第24話

「わざわざすまんな」

「いや、俺も丁度時間ができたからタイミングが良かったよ」


 現在俺達はガイルに呼ばれてはじめの街に来ていた。


「でも、本当に俺とこいつが一緒でも大丈夫なのか?」


 そう言ってガイルが目を向けた先にいるのは、小さな鳥を抱えた少女。


「あの、メイです。錬金術師で、この子は魔獣のピピです」

「チュン」


 ガイルに呼ばれたのは、次の街に行くためのレベル上げを俺に手伝ってほしいという理由だった。

 そして集合場所に向かっている途中、知り合いの錬金術師を見つけたので、ついでに連れてきたというわけだ。


「一応確認なんだけど、ガイルもメイさんもここではあんまり戦闘はしてない感じ?」

「あのっ、私のことは呼び捨てでいいですっ」

「じゃあメイちゃんって呼びますね」

「俺は少しレベル上げをやってたが、メイはピピもいるから特に自分で戦ってないだろうな」


 ガイルだけなら一緒にレベル上げで良かったが、メイちゃんは他のゲームをやってきてなさそうだし戦闘訓練からか?

 

「メイちゃんは戦闘の自信はどう?」

「えっと、全く無いです。ガイルさんに言われてモンスターと戦った時も、ピピにほぼ任せてました」


 これはレベル上げよりもメイちゃんの戦闘を見てみるほうが先か。


「じゃあ角ウサギとスライムを倒してもらって、その後レッサーウルフあたりと戦いに行こうか」


 こうして街の外でメイちゃんの戦闘を見ることになったのだが、


「お、お願いピピっ」

「チュンッ」


 2体の角ウサギを相手に、メイちゃんはピピに戦闘の全てを任せて逃げているだけだった。


「なんか、すまんな。もうあいつは俺が見るから、ユーマはまた今度レベル上げ手伝ってくれ」


 元々はガイルのレベル上げの手伝いで呼ばれたが、ガイルが連れてきたメイちゃんの戦闘が予想以上の初心者っぷりで、俺に申し訳なくなったのだろう。


「大丈夫。メイちゃんの戦闘訓練はガイルに任せることにするけど、予定通りレベル上げは手伝うよ」


 ピピが角ウサギを倒し終わり、メイちゃんの側まで飛んでいく。


 その後を追うように、俺達も疲れ切った様子のメイちゃんのところまで歩いていった。


「お疲れ様。戦闘に関しては自分でも言っていた通り、あまり慣れてない感じだったね。でもピピがいるなら、メイちゃんが遠距離武器を使えれば今よりも戦えるようになると思うよ」

「あ、ありがとう、ございます。ピピがいなかったらと思うと、私はずっとはじめの街に居ることになってました」

「お前、もうちょっと戦いに慣れておかねえとこの先やってられねえぞ」

 

「てことで戦いに関してはガイルに今度教えてもらってください。俺は当初の予定通り2人のレベル上げを手伝うことにします」


 流石にもう少し戦いに慣れていないと、アドバイスすることも難しい。

 メイちゃんのことはガイルに任せて、ちゃちゃっとレベルを上げよう。


「じゃあついてきてくださいね。ガイルはメイちゃんの側に居てあげて」


 そう言って街から離れていく。


「ユーマは今のレベルどれくらいなんだ?」

「今は13だよ」

「えっ、それってすごく高いんじゃないですか?」


 襲いかかってきたモンスターはほぼ全てウルとルリだけで対処しているため、俺は2人と話す余裕がある。


「まぁそうかも知れないですね。全体で見ても上の方だとは思います」

「強そうだとは思ってたが、想像以上だな」

「ガイルにも早く10レベルくらいにはなってもらわないと」

「まだこちとら5レベだっての」


 生産職はどうしてもレベルを上げるのが難しいため、俺がいる間に上げまくりたい。


「そんなに高レベルだとは思ってなかった。この辺の相手だと経験値マズイだろ?」

「まぁ元々こっちはそのつもりで来てたから問題ないよ。それより俺が倒しても2人に経験値が入ってて良かった」


 ゲームによっては、高レベルのプレイヤーが低レベルのプレイヤーとパーティーを組んでモンスターを倒しても、低レベルのプレイヤーに経験値が入らないなんてことがあるが、ここはそうではないらしい。


