間話4
「俺があのモンスターのタンクするから、他はみんなで倒して」
「それは俺に任せろ!」
「わたしもそっち手伝うわ」
複数体の敵に対し連携を取りながらモンスター達と戦うパーティーが居た。
「よし、ナイスナイス」
「もう初心者とは言わせないぞ」
「お前らも強くなったなぁ」
モンスターを倒し終わり、その場で少し休憩を取る。
「あんな特訓受けたら、少しの時間でも動きは身につくわよ」
「思い出したくない。俺の余計な一言のせいで地獄を見たんだ」
「でも、そのおかげって言いたくないけど、前よりも動きは良くなったよな」
冒険者ギルドの戦闘指南を受けたおかげで、彼らは前と比べて確実に強くなっていた。
「でも、そろそろ次の街行きたくね?」
「それもそうだな」
はじめの街からはどんどんプレイヤーが少なくなっていき、彼らもその流れに乗って次の街に行きたいと思っている。
「お金を払ったらボス討伐を代わりにやるっていうプレイヤーを最近見かけるけど、あれってなんなの?」
「そのままの意味だよ。パーティーを組んで、ボスを倒して、お金をもらう。自分の力で次の街に行けない人達も、それなら行けるってわけ」
「それってズルくないの? 自分の力で倒さないって、次の街に行く資格が無いってことなんじゃないの?」
「まぁ、生産職とかだとモンスターを狩る時間があんまりとれないからな。それにルールで禁止されてるわけでもないし。お金を取るのは正直どうかと思うけど」
「それ自体もあんまり良くないと思うけど、ボスによって料金が違うことも問題だよ。この前ボスに挑もうとしたら、あとから来た奴にこの種類のボスは予約してたって言われて、横入りされたってのを聞いた」
「感じ悪いねその人達。全部のボス同じ料金ならそんなことにもならないのに。案外ボスとギリギリの戦いするような人達がそういう商売やってんじゃないの?」
「ボスを余裕で倒せる人たちはそもそもはじめの街じゃなくて、次の街でモンスター狩ってるはずだからな」
休憩を終えて、パーティーはまたレベル上げのためにモンスターを探す。
「ま、俺達はそもそも自分達の力でボスを倒すつもりだから、ああいう連中は無視するに限る」
「そだな。もしそいつらがボス戦前に話しかけてきたら鼻で笑ってやるぜ」
「そんなことで喧嘩にならないようにね」
「へいへい」
「ほら、あそこにレッサーウルフだぞ。また食われてこーい」
「流石にもう負けないわ。もしワイルドベアーの群れが来たら倒される自信があるけれど」
「冒険者ギルドで言われたワイルドベアー亜種の目撃情報はこの辺だったし、気を抜くなよ」
「今の俺らなら大丈夫だって……大丈夫だよな?」
次の街を目指して気合を入れたパーティーは、軽口を叩きながらも着実に実力をつけていくのだった。
「はぁ、どうしましょう」
「どうしたんですか?」
ここは西の街1番のカジノで、毎日多くの人がギャンブルをしに訪れる。
「実はさっき、とんでもない量のチップを獲得されたプレイヤー様がいましてね」
「それはまあ、そういうこともあると思いますけど」
「それで支配人が、プレイヤー様が換金する際はチップ10枚で1G、つまりこれまでの10分の1にすると決定されまして」
「えっ、えええ!! それって大丈夫なんですか!?」
声が大きい、と他のスタッフに怒られ小声で話す。
「ええ。幸いチップを預けているプレイヤー様は現在1人だけですし、これから遊ばれるプレイヤー様には最初に説明することになります。そもそも初めて来るプレイヤー様がほとんどなので、カジノのシステムはそういうものだと思ってくれるでしょう」
「でも、1人チップを預けているプレイヤー様がいるんでしょう? どう説明するんですか?」
「それに困っているんです。そもそもそのプレイヤー様が原因で今回のイベントを前倒しで行うことになりました。今よりも更にプレイヤー様が獲得チップを増やすことがあれば、もう手に負えない問題になるとかで支配人が強引に。それを受けてプレイヤー様に一度チップを預けることを提案したのは私で、更にその話をした後に10分の1の話が支配人から出て、もうどうすればいいか分かりません。私は大事なプレイヤー様のお金を10分の1にしてしまいました」
どうすれば……と困っているスタッフに声がかかる。
