第25話

「わぁっ、農場が広がってます!」

「おい、すぐに戻るんだぞ」

「クリスタルまでは好きにしてていいですよ」


 あのあと俺達は北の街まで歩きながら今後についての予定を立てた。


 ガイルとメイちゃんのレベル上げは一応これで十分だと言われたのだが、俺は東のボスもこのあと倒そうと思っており、せっかくなのでそこまでは一緒に行くことになった。


「ここで買えるなら装備は買っておくといいですよ」

「た、高いけど、ピピのため!」


 途中魔獣ギルドでピピのための装備を買い、クリスタルに触れてはじめの街に戻ってきた。


「じゃあ今回は最短ルートでボスまで行きますね」


 そう言って道中は倒さないといけないモンスターだけを倒し、ボスまで駆け足で走り抜けた。


「並んでる人はいないけど今ボス戦中か」


 ボス戦中は周りから様子が見えなくなっており、誰が戦っているのか分からないようになっていた。


 もしかしたらこれまでも俺が戦っている時に待っていたパーティーがいたのかもしれないが、あまり時間をかけずにボスは倒してきたので、迷惑はかけていないと思う。


「丁度やることもないし質問していいか?」

「もちろん良いけど、何かある?」


 ガイルがそう言うので、ボスエリアが解放されるまで俺への質問タイムになった。


「まずその魔獣達はなんだ?」

「ウルとルリ? ウルはガイルも知ってると思うけど最初のタマゴから生まれて、ルリはボスを初めて倒した時にタマゴが出て、そこから生まれた」

「クゥ」「アゥ」


「いや、ルリのことは不思議に思ってたが、そうじゃなくてそのデタラメな強さだよ。流石にメイのピピがあと5レベル上がってもそこまで強くならねえだろ」

「まぁそれはスキルの影響かな。ずっと秘密ってことはないけど、一応その辺りの情報は動画投稿のネタだから、今は言いふらさないでくれるとありがたいかも」

「まぁ、そもそもユーマ自身も俺からすればありえねぇ強さだからな。動画投稿楽しみにしてるわ。なんならたまにライブ配信でもすれば良いんじゃねえか?」


 少しぼかしながら、ウルとルリがいくつか優秀なスキルを持っていることと、戦闘に関しては俺が鍛えたという話をした。


「あの、私も聞きたいんですけど、魔獣が進化するのって10レベルなんですか?」

「俺はそうだったね。ピピも多分10レベルで進化するんじゃないかな。ちなみにルリは10レベルで生まれてきたから進化はしてないよ」


 それからも2人の質問攻めを受けながら、ボス戦中のパーティーがボスエリアから出るまで話していた。


「お、ボスが空いたな。それに青い水牛は戦ったことがない最後の相手だ」


 これであいつを倒せば、俺は全てのボスを倒したことになる。


「じゃあやりますか」


 他のパーティーが誤って入ることのないように、すぐにボスエリアへと足を踏み入れた。




「付き合ってくれてありがとな。次の街に行くためのレベル上げが、ユーマのおかげで北と東の2つの街に行けるようになった」

「私も飛び入り参加なのにありがとうございました」


 青い水牛を無事倒し終わり、東の街で解散することになった。


「じゃあまたなんかあれば呼んでよ。メイちゃんもね」

「おう、またな」

「はい!」


 短い時間ではあったが、2人と色々話せてよかった。


「じゃあ俺達も戻るか」

「クゥ」

「アゥ」


 クリスタルを通して北の街の家に帰ってきた。


「そう言えばボスを倒してもアナウンスはなかったな」


《初めて全てのエリアボスを討伐しました》というようなアナウンスがあってもいいと思ったのだが、少し期待していたので残念だ。


「一応今達成してるのはボス討伐とお金稼ぎの2つで、農業と依頼の2つを次はやってこうかな」


 農業に影響しそうな依頼を受けて、農業と依頼の2つを同時に進めていくことにしよう。


「って思ったけど、まずはフカさんにアドバイスをもらいに行くか」

「クゥ」

「アゥ」


 未だに設備以外何もない自分の家を見て悲しくなり、何から手を付けるべきか聞きに行くことにする。


「すみませーん。フカさん、じゃなくてレイさんいますかー」


 フカさんの家の敷地には立ち入り許可が出ているため入れるのだが、一応家の前で待っている。


「おや、ユーマくん。どうしたんだい?」


 しばらく待っていると、フカさんが家から出てきたので、今の悩みについて話をする。


「なるほどね。確かにできることが多すぎるのも考えものだよね。でも、本当に自由にしてくれれば良いんだけど、あえて言うならまずは畑からやってみるのはどうだい? 動物はユーマくんならいつでも捕獲してくることは可能だろうし、今なら私が見てあげられるよ」


