第15話

「ただいま〜」

「クゥ!」


 現実からゲーム世界に戻ってきてすぐウルを抱きしめた後、そのまま抱き上げた状態で歩き出す。


「じゃあウルは何がしたい? 5時間くらいは暇になったし、ある程度のことはできると思うけど」

「クゥ?」


 ウルも特にこれをやりたいということはなさそうだ。


「俺の装備が出来たらモンスターを狩りに行くか?」

「クゥ!」


 じゃあそれまでの時間をどうするかだが、困ったらギルドの依頼を見てみよう。


「魔獣ギルドと冒険者ギルドのどっちかに行こうと思うんだが、どっちが良い?」


 今回はウルに全てを任せてみる。

 

「冒険者ギルド? 魔獣ギルド?「クゥ!」」


 というわけで魔獣ギルドで依頼掲示板を見に行く。


「なんか面白そうな依頼があれば良いんだけど」


常設依頼

内容:孵化のお手伝い

報酬:100G〜

期限:なし


納品依頼

内容:スライムゼリー10個の納品

報酬:300G

期限:5日間


 まさかスライムゼリーが魔獣ギルドで売れるとは思わなかった。報酬も悪くないし、この2つの依頼を受けてみよう。


 とは言っても常設依頼がどんな内容なのか分からないため、受付に聞きに行く。


「すみません。常設依頼の孵化の手伝いの内容について聞きたいんですけど」

「かしこまりました。こちらの依頼内容は、カシワドリの家畜化した個体がいまして、そこから生まれた卵を1つ1つ孵化させ、孵化しなかった卵は別の箱に仕分けるというものです」


「それって結構時間かかりますか?」

「そうですね」

「その間魔獣はどうすれば?」

「テイマー向けの依頼なので、魔獣が待っている間のびのびと動くことのできる場所はあります」


 それを聞いてウルの心配はなくなった。


「じゃあ受けます」

「分かりました。このままご案内しますね」


 そうして連れられてきたのは、たくさんの卵があり、家畜化されたカシワドリたちがいっぱいいる場所だった。


「ウルはそのへんで遊んでていいし、飽きたらここに戻ってきていいぞ」

「クゥ!」


 ウルは返事をして大量の家畜カシワドリ達の中に飛び込んでいった。


「こんにちは。依頼を受けてくれたんですね」

「こんにちは。ちょうど時間が余ってて、やったことない依頼を受けようと思ったら、なんだかすごいところに来ちゃいました」


 隣にいる人はベテランの雰囲気を漂わせている、おそらくこの世界の住人のはず。


「孵化を使ったことないんですけど、孵化させた子を自分の仲間にしちゃったりしないですよね?」

「それはないと思うけど、心配なら名前をつけないように意識しておけば良いと思うよ」


 そうアドバイスを受けて、早速孵化に取り掛かる。

 

「これはなし、これもなし、これもな、おっ生まれた」

「生まれたのはこっちにお願いね。生まれなかったのはそのままこの箱に入れて」


 最初は感動したが、ずっとこの作業が続く。


「退屈でしょ」

「まぁ言葉を選ばずに言うならそうですね」

「これでも結構儲かるんだよ」

「え、でも、依頼の報酬はだいぶ少なかったですよ」

「あれは最低額でしょ? 最初は他のプレイヤー様も何人か受けてくれたけど、みんな地味で退屈だからすぐに終わっていったよ。それでも500Gは貰えてるんじゃないかな」


 単純作業が得意であれば、卵がある限り大儲けできそうな話だった。


「じゃあ頑張ってみます。って言っても俺も飽きたら辞めようとは思いますけど」

「それが良いよ。お金が足りなくなったらやるくらいでちょうどいいさ」


 そしてこの孵化のベテラン、心のなかでフカさんと呼んでいるのだが、そのフカさんと色んな話をする。


「カシワドリを捕獲するって依頼はなかなか面白かったですね」

「うるさかったでしょ。何か食べさせた?」

「たまたま気付いて食べさせました」

「それはすごいね。ちなみに……」


「ワイルドベアー亜種なんて、よく倒せたね」

「なんか運が良かったです」

「運だけで倒せないよ、でもそうなると生態系も少し変わりそうだね」

「そうなんですよ。一応……」


 


「ねぇユーマくん。君はこれからどうしたいんだい?」

「これからですか。特に目標があるわけではないですけど、色々やりたいですね。途中で何かハマればそれに夢中になる可能性はありますけど」


 随分とフカさんと話し込んでいたら、卵も少なくなってきた。

 

