第22話
「よし、じゃあやるぞ!」
「クゥ!」
「アウ!」
現在俺たちは多数決で決めたボス討伐のために東のエリアボスを倒しにきている。
というのも、つい先程西のエリアボスが討伐されたというワールドアナウンスが出たので、せっかくなら東の初討伐も俺達で取りたいと思い、急いで東に向かって走ったのだ。
「これが青い大蛇か」
『シャーーーーッ!!』
鋭い眼光でこちらを睨みつけ、長い舌を出し入れするのを見ると、俺達をいつでも丸呑みできると言われているように感じる。
街で少し情報収集したところ、南のエリアボスは赤い大鷲の魔獣が倒されたらしく、その後には赤い大蛇がいたらしい。北は俺たちが黒の獅子を倒した後に見に行った人がいて、そこには黒い水牛がいたと言っていた。そして西には白い水牛が確認されており、それも先程討伐されたのだろう。
このことから、獅子、大蛇、大鷲、水牛、の4種類が居る、方角によって色が固定されている、倒された後は法則があるのかランダムなのかわからないがボスの種類が変わる、ということが分かっている。
「まぁ最初のボス戦に比べたら余裕はあるか」
威圧感は黒の獅子の時と変わらず青い大蛇からも感じるが、自分たちが強くなったからか少し余裕がある。
それに今回はレベル10以上が3人というのもあって、前よりも余裕があるからこそボス討伐にもパーティーらしさを出していきたい。
そのためにまずはルリにタンクという役割を覚えてもらおうと思ったんだけど。
「ルリにもっと教えることがあると思ったんだけどなぁ」
目の前でウルとルリがボス相手に善戦している。
本来は俺が前に出て戦い方をルリに教える筈だったのだが、少し言葉で説明しただけで最初から今のウルと同じくらい戦闘時の動きが良かった。
もしかしたら途中で仲間になった魔獣は、元いた魔獣の経験のようなものを引き継いでいるのかもしれない。
ルリが生まれた時はあまり気にしていなかったけど、最初からウルと同じ10レベルだったしあり得る気がする。
俺としては、新しい魔獣を仲間にして、レベル上げ無しですぐ戦えるから、このシステムはありがたい。
『シャーーー!!!』
「クゥ」「アウ」
「流石に第2形態は俺も戦うか」
ずっと後ろで2人の戦いを見ていたら、いつの間にか第1形態が終わっていた。ウルとルリだけでこんなにボスに攻撃を与えられたのは、装備の力が大きいはずだ。
今俺のレベルは11で、2人は10なのだが、おそらくボスに挑む適正レベルは12か13なのでもっと苦戦してもおかしくない。
だが、北の街で買った装備があるため、2人は適正レベルくらいの強さになっているのだろう。それでも2人だけでやるような相手ではないと言いたいが。
「よりによって風魔法か」
俺たちが戦った黒獅子は水魔法、南の赤い大鷲のボスは火魔法を使ってきたらしいので、それ以外の属性魔法を使ってくると思っていたが、風魔法は慣れていないウル達にとって一番難しいかもしれない。
「ウルは引き続き近接攻撃を当てた後は遠距離で魔法攻撃、ルリはなるべくボスの近くでカウンター狙い、俺は2人をサポートする。相手の風魔法には気を付けろよ!!」
「クゥ!」
「アウ!」
『シャーーーッ!!』
黒い獅子の時よりも青い大蛇の動きが速くないので、魔法に気をつけていれば相手の攻撃は避けやすいし、こっちの攻撃は当てやすい。
「分かってると思うが噛み付きだけは気を付けろ」
「アウ!」
事前にルリには大蛇が毒攻撃をしてくる可能性があることを伝えている。
もし毒攻撃があった場合、俺は毒耐性があるため最悪噛みつかれても良いが、魔獣たちは毒になる可能性が高いので十分注意しなければならない。
ルリは超回復持ちなので多少のダメージは無視するきらいがある。だが、その癖は早いうちに直しておかないと後々痛い目に遭うだろう。
「ルリ、余裕があるならもっと近づいて攻撃を避けてくれ。さらに言うなら、相手に触らずに避けることが出来たら一番良い」
「アウ!」
ルリは大きな盾を持って相手の攻撃を受け止めるような戦い方ではなく、全ての攻撃を自分が避けて仲間にヘイトが向かないようにするタンクを目指して欲しい。
