間話2
「なんか強くね?」
「レベルは俺らと変わらないだろ。プレイヤースキルの差だよ」
あるパーティーが街から離れた場所で、初めて角ウサギとスライム以外のモンスターを相手に戦闘を行っていた。
「レッサーウルフ相手はキツイって。他のにしようぜ。それかもうちょっとレベルが高くなってから」
「そんなこと言ってもな。もう角ウサギじゃ経験値もきつそうだし。6人で連携すればいけるって。それに依頼も30体のレッサーウルフ討伐だしよ」
「なんでアポルの実30個の納品にしなかったの?」
パーティーの中で意見が割れており、次第に声が大きくなっていく。
「俺らには無理だよ。もうちょっと時間が欲しい。依頼の時間もまだあるし、俺らも早く強くなるように頑張るから」
「でもよ。早くやらないと他のプレイヤーにどんどん先に行かれるぞ。確かにレッサーウルフは俺らでもちょっと強い相手なのは認める。けど、ここで倒せば他の奴らより1歩リードできるから、素材も高く売れる」
そして大きな声に反応したのは、森のモンスターたちだった。
「に、逃げるぞ! あの数はヤバい!」
「む、無理でしょ。戦うしか」
「戦って勝てるわけがねえよ!」
「だからもっとゆっくりやっていきたかったんだよ!」
「こんなことになるとは思わねえだろ!」
まだ全員で戦おうとすれば生き残る事も出来たかもしれないが、既にバラバラになった相手をモンスター達が倒すのには、そう時間はかからなかった。
「これが死に戻りってやつか。初めてだ」
「あー、しばらくはステータス下がってるから注意だ」
「ちょっと戦い方を教えてもらおうぜ。冒険者ギルドで教えてくれるって話だったし、お金かかるからみんなで教え合おうって話だったけど、流石にこのままじゃ駄目な気がする」
「俺も慣れてはいるけど、ちゃんと教えてもらったりした事ないし、ちょうど時間もできたしみんなで行ってみるか」
「賛成ー」
このようにレッサーウルフの群れに壊滅させられたパーティーは多いが、反省しすぐに次の行動を起こせる、数少ないパーティーの1つであった。
「あら、もしかしてあの方は噂の?」
「ええ、そうでございます」
私はこの世界の住人として、プレイヤー様方のことを知る必要がある。そしてそんなプレイヤー様の中でも、私達の中で注目しているプレイヤー様が私のお店に来た。
「少しお話をしてきます」
「分かりました」
そして私はあの方とお話をして帰ってきた。
「どうでございましたか?」
「あの方はとても優しい方でしたわ。お話も楽しくて、私も少し話し過ぎたくらい」
あの方のようなプレイヤー様が多ければ良いのですが、どこの世界でも良い人も悪い人も居るというのは変わらないのですね。
この世界に来てすぐに罪を犯し二度と戻れなくなったプレイヤー様が居たとも聞きますし、こちらが困っている状況を知り、手を差し伸べてくれる方もいます。
「あの方とお話して、私達もプレイヤー様も、変わらないと感じられました。こんなことを言ってはプレイヤー様に失礼でしょうか?」
「そのようなことはないと思いますが、プレイヤー様の中には気分を害される方がいらっしゃるかもしれません」
「あの方なら同意してくれるのでしょうね」
ふふっと笑いが込み上げてきて、しばらくあの方とお話したことを思い出す。
「ではお仕事もしないといけませんから、報告いたします。おそらくこれからプレイヤー様方は、いろいろな依頼を達成してたくさんのお金を持つようになるでしょう。今は食事に対してあまりお金を使っていないようですが、確実にそのお金が飲食にも回ってくることになります。そうなった場合、今私達が用意したものだけでは足らなくなる可能性が高いです。なのでプレイヤー様に販売して得たお金を、プレイヤー様への食材の調達依頼で使い、こちらで作った商品を買ってもらうことでまたお金を得るという循環を目指します。これからは私達だけでなく、プレイヤー様も計算に入れて動きましょう」
この後、どれくらいプレイヤー達を信じて依頼を出すのか、プレイヤー向けの商品開発、プレイヤーは食事を食べてもお腹が膨れないので一度に購入できる数の制限など、色々なことを話すのだった。
