第27話
「ありがとうございました」
冒険者ギルドで受けた配達依頼を今終え、もう1つの討伐依頼に向かう。
「結局依頼内容は似たようなものだな」
劇的に何かが変わるとは思っていなかったが、こうも同じような内容だと、ギルド内で騒いでたプレイヤーの気持ちもほんの少しだけ分かる気がする。
「南と西はそういったところが変わってて面白く感じるのかもな」
冒険者向けの南の街と、俺達もカジノで遊んだ西の街は、はじめの街では出来なかったことができるのは間違いない。
「まぁ今は俺の家がある北の街に何か貢献することを優先させてもらおう。ウルもルリもそのお陰で美味しいもの貰えたしな」
「クゥ!」「アウ!」
配達依頼時に職人ギルドの人からグラープを少しもらってご機嫌な2人には、依頼内容に不満はないのだろう。
「お、あれはウッドウォーカーじゃないか?」
このゲームではスライム以外で初めての動物型ではない敵だ。
「一応予想通りなら火に弱いだろうが、火魔法を使えない俺達には関係ないか」
相手の動きは遅いが、一度拘束されてしまえば厄介なことになるはず。
「てことで単純な力勝負でいきますかっ!」
ウッドウォーカーを思いっきり斬りつけ、反撃してきた木のツルも全て避けながら、ダメージを与え続ける。
『ウッ、ゥ゙』
「よし、思ったよりもいけるな」
14レベルなので、まだ浅いこのあたりの敵には負けることはないと思っていたが、まだまだ先に行っても大丈夫そうだ。
「クゥ」「アウ」
「すまんすまん次は2人にやってもらうよ」
ドロップアイテムはウッドウォーカーの枝という使い道が分からないもので、どれだけの価値があるのかも分からない。
「じゃあこのあたりを探索して、どんどん狩れるモンスターは狩ってこう」
「クゥ!」「アウ!」
ということで約30分はこのあたりを歩き回っていたのだが、なかなか討伐対象のモンスターが出てこない。
「もしかしたらもう少し奥なのか?」
と思っていると、目の前に嫌な音とともに針が飛んできて、慌てて避ける。
「やっといたな、ビッグ・ビー」
奴が飛んでいる音だけで、恐怖心と嫌悪感を抱いてしまう。それくらいあの大きさの蜂はこちらにとって受け入れられないということだ。
「しかもお前は蜂蜜も美味しくないんだってな。それどころか他の美味しい蜂蜜を作る蜂の巣を食べるとか」
他のゲームでは何度も戦ってきたが、蜂は苦手だし近づきたくない。
ただ、蜂蜜は美味しいし、その蜂蜜を奪うような敵は倒さなければならない。
「よし、出番よ! ウル、ルリ、やってしまいなさい!」
「クゥ!」「アウ!」
悪役令嬢のような口調になってしまったが、ウルとルリは俺の指示に従い戦ってくれる。
別に俺だって戦えるが、最初にウッドウォーカーと1人で戦ってしまったお詫びに、今回は2人に任せただけだ。
「てことで俺はその間にこの辺りを探索しますか」
ビッグ・ビーの来た方向を見てみると、遠いところにビッグ・ビーが何匹も居て、近くの穴を出入りしている。おそらくあそこが奴らの巣だろう。
「俺はお前らに恨みはないが、俺達のレベル上げに貢献してもらうとしよう」
こういう数が多くて倒しやすいモンスターはボーナスモンスターとされており、ビッグ・ビーも蜂が嫌いな人にとっては戦いたくもないだろうが、レベル上げにはもってこいだ。
「クゥ!」「アウ!」
丁度ウル達も倒したようだし、早速巣を潰しに行きますか。
「いいか、ウルの氷魔法で巣の穴を塞いで、外にいるやつは戦うぞ」
「クゥ!」「アウ!」
ビッグ・ビーの巣の近くで、作戦の確認をする。
失敗すれば巣の中から大量のビッグ・ビーが出てきて大変なことになるだろうが、それでも挑戦する価値がある。
「行くぞ、3、2、1、今だ!」
「クゥ!」
よし! 穴を防ぐことには成功したが、もしかしたら他の出入り口もある可能性を考えて、ルリには巣の近くを見張ってもらう。
「ウルはそのまま外にいる奴らと戦ってくれ!」
俺もウルのサポートをしつつ、ビッグ・ビーの巣から意識は外さない。
「くそ、やっぱりもう1つ穴があったか」
奥の方にもう1つ穴があり、そこからビッグ・ビーが何匹も出てくる。
が、それでも塞いだところと比べたら小さな穴なので一気に何匹も出てくることはないが、時間が立てばここらは蜂だらけになってしまうだろう。
「アゥゥゥ、アウー!」
「ナイスだルリ!」
大きな岩を持ち上げ、空いた穴に投げ込むことで完全に巣を封鎖できた。
「あとは倒すだけだな」
ウルの氷魔法が相手との相性が良く、魔法が当たった敵は動きが鈍くなり、かなり倒しやすい。
「よし、これで外のやつは倒せたし、あとは巣を処理しようか」
どこまで大きいのかわからないが、地面の奥深くまで続いているであろうビッグ・ビーの巣を、俺の生活魔法で出した火の煙で満たすことにする。
「小さい穴をあけて、火を入れたら閉じよう、よし、完了。まぁ待ってる間は暇だよな」
未だに塞いだ穴の近くからブンブン音がなっているため、まだ生きていることはわかる。
「待ってる間に食用の蜂の巣でも探すか」
ビッグ・ビーがいるということは、餌になる相手が居るということ。
