてみる。


「ちょっと聞きたいんですけど、骨粉ってどう使えばいいとかあります?」

「そりゃあ土に混ぜ込んどきゃ良いんじゃねえか?」

「あ、そうなんですね。ありがとうございました」


 それ以外の方法あったっけ?って顔で見られて少し恥ずかしかったが、急いで帰ってさっき植えた場所だけでも骨粉を混ぜ込むことにする。


「急ぐぞ」

「クゥ!」「アウ!」


 職人ギルドから急いで帰ってきて、魔法の万能農具を使って混ぜようとすると


「え、凄い。種の位置が分かるのと、なんとなくこれくらい混ぜとけばいいって感覚がある」


 あと今気づいたが、種を蒔くのも苗を植えるのも、どれくらいの間隔を開けて植えればいいかなんて悩みも全く無かった。


「恐るべし魔法シリーズ。ありがとう!!」




「これくらいでいいか」


 いい感じに混ぜられたと思うし、間に合ってよかった。


「じゃあ、ミルク保存缶も買ってきたし、もっかい絞ってやるか」


 その後はマウンテンモウの乳搾りをして、結局絞りたてのミルクが10Lずつ手に入った。

 どちらももう少し絞れそうではあったが、これから毎日絞ることにはなると思うので今回はこれで我慢してもらう。


「ユ、ユーマくん!!」

「は、はい?」


 絞り終わったあと、ウルもルリもマウンテンモウも、皆気持ち良さそうにその場で寝転がるから、俺も一緒になって寝転がっていると、フカさんが必死そうな声で俺を呼んでいた。


「ここに居ます! どうしました?」

「ハァハァ、はぁはぁ、ふぅ、ありがとう。落ち着いたよ」


 マウンテンモウ達はびっくりしたのか俺たちの近くから逃げていった。


「先程商人ギルドに行ったんだけど、ユーマくんが3000万G払ったって言うからね。びっくりしてここまで来たんだ」

「あぁ、確か昨日の夜に払いましたね。本当に何から何までありがとうございました。これからもご迷惑をかけることもあるかもしれないですが、よろしくお願いします」

「あぁ、これはご丁寧にどうも、じゃなくてね! 本当に払ったのかい?」


 反応が面白くてもう少し続けたいが、これくらいにしておこう。


「そうですよ。運良くお金を手に入れることができました」

「運良くって、3000万Gも払ったら今はどれくらいあるんだい? 無理には聞かないが」

「1000万と少しですね。余裕はありますけど、お金はできるだけ増やしていきたいとは思ってます」

「そ、そうか。それなら問題ない、かな」


 あ、そういえば丁度いいしフカさんにミルクを飲んでもらおうかな。


「さっきマウンテンモウからミルクを絞ったんですけど、飲みます?」

「ん、そうなのかい? では少し頂こうかな」

「丁度いいですし家に行きますか」


 少しだけだが前よりも物が増えた家にフカさんを案内しよう。


「うぇっ、そ、その置物はどうしたんだい!?」

「あぁあれですか。あれはカジノイベントの景品でもらった神聖な置物です。向こうにあるのがマグマな置物ですね。マグマの番人っていうモンスターを倒したあとに出た宝箱に入ってました」


 少し固まったままのフカさんは、真剣な表情をしてこちらを見てくる。


「ユーマくん、一生のお願いだ。あの、神聖な置物を私に貸してくれないかい?」

「あ、良いですよ。必要ならあげてもい「ありがとう!」」


 いつものフカさんとは違い、とても感情が高ぶっている。


「ちなみにあの置物ってそんなに凄いんですか?」

「必要な人にとっては何ものにも代え難い、あれはあらゆる悪いものを取り除く置物なんだ。おそらくこのユーマくんの家、畑、もしかしたら敷地内全体に影響があるかもしれない」


「じゃあ、答えられなければ答えなくて良いですけど、なんであの置物が必要なんですか?」

「娘が病気でね。それも難病で、ここから遠い大きな治療院で過ごしているんだ。私の妻も娘について行ったよ」


「お辛い話をさせてしまってすみません」

「いや、娘も最近は元気らしくてね。今度家に帰ってくるんだ。ユーマくんにライドホースの依頼を出したのも、妻や娘とライドホースに乗って思い出を作ってあげようと思ってね」

「そうだったんですね。じゃあもっと元気な他のライドホースを捕まえてくる方が良いですね」

「いやいや、それはもう大丈夫。あの2頭で十分さ。依頼も達成ということにしておこう」


「そうですか。じゃあ何か俺からもプレゼントを考えておきますね。ちなみにいつ帰ってくるんですか?」

「それが予定より早く帰れそうでね。3日後には着くそうだ」

「分かりました。じゃあもう神聖な置物の方はお渡ししておきましょうか?」

「いや、それは申し訳ない。あの置物のおかげでライドホース達も今助けられているかもしれないしね」


「でも、そうなると難しいですね。フカさんの家族が帰ってきた時丁度俺がこの世界にいない可能性もありますし、どうしよう」

「そこまで急がなくていいよ。それに良いことを思いついた。娘にもユーマくんの敷地に立ち入り許可を出してくれれば、いつでも入ることができる。もちろん勝手にユーマくんの物に触ったりさせないと約束するよ」

「確かにそれなら良いですけど、許可を出す前に娘さんが体調を崩したり、何か必要になることが起こったら勝手に持ってっちゃってくださいね。俺の許可を取ろうとすれば、結構待たせることになると思うんで」

「その時はそうさせてもらうよ」


 本当にありがとう、と何度もお礼をしてくるフカさんに、話題をそらす意味でも気になっていることを質問していくことにする。


「あの、結構使い道が分からない物があって、教えてもらってもいいですか?」

「私に分かることなら答えよう」

「じゃあそれこそあのマグマな置物なんですけど」

「うーん、分からないね。暖かさを維持してくれるのかな? ここは寒くないから違いが感じられないけど」


「じゃあマグマな楽譜と、マグマ袋なんですけど」

「楽譜は演奏してからじゃないと分からないね。演奏しても分からないかもしれないけど。マグマ袋は何か物を入れてみた?」

「いや、何も入れてないですね」

「なら、そうだな。さっきのミルクを一瞬だけ入れてみるのはどうだい?」


 ということで10Lのミルク保存缶をマグマ袋の中に突っ込む。


「どうだい?」

「うーん、ちょっと持っている手が温かいですね」

「じゃあもう少し入れてみようか」


 ということでもう3秒長く入れる。


「うぉ、熱くなってますね」

「沸騰はしてないね。効果としては袋の中に入れると熱くなることは分かったわけだ。一応そのミルクは外で冷ましてから冷蔵室にでも置いておくといいよ」


 ということで今は外で冷やしておく。


「これで全部の効果じゃないかもしれないですけど、少しでも知れたのは良かったです。で、一応これが最後なんですけど、切れる鋏っていうもので」

「凄い切れ味が良さそうだね。これも申し訳ないけどわからないな。力になれなくてごめんね」

「いや、大丈夫です。自分だけだと試すのにも勇気がいったので、マグマ袋だけでも少し進みました」


 そこからはフカさんに、錬金部屋と鍛冶部屋に置いてある魔法シリーズの錬金釜と金鎚を見せて、また驚かれるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る