今も言われたことをやろうと必死に頑張っているが、どうしても相手の攻撃は少し当たってしまっている。それでも持ち前のスキルで傷がすぐに治るため、何度も挑戦して経験を積めるのはルリの強みだ。
「少しだけ俺が代わるから、ルリは離れて見ててくれ」
「アゥ」
このままアドバイスをし続けるのも良かったが、ウルに教えてきたのと同じようにルリにも俺がお手本を見せるのが良い気がしたので、少しの間変わってもらう。
『シャーーッ、シャー!!』
「やっぱり黒の獅子と比べると攻撃が軽いな、これならルリがボス相手に戦えてたのも納得」
とりあえず1回くらいは攻撃を避ける前に受け流しておこうと思ってやったのだが、案外軽くて驚いた。
ずっとルリに前を張らせて、俺とウルは攻撃しかしてなかったからボスの攻撃がどんなものか分からなかったが、これならルリの相手には丁度良さそうだ。
「じゃあルリはこっからの動きを見といてくれよ」
「アウ!」
ルリの返事が聞こえたので、全てを避けることに集中する。
相手の噛みつき攻撃を前に進んでカウンターを叩き込む。尻尾を使った上からの叩きつけを横に移動してカウンターを叩き込む。風魔法で攻撃しようとしてきたところを察知し、後ろに回り込んで仲間の方に飛んでいかないようにして避ける。尻尾で掴もうとしてくるのを相手の体の近くに寄って周りを駆け回ることで避ける。全身を使った横の薙ぎ払いをジャンプで避ける。相手が自分以外に攻撃をしようとしたら、多少隙を与えてしまうことを怖れずに全力で攻撃する。相手のヘイトが自分に向き直したら、また攻撃を避ける。
「これ以上やったらそのまま倒しきりそうだし交代で」
「アウ!」
その後は少し動きの良くなったルリのおかげで、ウルも攻撃をする回数が増え、あっという間にボスを追い詰めていった。
そしてその間俺は後ろに下がり、2人の戦いを見学しているだけの状態。これが2人の成長のために必要だと思っているのだが、罪悪感がすごい。
「クゥ!!」
「アウ!!」
『シ、シャーー、ァ』
そして、ついにほぼ2人だけでボスを倒してしまった。
《ウルのレベルが上がりました》
《ルリのレベルが上がりました》
《東のエリアボスを初めて討伐しました》
《東の街が解放されました》
名前:ウル
レベル:11
種族:ホワイトウルフ
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『ホワイトウルフ』『氷魔法』
装備品:黒の首輪(魔獣)
名前:ルリ
レベル:11
種族:巨人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ
スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人』
装備品:黒の腕輪(魔獣)
「よくやったな」
「クゥ!」
「アウ!」
前回のボス戦では、黒い獅子とウルの魔法相性の良さもあり、第2形態は戦いやすかったが、今回は魔法の相性も関係なく、強くなった第2形態のボスを実力で倒しきったと言っていいだろう。
「ドロップアイテムは大蛇(青)の牙に、大蛇(青)の鱗で、落ちているものはなしか」
前回と違い、今回は単独エリアボス初討伐報酬がないのと、ボスにテイムをするという行動をしなかった。そのため、あのタマゴが出てきたのはテイムか討伐報酬の可能性が高くなった。
「じゃあ、こっからはとことんボスを倒すか」
「クゥ!」
「アウ!」
ボス討伐をすると決めたからにはとことんやるという気持ち以外にも、他のプレイヤーがボス討伐をやり始める前に、今ほぼ独占状態の狩り場を使ってやろうという打算的な考えもある。
そのため、今は全力でボスを討伐していこう。もう一組のボス討伐をしたであろう最前線攻略組も、いつもと同じであればしばらく次の街の調査や新しい場所の探索でボス周回には手を出さないだろうし、今が俺たちにとってはチャンスだ。
「じゃあこのまま東の街でクリスタルを使えるようにだけして、すぐ南のボスに行こう」
「クゥ!」
「アウ!」
こうして俺達はこのあと数時間、各エリアボスを狩り続けるのだった。
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