第28話

「いやぁ、これで初日にやりたいと思ってたことは全部できたな」


 依頼に冒険にボスにお金稼ぎ、全部出来て良かった。上手く行き過ぎて、少し怖いくらいだ。


「今はゲーム内が19時半で、現実は朝の6時半か」


 大体6時間置きくらいにログアウトして休憩は取っていたし、また今からログアウトして戻ってきてもいいんだが


「今日はこれくらいで終わっとくか」


 昨日の12時から始めて18時間、ゲーム内では2日と6時間遊んでいたことになる。


 前までならスタートダッシュは重要なのでまだまだ続けるのだけど。

 楽しむと、好きにやると決めたからには、ここは思い切って寝てみよう。


「じゃあウルもルリも、ありがとう。ご飯は2人のインベントリに入ってるのを食べておいて。仕様的にどこか遠くへ行けるとは思わないけど、一応敷地内に居るようにね。あと、出来るようなら水やりもお願い。じゃあ、また1日後か2日後くらいに会おう。バイバイ!」

「クゥ!」「アウ!」




 ログアウトしてきた俺はカプセルベッドから出て、軽い食事をとる。


「もう外は明るいのか」


 忘れない内に今日俺がコネファンをプレイした動画を、AIに作ってもらう。また起きた時に確認して投稿しよう。


「まさかゲーム初日で24時間以内に風呂に入れるとはな」


 寝ているだけなのでそこまで汗をかいたりはしないが、それでも長時間起きていると風呂に入らないと気持ち悪い。


「明日はどうしようかな」


 最後に手に入れた幸運の指輪は、本当に幸運だったから手に入れることができたのだろうし、その効果を早く見てみたい。


 あとは北の街の依頼をもう少し受けて、街の人と仲良くなりたい。

 はじめの街では結構知り合いが居たが、北の街ではフカさんだけと言ってもいいし、フカさんもはじめの街で仲良くなったと考えると、実質誰とも仲良くなれていない。


「あとカジノイベントも楽しみだな」


 幸運の指輪をウルとルリが装備していたのかと思うくらいの豪運でチップを稼ぎまくったお陰で、お金の心配がなくなったのは本当に大きい。


 カジノイベントも楽しみだし、どんな景品があるのかも楽しみだ。


「駄目だ、早く寝ないとインするのが遅れる」


 ゲームでやりたいことが頭に浮かぶのを必死に抑えながら、俺は寝ることに集中するのであった。




「ん゙ーー、いま何時だ?」


 時計を見てみると15時前、ゲーム時間にしてほぼ1日寝ていたことになる。


「よし、とりあえず人間らしい活動はするか」


 歯磨きやら食事やら朝風呂ならぬ昼風呂やら、とりあえずゲームをするために今出来ることはしておく。


「洗濯物は、適当に畳んで置いとくか。どうせすぐ着るしな。あとは動画の確認か」


 学習能力もあり、もう今では手を加えることもほぼなくなったAIが作った動画を、時間を指定して予約投稿しておく。


「ちょっとドキドキするけど、この動画が公開される頃には俺はゲームの中だろうし、緊張するだけ無駄か」


 これまでとは違う、攻略ではない動画が視聴者に受け入れられるのか心配だが、面白いと思ってくれる人がいることを願おう。


「よし、全部終わったし、やるか」


 なんやかんや時間がかかり、ログインしたのは17時を過ぎた頃だった。


「あ、今は夜なのか、うわっ、外真っ暗」


 家の中は電気がついているが、外は真っ暗で何も見えない。


 ウルとルリは俺と同じベッドで横になっており、起こさないように移動しようとしたのだが


「クゥ? クゥクゥ!」「アウ? アウアウ!」

「あはは、くすぐったいな。2人とも起こしてごめんな」


 夜ではあるが、2人に疲れのようなものはみられないため、魔獣には睡眠が必要ないのは本当なのだろう。


 現実の1日毎に夜がある日とない日は別れているが、夜の間しかログイン出来ない人も居るだろうし、そこら辺は少し配慮されているのだろう。


「じゃあちょっと食べてから行こうかな。この時間だとギルドはやってないだろうし、散歩でもするか」



 

 2人とご飯を食べ終わり、家の外に出る。


「虫の声もカエルの声も聞こえてくるから、田舎のおばあちゃん家を思い出すな」


 このゲームで夜を体験したのはこれが初めてだが、北の街は夏休みで田舎に行った時のような感じがする。


「じゃあクリスタルでいろんな街に行ってみるか」


 まずははじめの街に行くことにする。


 