 ということでフカさんと一緒に職人ギルドまで農業に必要な物を買いに来た。


「畑を耕すためのクワなんかは家にあるから、基本道具は買わなくていいよ。それよりも種だったり肥料だったり、そういった物を見てみて」


 フカさんに言われるまま、良さそうなもの、興味があるもの、何に使うのか分からないものをその都度質問していく。


「時間のかかる果物の苗なんかは今のうちに植えておくと良いよ。世話もあまりしなくて良いし、植える場所はたくさんあるからね」

「じゃあアポルの苗とオランジの苗を少しと、ピルチの苗とグラープの苗を多めに買うか。お、イチゴの種もある」


 フカさんに言われた通り果物の苗を多めに買っておくことにする。


「あとは畑で育てるものだけど、苗と違ってこっちは普通の名前なんだな」


 キャベツにトマトにじゃがいも、色んなものが売っている。


「こっちでまで栄養を気にする必要はないし、今はトマトとじゃがいもでいいかな。あ、イチゴは多めに買っておこう」


 色々と欲しいものを買ってみたはいいものの、本当に育てることができるのか心配になってきた。


「ちなみに全部今からでも植えれば育つって言ってましたけど、本当に大丈夫ですかね?」

「季節なんかは心配しなくても北の街では問題ないし、ここに売ってるものはいつ植えても育つはずさ。でも今後他の街で買ったものは注意してね。特定の場所でしか育たないものもあるから」


 ということで、取り敢えず苗の方はいっぱい買って、畑に植えるものは少なめにしておいた。


「これをあとは植えるだけだよ。私もたまに見に行くから心配しなくても大丈夫。もし水やりが出来てなかったりしたら私の方でやっておくから、ユーマくんは安心して色々なことに挑戦してね」

「すみません。もしそういった事があればお願いします」


 それからフカさんとは家の前で別れ、ここからは買ってきたものを植える作業だ。


「木の苗はあの場所に、畑はここだから今回買ったのはここにまとめて植えて。イチゴは離しとくか……」




「これで一応全部植えたか」

 

 時間は少しかかったが、無事に植え終えることができた。


「俺がいない時はウルとルリに水やりを任せても良いか?」

「クゥ!」「アゥ!」


 今後は俺がいない日もあるだろうし、2人に任せることもあるだろうから、水やりが楽しそうで良かった。


「それじゃあこの際だし、家の設備ももう一度見てみるか」


 家の説明を受けたときはゆっくりと見ることができなかったので、皆で家を見て回ることにする。


「まず玄関だな。俺の要望通り広くしてくれたけど、結局あんまりここから家に入ることって無いんだよな」


 クリスタルで家に帰ることが多いため、最初に思い描いていた光景とは少し違うが、通りやすいのはありがたいので良いだろう。


「少し寂しい感じがするし、何か飾るものがあったら玄関に置こうかな。で、家に入ってすぐにある何も置いてない部屋ね。説明の時は見ることはなかったけど、この部屋も広いな」


 ここはお客さんが来た時に使うか、とか考えてても結局リビングの方に行くことになりそうだ。


「で、右に曲がって奥には問題の鍛冶部屋に錬金部屋か」


 元々使っていたからだろう、どちらの部屋にもシミや傷が少しある。


「まぁここはしばらく使うことはないな」


 どちらにも基本道具は用意されていたので、やりたくなったらすぐ出来そうだ。


 一応前使っていた人の忘れ物がないか確認はしたが、腐ったポーションなんかも無かったので良かった。

 ポーションが腐るのかは知らないけど。


「で、さっきと逆の左側は冷蔵室と冷凍室ね」


 ここは今育てているものが収穫できたら使うことになりそうかな。

 一応俺以外にウルとルリの分のインベントリもあるし、よほど荷物が多くならない限り収穫物もインベントリの中に入れておけるはずだけど、雰囲気重視で基本的にはここを使うとしよう。


「で、冷蔵室と冷凍室の間に地下室の階段があるわけか」


 地下室は明かりがないと暗くて何も見えないため注意が必要だ。


 ここではワインがどうとか気温がどうとか言ってた気がする。多分熟成させるための場所なのだろう。やけにここの説明は饒舌だったから、フカさんはお酒が好きなのかもしれない。


「で、右にも左にも曲がらずまっすぐ奥に行くとリビングとキッチンか」


 このリビングがこの家で一番大きく、リビングからは家の裏のクリスタルにも行けるし、露天風呂にも寝室にも、空き部屋2つにもつながっている。


「まぁここが結局一番使う場所だから、ウルとルリも過ごしやすいようにしなきゃな」

「クゥ!」

「アゥ!」


 まだものがないのでスペースが余っているが、後々増やしていこう。


「あ、この空き部屋2つは余ってるからウルとルリの部屋にできるっちゃできるけどどうする?」

「クゥクゥ」「アゥアゥ」


 2人とも首を横に振りながら俺の寝室の方に走っていった。


「じゃあこの2つの部屋も思いついたら使うくらいでいいか」


 我ながら空き部屋の使い方なんて贅沢な悩み事だなぁと思いながらも、ウルとルリに呼ばれるまでしばらく使い道を考えるのであった。



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