「まぁ経験値が等分されてんのか、プレイヤーによって割合が変わってるのか分からねえけどな」


 メイちゃんのレベルが3に上がったことで、経験値が入ってることは分かったので、今はどんどん狩ることに集中する。


「あ、そうだ。ボスって倒してもいい? それとも自分で戦いたい?」


 このまま奥まで行って引き返すのはもったいない。かと言って、ボス戦というコンテンツを俺が奪うのも違う。やるとしても2人に許可を取らないと。


「俺はボスを自分で倒したい気持ちもあるが、噂では大きく分けて4種類、細かく分けたら16種類も居るんだろ? それなら1つか2つは倒してくれてもいいぜ」

「私は倒してもらって大丈夫です。むしろお願いします!」


 ガイルとメイちゃんから許可も得たことだし、そのままボスのいる場所に向かって進み続ける。


「ちなみに俺とメイは戦力にならんどころか、足手まといになるが大丈夫なのか?」

「まぁ、もう結構倒してるからね。心配しなくても大丈夫だと思うよ。それでも心配だったらウルかルリに護衛させようか?」

「クゥ?」「アゥ?」


「いや、それなら大丈夫だ。最悪俺らは倒されてもいいしな」

「わ、私も大丈夫です。出来るだけ倒されたくは、ないですけど」


 2人は俺のことを信じていないわけではないが、不安は感じているのだろう。


 それに俺が失敗した時のことを考えて気遣いまでしてくれている。


「じゃあ一応この先がボスだけど、本当に倒してもいい?」

「おう」

「お願いします」


 ボスの場所についた俺達は、ボス戦に挑もうとしてるプレイヤーがいないか確認し、誰も他にいないようなのでそのままボスエリアに入った。


「そう言えば黒の大鷲ってまだ倒してなかったよな。これはラッキー」


 一応ボスと戦う可能性も考えて、まだ倒せていないボスのいる方角でレベル上げをしていて良かった。


「ガイルとメイちゃんはそこで待機してて。すぐに終わらせるから」


 そう声をかけて、俺とウルとルリはボスの前に出る。


「じゃあ今回は俺も最初から戦ってできるだけ早く倒しに行くから、ウルとルリもそのつもりでお願い」

「クゥ!」

「アゥ!」


『ピィーーーッ』


 俺とルリめがけて攻撃を仕掛けてきた大鷲に、そのままカウンターを叩き込む。


「最初はこいつに苦しめられたが、戦い方さえ分かってしまえばやりやすい相手だな」


 ボスの中で唯一空を飛ぶ大鷲は、最初は他のボスよりも苦戦した。


 攻撃のチャンスはボスが俺達を攻撃するために降りてきたときだけで、なかなか体力を減らすことができなかったのだ。


 なので、できるだけ高いダメージを与えようと顔あたりにカウンターを叩き込んでいたのだが、それだと第2形態になったときに、空を飛ばれながら魔法を撃ってきてしまうため、さらに攻撃のチャンスが減ってしまう。


 なんとか時間をかけながら倒したのだが、また戦うことになる相手なのでどうにかしようと考えた結果、第1形態の間に翼を集中攻撃することにした。


 ボスの体力は顔を攻撃していた時よりも減らないが、明らかに空を飛ぶ時間が減り、最後には飛ばなくなった。

 そうなればあとは他のボスと同じように対処するだけで勝てる。むしろ他のボスよりも弱い状態なので、第2形態でもあっという間に倒し切ることができるようになったのだ。


『ピッ、ピィーーーッ』


「お、もう第2形態か」


 ここまでくればあとは相手の魔法を避けたあと攻撃するだけなので、危険はないと言ってもいいだろう。


「ガイル!メイちゃん! 一応最後に攻撃だけこいつに入れてくれ!」


 急に声をかけられ驚いた様子の2人だったが、ガイルがメイちゃんを引きずる形でボスの近くまで走ってきた。


「こいつに攻撃すれば良いんだな」

「合図したら後ろから思いっきりやっちゃって」

「わ、分かりました。ピピお願いね!」

「チュン」


「今だ!」

「おらっ」

「えいっ」

「チュンッ」


 一生懸命攻撃しているが、ボスの体力は減っていない。


 予想はしていたが、レベルも武器の性能も足りていないのだろう。


 これ以上続けても意味がないので、俺達でとどめを刺す。


『ピ、ピィー』


 こうして俺達は特に苦戦することもなく黒の大鷲を倒したのだった。


《ユーマのレベルが上がりました》

《ウルのレベルが上がりました》

《ルリのレベルが上がりました》


名前:ユーマ

レベル:14

職業:テイマー

所属ギルド :魔獣、冒険者

パーティー:ユーマ、ウル、ルリ

スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』

装備品:大荒熊と荒猪の片手剣、大荒熊と劣狼の革鎧、大荒熊と劣狼の小手、大荒熊と劣狼のズボン、大荒熊と劣狼の靴


名前:ウル

レベル:14

種族:ホワイトウルフ

パーティー:ユーマ、ウル、ルリ

スキル:勤勉、成長、インベントリ、『ホワイトウルフ』『氷魔法』

装備品:黒の首輪(魔獣)


名前:ルリ

レベル:14

種族:巨人

パーティー:ユーマ、ウル、ルリ

スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人』

装備品:黒の腕輪(魔獣)


「ドロップアイテムはどうだった?」

「大鷲(黒)の嘴と大鷲(黒)の羽だな」

「私もです」


 これでダメージを与えていなくてもドロップアイテムを貰えることは証明された。


 この仕様だと、レベル上げのために低レベルプレイヤーをパーティーに入れて、経験値を稼ぐ代わりにドロップアイテムを渡すなんてことも起きそうだな。


「ちなみに何レベルになった?」

「俺は8だ」

「私は7です」


 2人共この短時間でここまで上がったのなら、レベル上げとしては十分だろう。


「じゃあ一旦北の街に行くか」


 こうして俺達は北の街に向かった。



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