第14話
「じゃあ、ありがとうございました〜」
「ちょっと待ってください!」
呼び止められてしまったが、調査依頼の報酬ももらったし、また指名依頼とかだろうか。
「はい、どうしましたか?」
「先程の調査依頼の報告の中で、ワイルドベアー亜種を倒されたと言うことだったのですが、パーティーで調査依頼を行われましたか?」
「いや、俺とウルだけですけど」
「そう、ですよね。出来ればワイルドベアー亜種のドロップアイテムを見せていただけますでしょうか? これは拒否していただいても構いません」
別に見せて困ることでもないのでワイルドベアー亜種の毛皮と爪を見せる。
「確かにこれは間違いないですね。ありがとうございました」
「あの、もしワイルドベアー亜種の討伐を疑ってたのなら、確認は調査依頼の報酬を渡す前でも良かったですよ? というか、その方が良いと思うんですけど」
「いえ、詳しくは言えませんが、特定の依頼窓口を担当する者は、相手が虚偽の報告をしているかどうか見分けられます。先程のユーマさんの報告は全て真実であると判断したため、報酬はお渡ししました。ワイルドベアー亜種のドロップアイテムを確認させていただくことは、調査依頼達成の条件には含まれませんので、報酬をお渡ししたあとお願いした次第です」
「な、なるほど。じゃあなんで倒した事は事実だと分かっていたのに、もう一度確認したんですか?」
「あの、えっと、非常に申し上げにくいのですが、信じられなかったもので。すみません! 失礼なことを言っているのは自分でも分かっているのですが」
「いや、全然大丈夫です。じゃあ俺とウルは信じられないほどすごいことをしたってことですね!」
俺も最初は無理だと思ったくらいだし、ステータス差を考えると奇跡のようにも感じられるか。
「あ、じゃあちょっとついでに1つ聞いておきたいんですけど」
「はい、何でしょうか? 私に答えられることであれば是非!」
非常に張り切ってくれて申し訳ないが、大したことではない。
「あの、うちのウルが魔法を使うんですけど、結構長い時間戦っていて、その間ずっと魔法を使ってたんですよ。でも、あんまり疲れた様子もなくて、これって普通なんですかね? 俺は生活魔法しか使えないんで、ちょっと感覚がわからなくて」
「魔法は基本的に何回でも使えますね。魔法を使うことによる疲労は多少あると言われていますが、人によって様々です。考え方としてはユーマさんが何かのスキルを使うのと同じようなものと思っていただければいいかと思います」
なるほど、ということはこの世界ではマジックポイント(MP)の概念はないということか。
このゲームはリアルとファンタジーの塩梅が絶妙だから、体力とモンスターの名前の表示以外は無くして、本当はMPが存在しているのかと思っていた。
でも、今考えると俺もスキルを何回も使ってたし、買い物した時に魔力回復ポーションみたいな商品も売ってなかったしな。
「そうだったんですね。気になってたんで教えてもらえて良かったです。ありがとうございました」
よし、じゃあこれで今度こそ離れよ「あの!」
「はい?」
「先程のドロップアイテムはどうされますか?」
「んーと、今のところは特に考えてないですね。納品依頼でもあるんですか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、ユーマさんは装備が実力に追いついていないように感じられました。何か理由がお有りで?」
「一応プレイヤーが作った装備を使おうかなと。そうでなくても、ギルドとかで売ってるやつはあんまり使わないようにしてますね」
「そうですか。どうしてもプレイヤー様のものを使われたいですか?」
「いや、どうしてもって程ではないですけど、誰が作ったか分からないものは、出来るだけ使いたくないとは思います」
「では、職人さんを紹介するので、作っていただくのはどうでしょう?」
話としては、この世界の住人、いわゆるNPCの職人に素材を渡して作ってもらうのはどうかという話だった。
どうもこの装備はそこらの初心者よりもひどい装備らしい。
だからこの装備で戦っているのが信じられないのとともに、今後のためにもいい装備を身に着けてほしいとの事だった。
「ユーマさんはお強いですから、この街からもすぐに旅立ってしまうでしょう。他のプレイヤー様も時間が経てばより強くなり、より技術が高まることが予想されます。ですので、今はプレイヤー様のものではなくて、この世界の職人が作ったものを使用されても良いのではないでしょうか?」
俺はNPCのものが使いたくないわけではない。ただ、今まではプレイヤーとNPCで、見方が違ったというのも事実だ。
NPCにお金を払うと、ゲーム側に払っているような感覚があったが、このゲームはNPC1人1人にも物語が、人生があるのだろう。
「じゃあ紹介をお願いしても良いですか? ただ武器に関しては専属っぽい知り合いが居るんで、確認だけ取ります」