「君、支配人から伝言があって、イベントの日は絶対に最初から居るように、とのことだ。何があったかは分からないが、まぁ、頑張れ」
「はい。ありがとうございます」
「大変ですね」
「イベントは明後日に決定した。それにそもそもイベントの日はほぼ全員駆り出されるはずだから、君もそのつもりでいるように」
「は、はい」
支配人の伝言を伝えてくれた人は、自分の持ち場に戻っていった。
「で、プレイヤー様のことなんですけど、いくら勝ったんですか? 1000万? なんなら2000万だったりして」
「……ぉく、……ん万です」
「なんですか?」
「だから、1億2000万です。あまりこういうことは大きい声で言わな「えええーー!!」」
「静かにしなさい!」
「「すみません」」
こうしてこのカジノスタッフ2人はイベント日まで、担当外のトイレ掃除をさせられるのだった。
「はぁ」
「どうされたんですか? ため息なんかついて」
少し外に出かけていた主が、先ほど帰ってきたと思えばため息ばかりついている。
「彼に畑をどうすればいいかのアドバイスを求められてね。一緒に職人ギルドの方まで種や苗を買いに行ってたんだ」
「それはお疲れ様でした。それが何か?」
「それだけで帰ってきてしまった」
「え?」
「アドバイスしてそのまま帰ってきてしまったんだ」
「それを相手も求めていたのでは?」
「君は言ったじゃないか。私は彼に依頼すら出していないのかって」
「確かにあなたが勝手に家を渡して、勝手に借金を背負わせたのに、なんのフォローもしていないことは以前指摘しましたね」
そして使用人に紅茶を頼むと、主はイスに座り直す。
「彼はまっすぐ私の言うことを聞いて、一生懸命育てようと頑張ってくれている。なのに私は依頼の1つすら切り出せなかった」
「ああ、そうなんですね。(これは面倒くさい時の主だ)」
「私は何度も依頼をしようとしたんだ。でも、それが彼の邪魔になってしまうと思うと、このままでも良いと思ってね」
「はぁ。そうなんですね」
「彼には自由にやって欲しいんだ。これは私の本心だよ」
「そうですか。では簡単な依頼をお願いして、報酬を高めにすればよろしいのでは? 一度達成したことのある依頼だと、面白みはないかもしれませんが、あまり負担もないと思われます」
「それは良い案だね。候補の1つとしよう」
「それは良かったです」
「でね、君の言う通り私は彼に重いものを背負わせてしまったのかもしれない。もしかしたらもっと冒険に出たいのに、あの家に縛られているのかも「もう結構です!」ひっ」
「お話は分かりました。それとは別の話をこちらから1つ。お嬢様が近々こちらに会いに来るそうです。奥様も一緒にいらっしゃるとのことなので、何かプレゼントでも考えておくとよろしいかと」
「なに、そうか、分かった。久しぶりに家族が揃うのは楽しみだな。それに、プレゼントか。なにか物を贈るのも良いが、それだと普通すぎるか。考えておこう」
そう言って先ほどとは違い、真剣な表情で考える主。
「では私はこれで失礼いたします」
執事はそう言うと部屋を出ていく。
「おまたせしました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「失礼します」
紅茶を持ってきた使用人は、先程まで自分が見ていたため息ばかりの主とは違い、真剣な表情をしているのを見て、たった数分で主をこのようにしてしまう執事に凄さを感じるのだった。
「ガイルさん」
「なんだ?」
「ユーマさんって、凄い人なんですか?」
「そりゃ、凄えだろ。少なくとも俺たちよりはな」
2人はユーマにレベル上げを手伝ってもらったあと、はじめの街に戻っていた。
「私、あんなに強い人見たことないです」
「それは俺もだ。どのゲームでもレベルを上げればある程度の強さにはなれるが、それ以上になるためには実力が、プレイヤースキルが必要だ。攻略組はレベルなんか関係なしに強い超人的な奴ばっかだが、ユーマはたぶんその超人達の中でも上澄みの超人だろうな」
「なんでそんな人が1人で、いや、魔獣も合わせたら3人ですけど、私達のお手伝いをしてくれたんですかね?」
「そもそも俺が呼んだんだ。お前は途中で誘ったイレギュラーな」
「あ、そうでした。でもガイルさんはそんなに強くなかったですよね?」