そして奴らの天敵が近くにいないということでもあるはずなので、ビッグビーより強い敵と出会う確率は低いだろう。
「お、あれはフラワー・ビーっていうのか」
蜂も一応飼うことが出来るらしいが、外から取ってきて飼うことはなく、昔から育てている家でしか今は飼われてないらしい。
「蜂蜜は欲しいけど、そのために倒すのもなんか違うよな」
倒さなくて良いなら無駄に戦いたくはない。
「ウル、これ持っていって、蜂蜜と交換とか出来ないか?」
インベントリにあるアポルの実とオランジの実を持っていってもらったが、交換して貰うことは出来なかった。
「やっぱりフラワー・ビーっていうだけあって、花が必要か」
そもそも交渉になってるのかどうかも分からないが、攻撃してこなかっただけ良しとしよう。
今回は諦めることにして、また機会があれば花を持ってきて挑戦してみることにする。
「お、もうブンブン羽の音はなってないな」
おそらく外に出ようと出入り口の付近に居たビッグ・ビーは気絶しているのだろう。今のうちに倒して早く経験値に変えたい。
「てことでウルさんルリさん、お願いします」
「クゥ」「アウ」
2人はそのままビッグ・ビーをどんどん倒して巣の奥まで進んで行く。
「大丈夫かな?」
2人に任せて俺は外で待機している。もちろん俺の体が巣の中に入るには大きいから、入るのが苦じゃない2人に任せただけであって、ビビっているわけではない。と、自分に言い聞かせる。
「でも、はじめの街のようなビジュアルが優しいモンスターじゃなくて、結構苦手な人はとことん無理そうな虫系のモンスターも出てくるようになったか」
俺もビッグ・ビーは倒せはしたが、出来れば戦いたくない相手なので、これからそういった敵も出てくると考えると、面白くなってきた。
「とりあえず北の街のモンスターは不人気そうなのは確定したから、狩り場には困らないな」
インベントリに未だ入ってくる大きい毒針の数が増えていくのを眺めながら、俺はアポルの実を齧るのだった。
《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》
《ルリのレベルが上がりました》
「2人ともお疲れ様」
巣の中を倒し回ってくれた2人のお陰で、レベルが2も上がった。
名前:ユーマ
レベル:16
職業:テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』
装備品:大荒熊と荒猪の片手剣、大荒熊と劣狼の革鎧、大荒熊と劣狼の小手、大荒熊と劣狼のズボン、大荒熊と劣狼の靴
名前:ウル
レベル:16
種族:ホワイトウルフ
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『ホワイトウルフ』『氷魔法』
装備品:黒の首輪(魔獣)
名前:ルリ
レベル:16
種族:巨人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ
スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人』
装備品:黒の腕輪(魔獣)
やっぱりボスを倒しまくってもあまりレベルが上がらなかったことを考えると、先に進んで適正レベルかそれより少し高い敵を倒しまくる方が効率は良いのだと感じた。
「というか、大きな毒針が500もあるぞ。ん、あれ? 幸運の指輪?」
全く身に覚えのないものがインベントリに入っていた。
名前:幸運の指輪(ビッグ・クイーンビー)
効果:幸運値上昇、状態異常無効
ドロップ品:特定のモンスターから低確率で手に入る指輪。装備者の幸運値を上昇させ、ドロップしたモンスターによって、もう1つの効果が変わる。
なんとあの巣の女王蜂のドロップアイテムだった。
「俺が見ることも出来なかったモンスターから初めての装備品をドロップしてしまった」
嬉しいが、少し複雑な気持ちだ。
「クゥ」「アウ」
「いや、ありがとな。2人のお陰で俺の装備のアクセサリーが手に入ったよ」
せっかく取ってきてくれたのに微妙な顔してちゃ失礼だよな。2人には感謝だ。
そして姿形もわからぬビッグ・クイーンビーよ、ありがとう。
「ステータスは筋力・知力・敏捷・器用・頑丈・精神だろうから、幸運はまた違うものなんだろうけど、この場合はドロップ率とかが上昇するのかな?」
特に悪い効果もないし、状態異常無効は破格の性能ではないだろうか。
「書いてある説明的には、他のモンスターがドロップする幸運の指輪は、状態異常無効の部分が違った性能なんだろうな」
他のモンスターからドロップする幸運の指輪も見てみたい気持ちはあるが、幸運の指輪を手に入れた今なら、それも可能なんだろう。
「あるとは思っていたけど、これで装備品もモンスターからドロップすることを知れたし、めちゃくちゃ良かった。ほんとにありがとう!」
「クゥ!」「アゥ!」
ウルとルリを撫で回しながら北の街に帰るのであった。
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