 ウルはまだ楽しそうに遊んでいるし、これが終わってもまだ居ていいだろうか。


「もし農業に興味があるなら、この街からすぐの北の街で家を購入することをオススメするよ」

「家ですか?」

「まぁ土地と言ってもいいね。畑をしたり、動物を飼ったり、色々できる。でも、あまりプレイヤー様に向けた土地は売り出してないから、買うなら早い者勝ちかも」


 ウルのこともあるし、今後魔獣が増えたときのことも考えて、もう少し詳しく聞いてみる。


「場所によって家の値段は変わるんですか?」

「それはもちろん。ただ、テイマーだったり、生産職に就いてる人は北がオススメだね。まぁもっとここから遠い街に行けば、更に良い場所はあるかもしれないけど、この辺だと土地が買えるのは北くらいで、他は家だけだよ」


「ちなみにお値段ってどのくらいか分かりますか?」

「広さにもよるけど、そりゃあ丸ごと買うってなれば、数千万Gはかかるだろうね。でも、大体プレイヤー様向けは賃貸だったり借地だったりするから、買える場所は早く購入するといいだろうね」

「それはなかなか手が出せそうにないですね。でも賃貸は生産職の人にとってはありがたいと思います。俺はまだ何をするか決めてなくてフラフラしてるので、宿屋の無料宿泊にもう少し甘える形になりそうですけど」


 良いお話だったが、俺にはちょっと手を出すには厳しそうだ。ウルのために家は買ってあげたいが、賃貸で住むくらいならこの街の宿でもう少しお世話になって、お金を貯めてからどこかの家を買いたい。

 まぁまだ宿屋を使ったことないけど。


「そうだろうね。それで私から提案があるんだ」


 そうフカさんは切り出してきた。


「私が買ってユーマくんに提供しよう。お金も貯まったら私に払ってくれれば良い。どうだい?」

「それだと俺が得するだけですけど、フカさんになにかそうする理由があるんですか?」

「フカさん?」

「あ、」


 思わぬところで心のなかで呼んでいた名前が飛び出してしまった。なのでなぜそう呼んでいたか説明をする。


「なるほど、だからフカさんね。確かに名前を言ってなかったけれど、あだ名みたいで気に入ったよ」


 そう言ってこれからもフカさんと呼んで欲しいと言われた。


「それで、私が得をすることがあるのかという問いだったけど、もちろんある。私の家の近くがプレイヤー様向けに売られることになってね。そこまで心配はしていないんだけど、出来ればお隣さんに変な人が来ないのに越したことはないだろう? 私は君なら安心できるし、面白くなりそうだと思ったんだ」


 どうやら元々フカさんの持っていた使っていない土地を、プレイヤー向けに売らせて欲しいと言う話から始まったらしい。


 それでプレイヤー達の様子を見ようとこの街に来たらしいが、色んな人が居て良くも悪くもプレイヤーは自分達と変わらず、どんなプレイヤーが隣の土地を買うか不安になったらしい。


 それなら自分でお隣さんを探そうと決意した結果、過度なプレイヤーへの接触は禁止だと言われて、孵化依頼に閉じ込められていた。そんな状況で俺と出会って話した結果、フカさんのお眼鏡にかなったようだ。


「そういうことならお願いしても良いですか? 何にもわからないんで、色々お世話になると思うんですけど」

「もちろんだよ。なんせ元々は私の土地だったしね。じゃあ今のユーマくんの希望を聞いておこうかな。どんな家にどんな設備が欲しい?」


 なんかすごいことになったぞ。


「えっと、今は何も要望とかはないですけど、後々お願いするかもしれません。あ、俺はウルと家の中で一緒に過ごしたいので、進化してウルが大きくなった後も窮屈じゃなければ嬉しいな〜なんて」

「分かった。とりあえず家はそのようにしておくよ」


 ついに仕分けしていた卵もなくなり、フカさんと別れる。


「じゃあ私は目的も達成したことだし、帰るとするよ。ユーマくんが来るのを楽しみにしてるね」


 そう言ってフカさんは出て行った。


「なんかお金持ちの人っぽかったな。話のスケールも大きかったし」

「クゥ」


 ウルも遊び足りたのか戻ってきた。


「依頼の達成を確認できましたので、報酬をお受け取りください」


 スライムゼリーの報酬は既にもらい、常設依頼の報酬を受け取りに来たのだが、


「5000Gって、間違ってませんか?」

「ええ、決められた通りの報酬をお渡ししました」


 フカさんが言っていた通り高額報酬だった。まぁまた受けてもいいけど、フカさんがもう居ないならほんとに暇だろうな。


「ありがとうございました」


 まだ装備が出来るまでは時間があるけど、どうしようかな。


「あの、ユーマさんにお願いしたい依頼があるので、受付の方までお願いできますか?」


 多分指名依頼かな。これはある意味タイミングが良いし、受けてみよう。

 

「分かりました」



 

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