第57話 クーデター その2

「晴斗くん。逃げ道は?」


 一緒に駆けている近江さんの問いに、俺は即座に返答した。


「この王宮外には無事出られる。対馬さんが、見て見ないフリをしてくれる」

「対馬さんはシャーリー側に下ったんじゃないの?」

「そういうわけでもない。人質を取られてるから手出しできないだけで、俺たちを見逃してくれることで話はついてる」

「……なるほど」


 俺たちは廊下を疾駆し、寝室のある建物から外へと飛び出した。そのまま、王宮の庭園内を駆け抜ける。


「ここを出てからはどうするつもり? 晴斗くんの自宅タワマンには手が回ってるだろうし、私の邸宅も危ういし?」

「それも、ある人に頼んである」


 王宮から出たところで、車が止まっていた。そのバンのドアが開いて、運転席から周防美由紀が顔を出した。


「いそいで。追手が来るわ」

「美由紀さん!」

「姉さん!」


 近江さんと美咲が同時に反応した。


「どうして……」

「なぜ……」


 近江さんと美咲は、驚きで動きを止めていた。


「いいから早く乗って」

「近江さん。美咲。ここは美由紀を信じて」


 俺にうながされて、近江さんと美咲は、その美由紀の車に乗り込んだのだった。



 ◇◇◇◇◇◇



 車が発進してからに二十分ほどが経っていた。背後から追跡してくるものはいない模様。車は、夜の暗い森を、どこかに向けて疾駆していた。


「どうして……助けてくれるのですか?」


 運転している美由紀に、後部座席の美咲が、わからないという声音で聞いてきた。と、美由紀はハンドルを握ったまま、落ち着いた声だけを美咲に返した。


「私たちの敵はホワイトリリーでありその理念であって、そのホワイトリリーから追われた美咲自体は敵じゃないの」

「…………」


 美咲は、その美由紀の言葉を、黙って聞いていた。


「今の美咲は、女性至上主義を否定してホワイトリリーを追われた私と同じ立場。個人的には恨みもないし、むしろ同病相憐れむというような共感の方が強いわ」

「女性至上主義を捨てさせようとしたのか?」


 俺が割って入って、美由紀に聞いた。


「そう。私の真の敵は、ただの弱者女性保護団体に女性至上主義を刷り込み、この世界線をメチャクチャにした、自称神々を名乗る『あの連中』だってだけ」

「姉さん……」


 俺の知らないことを言った美由紀。その後ろの席から美咲の声が耳に届き……。


「警察には……無理か……」

「無理ね。おそらくシャーリーが手を回していて、捕まって引き渡されるだけ」

「美由紀配下の武装勢力とか、そういうの、ないのか?」

「あるけど……。銃器を使って対抗しても、ホワイトリリーはこの国の軍隊を差し向けてくるだけ」


 車は森を抜け、市街地に入り込むのだった。

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