「おお、北の街と違ってだいぶ明るいな」


 プレイヤーも初日ほどではないがそこそこ居て、装備もちゃんとしたものをつけている人が多い。


「ただ、夜の街に興奮している人は俺しかいないようだな」


 皆もうこの暗さには慣れているらしい。ゲーム内で3時だから、流石に今興奮している人は俺みたいに途中でログインしてきた奴だけだろうな。


「やっぱりお店は閉まってるか」


 あれだけずっと不眠不休で働いてた人達も、夜は休んでいるんだな。


「じゃあ次の街に行くか」


 次は東の街に行くことにする。


 


「おお、やっぱり海はいいな。また北の街とは違った自然の良さがある」


 あまりこの街は探索してないが、北の街と似たような雰囲気を感じる。


「お、ちょっと起きてる人も居るんだな」


 プレイヤーかもしれないが、奥の方で釣り竿を何本も設置している人がチラホラいる。


「夜にしか釣れない魚とかも居るんだろうな」


 こういうのにハマってしまうと、冒険をメインにしてたのが、いつの間にか釣りメインになってたりするんだよな。


 あとはそもそも釣りを目的にゲームを始める人もいる。


「で、あそこが魚を朝早くから売る場所だよな」


 あそこにも人は何人か居るが、あれは確実にこの世界の住人だな。荷物を運んだり、氷を用意したり忙しそうだ。


「まぁここは今度来た時に色々回ってみるか」


 そうして次は南の街に行く。




「やっぱりここが今は1番多いのか」


 プレイヤーの人数がはじめの街と同じくらい居て、お店もチラホラやっている。


「やっぱり冒険者の街なんだな」


 皆強そうな装備を着ており、強いプレイヤーはここに集まっているのだろう。


「冒険者ギルドもやってるのか」


 もしかしたら他の街でもギルド内に1人はいるのかもしれないが、ここは普通に運営している。


「そろそろ寝るか?」

「いや、もうちょいやってからかな」

「誰かパーティー組みましょう!」

「夜限定のモンスターの情報売りますよー」

「お前ら次やったら通報するからな」

「ひーーっ、もう2度と騙したりしません!」

「すみませんでしたーっ!」


 活気があるというか、荒れているというか、いろんな声が飛び交っている。


「たぶん皆寝てないんだろうな」


 もうハイになっている人が多いし、頑張って眠たくならないようにしているのだろう。


 身体に限界が来る前にゲームからログアウトするようにはなっているが、皆まだゲームをやりたいのか、身体を騙そうと必死だ。


「ふむふむ、なるほど、なんとなくこの街のことは分かったな」


 いろんなプレイヤーが変なテンションかつ大きい声で話してるおかげで、ダンジョンが存在しているという情報を手に入れた。


「まさかダンジョンが個別になってるとは」


 前に狩り場の独占が起こるかもしれないと心配したが、ダンジョンがパーティー単位で別になっているため、その心配は少し薄れた。


「あとはドロップアイテムの存在か」


 やはりモンスターのドロップアイテムから装備が出た人は居るらしく、特にダンジョンの敵を倒すと外のモンスターよりも装備を落とす確率が高いそうだ。


「この人達はダンジョンで装備を手に入れてたんだな」


 少し前まではみんな同じような装備をしていたのに、この街の人達は色んな装備を身に着けているからどういうことだろうと思っていたのだが、ダンジョン産だとは思わなかった。


「俺の装備も今のところなかなか強い方だとは思うけど、ダンジョン産も気になるな」


 もしかしたらここから少しの間はダンジョン産の装備が活躍するのかもしれない。


「これはすぐにでもダンジョンに行きたいが、最後の街に行くか」


 ダンジョンに後ろ髪を引かれながら、西の街に向かった。




「ここも明るいな。というか眩しい」


 こんな時間なのに、プレイヤーではないこの世界の住人も起きていて、楽しそうに遊んでいる。


 やはりこの街はいつでも楽しめることが多いのだろう。


「どの街よりも自由な雰囲気は感じるな」


 カジノ帰りにお店による人も多いのか、色んな店がやっていて、賑わい方はこんな深夜なんて思えないくらいだ。


「そう言えばカジノのイベントって今日だったっけ」


 カジノの人に言われるがまま、チップをそのまま預けたのだが、今思うとイベント前から景品をゲットできるだけのチップを持っているのは少しズルかったか。


「まぁお店の人に言われたんだし、俺が気にすることでもないか」


 もしあまりにも申し訳なく感じたら、また1からチップを稼ぐのもありだな。


 特に幸運の指輪を手に入れた今なら、ウルとルリにも負けないくらい稼げるはず、だよな?


「なんとなくどの街の雰囲気も知ることができたから、見て回ったのはよかった」


 てことで、今日の昼か遅くても夕方にはカジノに来るとして、それまではダンジョンに行ってみるか。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る