紹介状を書いてもらっている間に、ガイルにチャットで説明をする。
もしガイルが俺に任せてくれと言うなら、その時は多少弱くなってもいいし、作ってもらおう。
「ははっ、ガイルはとことん気持ちのいいやつだな」
最初にガイルと話したときから親切なやつだったが、今回も俺のことを優先して良いと返事がきた。
そして何よりも、ガイルもNPCに対しての考え方が少し変わったらしく、俺と同じようにこのゲームのNPCにはそれぞれプレイヤーと変わらない生きている感覚を感じたらしい。
今はこのゲームを楽しみながら鍛冶師としての腕も高めている、そしてまだまだ強い装備を作るには時間がかかりそうだから、しばらくは他のところで装備を整えてくれ、とも。
こちらに気を遣わせないように言ってくれているのが伝わる。今度余った素材でも持っていって、サブ武器を作ってもらおう。
「確認が取れて了承も得たんで、紹介してもらったところで作ってもらおうと思います」
そして紹介状を受け取り、場所を教えてもらった。
「じゃあ今度こそ行きますね。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
こうしてやっと冒険者ギルドを出た俺は、紹介された鍛冶師に会うため、道を確認する。
「俺の装備を作りに行くから、ちょっと付き合ってくれるか?」
「クゥ!」
ウルの了承も得ることができたので、まっすぐ目的地に向かう。
「すみませーん」
「はいはい。もしかしてまた弟子入りかい?」
「いえ、冒険者ギルドでここを紹介されました」
「?」
女性は不思議がりながらも入れてくれたので、紹介状を渡して事情を説明する。
「なるほど、確かにその装備と比べりゃ全部良いものになるね。素材を出してくれるなら安くしとくし、どうだい?」
「お願いします」
インベントリから何かに使うと思って売りにいかなかった素材達を出して見せていく。
「レッサーウルフの皮と牙に、ワイルドボアの牙に、ポイズンスライムゼリーと核に、ワイルドベアー亜種の爪と毛皮って、普通はそんな装備で倒すものじゃないよ」
褒められてるのか、呆れられてるのか、俺はどう反応して良いのか困ってしまった。
「えっとそれで装備を作ってくれる方ってどなたなんですか?」
「ん? あたしじゃ駄目かい?」
「え、あ、いえ、お願いします。奥からずっと音が聞こえてくるので、他の人が作ってくれるものとばかり思ってました」
「ここはあたしの工房だよ。自己紹介もしてなかったね。あたしはアンってんだ」
勝手に紹介されるのが男の人だと思ってた。
「ユーマです。よろしくお願いします」
「今出してもらった素材は装備に使っても良いって認識であってるかい?」
「はい。ワイルドベアー亜種の素材は1つずつしかないですけど、それ以外は何個かあります」
そして今見せた素材から、さらに個数が必要なものを言われた分だけ出した。
「おそらく足りないだろうなんて思ってたけど、よく持ってたね」
「たまたまですよ。ちなみに角ウサギの角とスライムの素材もあるんですけど、そっちも必要ですか?」
「いや、それは必要ないよ。今の素材があればそっちは下位互換でしかないからね。売りたいって言うなら買うけど」
そう言われて考える。提示された値段も高くて、やはりギルドを介さず直接売るのは高くなるんだなあと感じた。
「ちょっとだけ売るのでその分装備の値段を安くしといてください。あと、いつ頃出来そうですか?」
「はいよ。今は他のプレイヤー様に教えるだけで、あたしの手は空いてるからすぐ取り掛かれるよ。3〜5時間ってとこかな。別に取りに来るのが遅くなってもいいけど、早めだと助かるよ」
そう言ってアンさんは装備を作りに奥へ消えていった。
「じゃあこれから何かしよっかって言いたいんだけど、一旦俺もトイレだけ行ってこようかな。ウルをもうちょっと待たせちゃうけど、ごめんな」
「クゥ」
長時間ログアウトするわけでもないので、その場でログアウトする。
この間ウルも俺と同じように存在が消えているらしい。ウルがそのまま世界に残り続けるには宿屋か家でログアウトする必要がある。
短時間のログアウトであればいいが、長時間ログアウトするのに宿屋か家でログアウトしない場合は、魔獣から嫌われたり、自分のステータスにペナルティがついたりするらしい。
「ちょうど警告が出たのが街の中でよかった」
トイレの警告が出ていたので、すぐにトイレを済ませ、水分補給と軽い食事もとる。
「まだこんな時間か」
あっちの世界ではほぼ1日間動いていたが、こっちではまだ7時間しか経っていない。
「よし、早く戻ってウルに会おう」
あっちでは3倍の速さで時間が進むため、ここでゆっくりしていられない。ウルと約束したし、早く戻ろう。
そうしてまた俺は、カプセルベッドの中に入るのだった。
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