「本当に良かったね」
「うん、ちょっとこのゲーム辞めようか迷っちゃった」
少し前に1人でいるところをナンパされた。
それだけなら良かったけど、しつこく誘ってきて、周りの人達も助けてくれなくて、段々と怖くなって喋ることができなくなった。
そんな時に声をかけてくれて、ナンパ男達を追い払ってくれた人がいた。
「でも、名前も聞いてないんでしょ」
「うん。なんか小さい犬っぽい魔獣と一緒だったから、たぶんテイマーなのかな」
「じゃあパーティーにも誘いづらいか」
あの時は混乱してた上に、通報したほうが良いって言われて、言われた通り通報するために色々書き込んでたから、それどころじゃなかった。
「また会いたいな」
「なになに惚れた?」
「そんなんじゃないよ。ただもう一回ちゃんとお礼をしたいなって」
「また会えるでしょ。それに相手が困ってることがあったら助けてあげれば良いんじゃない? テイマーなんでしょ? あたしも協力するし」
私も次会うときまでに強くなろう。こっちのほうが弱かったら助ける事も出来なくなるし。
「てか聞けば聞くほどナンパ男達ムカつくね。パーティー組んだら触られることなんて全員分かってるっつーの」
「まぁパーティー組まない限り触れないからね。ずっと話しかけられるのはしんどかったけど」
こんな話をしながら私達はレッサーウルフの相手をする。
「そのナンパ男達もこうやってけちょんけちょんに出来たらいいのに」
「私は対人戦は無理だよ」
「でも、ナンパしてる奴らなんかより、絶対にこっちのほうが強いよ」
「ははは……」
友達の強気な発言に押されながらも、自分を励ましてくれていることは伝わる。
「そうだね。あんな人達よりも私の方が強い」
「そう! よく言った!」
「ふふっ」
ナンパ男達から助けてもらって、次はこうやって友達に支えられている自分が少し情けなくも感じるが、今は甘えさせてもらうことにしよう。
「ありがと」
「当たり前!」
「ふふっ」
「あ、名前聞くの忘れてた」
「さっきの人?」
「そう。ウル君の名前だけしか知らないし、こっちもしーちゃんの名前しか伝えてない」
「まぁまたそのうち会うでしょ」
テイマーがメンバーに居る珍しいパーティーが、街の近くでモンスターを狩っていた。
「そろそろ角ウサギも1人で倒せるようになってきたかも」
「それは普通だろ。俺も人のこと言えないけど」
「しーちゃんは最初から倒せるもんね〜」
「溺愛しすぎだ。可愛いのは認めるが」
「でも、俺達初心者に街から離れたモンスターを狩りに行く日は訪れるのか?」
「まだ始まったばかりだよ。僕達も慣れていけば色んなモンスターと戦えるって」
「テイマーがあんまり強くないってのは、今の俺たちには全く当てはまらないしな」
近くの角ウサギとスライムを倒して周りにいなくなったので、街の近くを歩きながらモンスターを探す。
「なんかテイマーが思ってたより多いらしいけど、強い人が使ってないから開拓されるのは時間がかかるって話だったな」
「まぁ望んでる魔獣が手に入るってだけで破格だろ」
「流石に強い魔獣が欲しいとかは無理だったっぽいね。戦闘が好きとか、野菜を育てるのに使えるとかはいけたらしいけど」
「なんか魔獣のスキルとか全然無くて、進化するまであんまり強くないって話も聞くね」
「最初に配布された魔獣だし、文句あるなら好きなのを自分でテイムしろってことなのかな」
「しーちゃんは僕が望んでた魔獣だから全く問題ないけどね〜」
「でも今魔獣の初回登録特典もらったことを後悔するやつ増えてきてるらしいぞ」
「え、あの人に聞かれた時、魔獣に後悔してる人はいないって言っちゃった」
「魔獣には後悔してないだろ。ただ、本職の方で初回登録特典を貰えないことが、やっぱりキツイんだってさ。魔獣がいてもメイン職を進められないと厳しいってことで転生してる人もチラホラいるらしい」
「そうなんだ。転生して居なくなる魔獣が可哀想」
「それもあって転生しようにも踏ん切りがつかないプレイヤーも多いってさ」