「うるせぇ。お前自分のこと棚に上げてよく言えるな」
「す、すみません」
ガイルがメイを叩こうとするが、いつものことなのか魔獣のピピは庇おうともしない。
「まぁユーマが言っていたのが本当なら動画投稿をしてるらしいし、気になるなら見てみればいいんじゃないか?」
「そうですね。でも、ゲームがやりたいのでしばらく見ることはなさそうです」
「そうかよ。あ、ちなみに前に素材を大量にくれたのはユーマだからな」
「ええっ、それは先に言ってくださいよ! お礼を言いたかったのに」
こうして話しながら、いつもの職人ギルドに到着した。
「では、私はもう少ししたら寝ますね。またお願いします」
「あぁ、俺ももう少しやったら寝るか。取り敢えずその戦闘力をどうにかしないと置いてくぞ」
「う、頑張ります」
「まぁ俺も手伝うが、最悪冒険者ギルドで戦闘指南受けてこい。評判はいいらしいぞ」
こうしてガイルはメイと別れて、また武器を作り始める。
「俺もちんたらやってっと、ユーマに一生武器の1つも作ってやれねえからな」
ユーマの戦闘を目の前で見て熱が入ったガイルは、寝ると予定していた時間を大きく過ぎるまで武器を作り続けるのだった。
「おい、これどうすんだ?」
「うちに聞かれてもね〜」
「無視が1番」
最前線攻略組は自分達の装備を作ってくれるクランメンバーを次の街に連れて行くため、半分に別れて生産職のプレイヤーとパーティーを組んでいた。
「俺達が次のボスを狩る。そうだよな?」
「あぁそうだ。ちなみにお前らもここで頷かねえと金が余計にかかるぞ?」
「う、はい。僕たちが並んでました」
「そんなっ、君たちは奥の方で座ってただけじゃないか」
並んで順番を待っていたパーティーが、ずっと列には加わらず端の方でいたパーティーにいちゃもんを付けられている。
「俺らはあそこで並んでたんだよ。その証拠にずっと居たことは認めんだろ?」
「それは君達が他のプレイヤーを連れてボスを倒す商売をしているからだろ。ちゃんとこの列に並んでくれないと、いつでもボスに挑戦できることになるじゃないか」
「うるせえよ。お前らは俺らの次にボスに挑めばいいだろ」
こうしてどちらが先にボスへ挑むかの言い合いをしている中、それを横目にボスへと挑戦するパーティーがいた。
「おいお前ら、ま……」
「待てって言われて待つ馬鹿がいるかよ」
「ま、あの言い合いの時間があれば、うちらは倒せるしね〜」
「すぐ、倒す」
そして数分後には、生産職のクランメンバーを次の街へ送り、最前線攻略組の3人は西の街からはじめの街に戻って、また先程のボス前に帰ってきた。
「あの、本当にボスをあの時間で倒せたんですか?」
「ん? あぁ、さっきは順番抜かして悪かったな」
「いえ、迷惑をかけていたのはこちらもですし」
「なら、次のボスをあいつらに譲ってやれよ。あれだけ先に行くって言ってたんだから、断ることはねぇだろうしな」
そう言って先程までうるさかったパーティーを見ると、ボスエリアの近くに行こうともしていない。
「あの、少し料金は高くなってもいいですから、あの方たちも譲ってくれてますし、先に行かせてもらいましょう」
「あ、いや、それは無理だ。最初に言ってた通り、蛇のボスじゃないと」
「おいお前ら、そろそろ見栄張るのやめろよ。こっちも次の街にクランメンバー連れてくために今日はずっとここに居んだよ。蛇しか狩れねえくせに他のボスの料金がなんだ? そもそも全部のボス狩れるやつはこんなとこでちまちま金稼ぎなんてしねえよ」
「うわ〜、言い過ぎ〜。うちも必死に蛇のボスを客に選ばせようとしてるの見て笑うの我慢してたんだから、そんなに言ってあげると可哀想だよ」
「それ、トドメ刺してる」
「う、くそっ、もういい。こんなのやめだ。お前ら行くぞ!」
「おい待てよ」
「ま、待ってください! お金は返してもらわないと」
こうしてプレイヤー向けにボス討伐の商売をしていた数人のプレイヤー達は、依頼を達成していないにも関わらず、報酬を持ち逃げしたということで、GM、商人ギルドから注意され、プレイヤー達にも恥と悪い噂が広まる結果となったのだった。
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