間話3
「なんか、意外と簡単な特訓ばっかだな」
「その簡単な特訓も最初は満足に出来なかったでしょ」
戦闘が上手くいかず、冒険者ギルドで戦闘指南を受けるパーティーが居た。
「お前らは楽そうでいいなっ」
「おいおいプレイヤー様、まだよそ見するほど余裕があるんだな」
「いや、それは違うんです教官! 声が聞こえたから、無意識にっ、話し、かけ、ちゃっ、て」
初心者の2人は隅っこのほうで素振りをしており、中央では1人のプレイヤーが教官と呼ばれる男と片手剣同士で戦っている。
「肉体的な疲れはないはずだけど、あれはやりたくないな」
「そう? わたしは早くやってみたいかも。この素振りで強くなれるとは思わないし」
「まぁそれはそうだけどさ。それはそうともう1人の教官の方に行ったあいつらは、今どうしてるんだろうな」
「最初は隣から悲鳴が聞こえてたけど、今は静かよね」
教官にボコボコにされている仲間を前にしながらも、呑気に2人は話している。
「おーい、そっちのと交代すんぞー」
「おう、もうそんな時間か。あそこの2人は素振りまでやらせたから、あとは任せる。こいつはずっと俺とやり合ってたから最初は休ませてやってくれ」
そんなやり取りを教官同士がしているが、なかなか自分達の仲間が見えない。
隣の部屋でまだ休んでいるのだろうかと思った矢先、地面に手をつきながらこの部屋に入ってくる仲間が見えた。
「も、もう、やりたく、ない」
「次の教官は優しい人でありますように。次の教官は優しい人でありますように。次の…………」
「(俺はタンク、防御する、俺はタンク、ボコボコになる、俺はタンク、立ち上がれない、俺……)」
「なんか、あいつらヤバそうじゃない?」
「さ、流石に、ちょっと怖くなってきたかも」
「おいお前、やり過ぎたんじゃないか?」
「いんや、途中までは普通に教えてたけど、物足りなくなったのか本気でやってって言われてさ。そりゃあ最後の数分くらいは実力差見せようと思ってたんだけど、結局半分くらいの時間は3人まとめて相手してたかな」
「それをやりすぎって言うんだバカ」
久しぶりにパーティー全員が同じ場所に集まったのに、初心者の2人以外が全員満身創痍の状態である。
「じゃあ君たちも行こっか。大事なことではあるけど、素振りばっかだとつまんなかったでしょ。ここからは実践もするからね!」
「「は、はい!」」
教官は初心者2人が震えていることに気づかないまま、隣の部屋へと連れて行くのだった。
「錬金の素材に困ってるなら渡せるやつがあるんだが」
「え、いいんですか?」
鍛冶師と錬金術師という奇妙なパーティーが街の外で話している。
「俺の知り合いが色んな素材をくれてな。ついでに錬金に使えるやつもあるか聞いたら貰えたんだ」
そう言ってインベントリの中から素材を次から次へと出していく。
「ちょ、ちょっと、ストップです! なんですかこれ?」
「そりゃあお前、素材だろ」
「そうですけど、そうじゃないです。知らない素材もありますし、量も多すぎてこんなに受け取れませんよ」
「まぁそうだよな。(やっぱ俺の感覚は正しいよな。多すぎだよなこれ。)」
それでも素材を出す手を止めず、全て錬金術師の前に並べた。
「まぁちょっとびっくりさせただけだ。すまなかった。ただこれは本当に貰ってくれ。俺もそれぐらいあいつに渡されたからな」
「えっと、分かりました。ありがとうございます。とりあえずインベントリに入れますね」
「そうしてくれ。俺も貰った時は驚いて何度も断ったんだが、本人はなんともない顔して渡してくるから、俺も気づいた時には受け取っちまってた」
「でも、この量だと他のパーティーの人の分もあるんじゃないですか?」
「分かんねえけどソロっぽいんだよなぁあいつ。魔獣は連れてたが」
「魔獣なら私もいますけどね」
「チュンッ」
会話をしながら2人は街から離れていく。
「そろそろ戦闘になるだろうから一応聞いておくが、どれくらい戦えるんだ?」
「前にも言った通りVRMMOはコネファンが初めてなので、全然戦えないです!」
「まぁそれはそうだろうが、戦った感じはどうだった?」
「チュートリアルのスライムは動かなかったので自分で倒せましたけど、それ以降は、全部ピピに……」
どちらもため息をつき、歩く足取りは重くなる。
「まぁ、そうかもなとは思ってたから大丈夫だ。俺もそこまで上手いわけじゃねえから、ピピにも頑張ってもらうとするか」
「チュンッ」
こうして奇妙なパーティーは、レベル上げのためモンスターを狩りに行くのだった。
「おまたせしました、どうぞ」
「ありがとう。うん、いい香りだ」
使用人から紅茶を受け取り、窓から外を眺める。
「プレイヤー様にあの家をお渡しになったと聞いたのですが」
「そうだよ。一応渡したのではなく、売ったと言うのが正しいけどね」
「利子なし、期限もなし、催促もなし、でも家は住んでいいなど、売ったとは言えませんよ」
執事を少し落ち着かせるように間を置き、紅茶を楽しみながら質問に答える。