「あっ、居たよ。今度こそノーダメージで頑張ろう」
「しーちゃん頑張って!」
数体の角ウサギを見つけた彼らは、話を止めて必死にモンスターと戦うのであった。
「オカちゃんずるいです。ユーマさんと会ったんですよね?」
「まぁねー」
最前線攻略パーティーは、現在も強力な敵を相手にしながらも、会話をする余裕が見られた。
「元気にしてたか?」
「うん。なんかテイマーになってた」
「そりゃ楽しんでるな。でもそれだと帰ってきたくなっても無理じゃないか?」
「そもそもあいつは帰りたいって今のところ思ってねーよ。それはただのお節介だ」
「ユーマさんを孫とでも勘違いしてるんじゃないですか?」
「俺はそこまで年寄りじゃねえ」
軽口を叩きながらも、連携は完璧にとれている。
「でも、ユーマが抜けてからちょっとみんな本気」
「そりゃあいつがここを抜けてったのに、あいつに俺たちが抜かれたら、流石に洒落になんねえからな」
「ユーマはすごすぎた」
「そんなになんですか?」
「何でもできるようになりますって言って、本当になんでも出来るようになっちまうからな。怖えよ」
モンスターを倒し終わり、雑談に花を咲かせる。
「じゃあ皆さんはユーマさんを引き止めたんですか?」
「ん〜、楽しくなさそうだったし、抜けられるとちょっと困るけど、引き止めるのは違うかな〜って」
「ユーマの邪魔はできない」
「引き止めねえよ。あいつは全部できるからこそ、面白くなくなったんだろう。俺らみたいにちょっと足りないくらいが、1番にずっと縋りつきたくなるんだろうな」
「俺はユーマを引き止めようとはしたけどな。でも、無理だった」
「リーダーはどうだったんですか?」
「俺は昔からずっと1番を目指すのが好きだ。そしてこの気持ちを共にしてくれる仲間を集めた。目的が同じでない者は、居てもしんどいだけだろう。それに途中で抜けていったのはなにもユーマだけではない」
「こんなこと言ってるけど、1番ユーマに嬉々として教え込んでたのこの人だけどね〜」
「まさか全部できるようになるとは思わなかった、俺がユーマからゲームの楽しさを奪ったって言って、落ち込んでた」
「そんなことを言った覚えはない。ただユーマが抜けて残念な気持ちはある」
「皆さん随分とユーマさんの評価が高いんですね。僕もユーマさんに教えてもらったことがいくつもあるので、気持ちは同じですけど」
「ユーマは優しくて、気遣いができて、強くて、すごかった」
「後にも先にもあんな奴は現れないだろ。あいつみたいなのが何人もいたらたまったもんじゃねえ」
「俺も息子がいたらユーマみたいなのが良いなって思ってた」
「「「「それは気持ち悪い」」」」
「ユーマはうちがここに来た後に入ってきたんだけど、皆をユーマがすぐ抜いていくからさ、結構自信なくして辞める人も多かったんだよね〜。ここに来る人なんて多少はプライド持ってるし、それをバッキバキに折っちゃって。でも本人は性格も良いし、イライラをぶつけるところも無くて、居心地が悪くなっちゃうんだ」
「あいつは周りが自分のことをどう思ってるかも察してただろうから、関わりを少なくして、より強くなることに集中して、最後は感情も失くして最強のマシーンになったってわけ」
「みんなユーマのことは好きだけど、嫉妬の気持ちもあった」
「パーティーメンバーが決まったら、ユーマにはそのメンバーのメイン職以外をやってもらうようにしてたしな。思えばあれもユーマを苦しめる要因だったのかもな」
「そろそろ休憩も終わりだ。話の続きはまた今度にしてくれ」
「この話をした後で悪いが、あいつの空けたどっっっでかい穴に入ってきたのは新人君だから、頑張ってくれよ?」
「今すぐにユーマさんレベルは無理ですけど、ユーマさんに教えてもらったことは僕も出来るだけ頑張りたいと思います」
「その調子」
「頑張れ〜」
「では行こうか」
そうして最前線攻略パーティーは、また新たなモンスターを求めて動き出すのであった。
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