第59話 潜伏 その2
お風呂から出ると、王宮から着の身着のままで逃げてきた美咲が、ジャージに着替えてソファで休んでいた。まあ、ぼろっちいソファなんだが、落ち着けるのなら今はそれでいい。
「お疲れさまです、晴斗さま。このあと、私もお風呂で一息いれるように言われています」
お疲れなのは美咲の方だろうにと……、ほんとうに心根の優しい子なんだと改めて思い直す。
その美咲が、ソファから立ち上がった。ボディガードの近江さんを連れて、一緒にお風呂に入っていく。一時間もしてからだろうか。美咲がひと心地ついたという様子で出てきて、俺も胸をなでおろしたのだった。
それから、台所にあった食材で、明け方近くに食事をとった。もともと予定はしていたのだろう。冷蔵庫にも、日持ちのする食材が豊富にそろっていた。ただ、お腹は膨れたが、四人以外の会話が弾むことはなく……。
「晴斗くんたちは休んで。私と美由紀さんで見張りをするから。私たちは昼に交代で睡眠をとるから、気を使わないで」
その近江さんの言葉に甘えて、俺たちは用意されていた布団に潜り込んで休息をとるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ねちゃったか?」
俺はまだ緊張の余韻が残っていたようで、隣に寝ている澪に、ふと話しかけてみた。
「いえ……」
澪からの返答が、耳に届く。
「けっこう急いでここに来たので、ちょっと興奮しているのかもしれませんね」
「そうだな。あわただしかった……よな。不安や恐怖もあったし。ごめんな、巻き込んじゃって」
俺は、素直な気持ちを澪に吐露した。明日、みんなの前で頭を下げるつもりではいたんだが、こうして隣り合って寝ていると、どうしても謝りたいという気持ちがわいてきたのだった。
「気にしていませんし、気にしないでください。楽しんでいるくらいですので」
「それは……言い過ぎだろ?」
「そうですね。混乱なく自宅マンションで過ごせるのに越したことはありませんが、今こうして晴斗さまと布団を並べていられるのが幸せだと感じます。追われているのに……不思議ですね」
澪が、ふふっと、吐息を漏らした。
「ほんとうにごめんな。美咲や澪たちの安全が保障されるのなら、投降してもいいって思ってるんだが」
と、澪が少しまじめな声音で、俺のあとに続けてきた。
「ひとつだけ言いたいことがあります。私たちは巻き込まれて一緒にいるのではなくて、自分たちの未来を勝ち取るために行動しているのです。サリーさんたちがお風呂ではしゃいでいたのも、もちろん不安や恐怖はないわけではないですが、自分たちの足で前に向かって進んでいるからです。決して苦しいことばかりではないのです」
「澪……」
俺は、その澪の言葉に驚き、心が熱くなった。今の今まで、澪たちを侮っていたんだと気づかされた。
俺が巻き込んでしまったと後悔していた。だがそうじゃない。澪たちだって、自分たちの身の振りようはいくらでもあっただろう。
なのに、俺や美咲と一緒に行動するのは、澪たちが自分で選んだ道だからだ。それがわからずに、澪たちを被害者だとばかり思っていた。俺は自分が恥ずかしくなって、澪のあとに何も言う事が出来ない。
「休みましょう。今は休息をとって、心と身体のHP、MPを回復するときです。お休みなさいませ、晴斗さま」
澪はそういってから、すうすうと寝息を立て始めた。俺も、澪と話して心のつかえがとれたのか、睡魔が襲ってきて、意識があっと言う間に沈んでいったのだった。
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本日、駆け足になってすみませんでした。以降、予定していたとおりに不定期更新となり、少々お休みをいただきます。
詳しくは、「近況ノート」に書きましたので、そちらをご覧ください。ご迷惑をおかけします。申し訳ありません。ご了承ください。
精力だけは旺盛な陰キャモブ高校生の俺、子供を作ったら偉い世界線に転移したらハーレムだった件 月白由紀人 @yukito_tukishiro
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