「そうは言うが、私が自分の目で見て、話して、彼に頼んで、来てもらったんだ。少々こちらの想定よりも来るのは早かったがね」
「ですが、会ってその日に家をお譲りするなど、もう少し時間をかけるべきだったのではないでしょうか」
「まぁそういう気持ちも分かるんだけど、当たりのくじを引いたなら、もう引かなくていいと思わないかい?」
「ですが、他にもプレイヤー様は大勢いたはずですし、そもそもこちらから土地の話をすること自体いかがなものかと」
「まぁまぁ、そう言わずに。お隣さんが良い人なのは良いことでしょ?」
紅茶を飲み終わり、執事を連れて外に出る。
「とりあえず悪い人が来なかったことを喜ぼう。きっと今後は皆も彼と交流する機会はあるだろうしね」
「もう、あなたはいつも急すぎるんです。プレイヤー様が買うために用意した土地を、自分で売り先を探してるから止めてくれってギルドから連絡があって、さっきまで頭を下げに行ってたんですから」
「それはごめんね。いつもありがとう」
「全くもう」
そんな話をしながら、話題の家の敷地に入ろうとするが、執事は権限を持っておらず入ることができない。
「私は立ち入り許可を得ていませんのでここまでです。あとはお一人でどうぞ」
「参ったなぁ」
執事を連れていき、他に改築するところがあるか聞くつもりだったのだろうが、それができないと分かり引き返す。
「次彼と会ったら立ち入り許可をお願いしよう」
「いえ、これから自然に話す機会があればお願いすることもあるかもしれませんが、全く交流のない状態でお願いするのは辞めてください」
「そうか。ちなみに最初から彼を警戒するのはなしに「それこそそんなことはしませんよ」う、うむ」
大きい声を出してしまい失礼しました、と執事は言うと、主の後ろに戻る。
「あなたに振り回されているのは私もそうですが、彼もその1人です。あなたが言う通りの方なのであれば、彼も今の状況に困惑していると思いますよ。好条件の家を買ったはいいものの、しばらくは返済のことで頭がいっぱいでしょうね」
「た、確かにそうかも知れないな」
「ある程度の金額を少しずつ渡してもらうようにしておけば、彼もそれ以上お金のことは考えなくても良かったでしょうに」
「う、うぅ」
「様子を見てどうするかは判断してください」
「手伝ってく「何か?」いや、何もない」
使用人が家に戻ってきた2人を出迎えたが、主の背中は家を出た時よりも小さくなっているように見えた。
「やっぱりあれってユーマかな?」
「絶対に、そう」
エリアボスを無事初討伐した最前線攻略パーティーは、南の街を探索していた。
「でも、ユーマさんって魔獣を連れているってオカちゃん言ってませんでしたか?」
「そりゃお前、あいつがそんなもんで止まるわけねぇよ」
「でもうちが会った時はまだ4レベだった気がするけどな〜」
「なら、そっから上げたんだろ。いや、それにしては早すぎるか?」
「それでも俺はユーマが倒したと思うけどな。他の攻略組が倒したってより、ユーマの方がよっぽど可能性高い」
他のゲームでも競い合ってきた自分達とは別の攻略パーティーがいくつかあるのだが、コネファンをメンバー全員手に入れることが出来たパーティーがおらず、最前線は実質自分達だけしか居ない状況だったのだ。
だがそこに、自分達がエリアボスを倒したあとすぐに他の人も倒したというアナウンスがあった。
本来はフルパーティーではない他の攻略組が倒したという風に考えるのが自然なのだが、それにしてはあまりにも早すぎる。
普段彼らがフルパーティーだったとしても、自分達には追いつく気配すら感じなかったのに、今回はあと少しというところまで迫ってきたのだ。
「探索は早いとこ切り上げて、先にもう1体くらいエリアボス倒しに行くほうがいいんじゃねえか?」
「それは出来ない。俺達がそれをすれば、他のプレイヤー達から苦情が来るだろう」
「そうかよ。なら、もしもう1体エリアボスが狩られた時は、流石に動くよなリーダー?」
「仮に2体とも同一人物がエリアボスを倒していた場合、俺達が1体で止める必要はない。それに、そもそもあと1体狩られれば最後のボスは狩るつもりだった。俺達以上にボスを狩らせるつもりも、街を解放させるつもりも無い」
そう言って街のクリスタルに向かって進む。
「あれ、絶対ボス倒したのユーマだと思ってるでしょ」
「リーダー楽しそう」
「何か分からないですけど、相手がユーマさんでも僕は頑張りますよ!」
「とりあえずお前はボス倒したあとの流れを早く覚えろ」
「帰ってきてほしい気持ちもあったが、競い合うのもいいな」
結局それ以降ボスが倒されることはなかったが、自分達が西のエリアボスを倒したあと、またすぐに東のエリアボスが倒されたのを受け、最前線攻略組の面々は皆自然と笑みがこぼれていた。
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