第8章 脱出、反抗編

第56話 クーデター その1

 そして、ついに『婚姻の儀』の前夜が訪れた。俺と美咲がホワイトリリー内で正式に夫婦となる、その大事な儀式だ。この日までに、俺たちは何度も衣装合わせを行い、入念なリハーサルを重ねてきた。


「夜が明けると、私たちは正式な夫婦ですね」


 いつもの寝室で、美咲がほんとうに嬉しそうに口にしてきた。


「晴斗さま。お慕い申し上げております。お慕いできて、私は幸せです」


 その美咲に水を差す事にはなるだろうが、言わなくてはならないことだから、俺はあえて口にした。


「何度も言った通り、この王宮のガードを固めた方がいい。対馬さんとも連絡は取れたが、ガチで状況がまずいっぽい」

「それは大丈夫です。この王宮は、管理人の対馬さんを除いて、十二騎士の管轄外です。私は今、弾んだ心が止まりません」


 美咲は、そう言いながら口を近づけてきた。押しとどめようと、俺が両肩をつかんだときに、なにやら外から騒がしい音が響いてきて……。


「なんだ……?」

「確かに、騒々しいですね」


 美咲も、動きを止めるくらいには外から音が聞こえてきて。俺が様子を見てこようと、ベッドから立ち上がった時。


 いきなりドガッと、鍵をかけてあった入り口の扉が蹴破られ、甲冑に身を包んだ女性騎士十人ほどがなだれ込んできたのだ。


 みな、一様に剣を構えている。その騎士たちが、俺たち二人を取り囲む。そして、その中の一人が言い放ってきた。


「元女王陛下! それから三河晴斗! シャーリー殿下の命により、ホワイトリリーに対する反逆罪にて捕縛する!」

「なんの真似ですか! いきなり寝室に乱入するなどと! 女王に対して無礼ではありませんか!」

「貴女はもうすでに女王ではありません。ホワイトリリーの全権限は、シャーリー殿下に移っております!」

「なにを馬鹿なことを……」


 とてもじゃないが理解はできない……という様子の美咲に対し、剣を突きつけながら、騎士は続けてくる。


「最高会議での決定事項です! 憲章に基づいて、第二王宮で開かれました!」

「私はそのようなものを招集しておりません! 会議に出てもおりません!」

「十二騎士過半数による招集です! 元女王陛下は『ご病気』で招集不可能な状態だったのです!」

「私は病気などでは……」

「元女王は『男狂い』という精神疾患だと、十二騎士過半数に認められたのです!」

「!」


 美咲は、驚きとともに、あぜんとしていた。先ほどまでは、俺と婚姻前の情事にふけろうかという状況だったのが、今は部下たちに剣を向けられている。


 と、入り口から、その噂のシャーリー殿下がゆるりと入ってきた。美咲が、残っていた気力を絞ったという声音で、シャーリーを問い詰めた。


「シャーリー! いったい……なんの真似なのですか!」


 だが、そのシャーリーは涼しい顔。あざ笑う様子で美咲に返してくる。


「見ての通りです。貴女は、ホワイトリリーの女王としては不適格だと判断いたしました」

「なんかたくらんでるなって思ってたが、マジで結婚式前夜かよ!」

「そうです。晴斗さまとの婚姻の儀が行われて、権威をさらに高められると、手出ししにくくなりますので」

「シャーリー……。貴女という人は……」

「男ごときに溺れているからそうなるのです」


 さらに、シャーリー配下と思われる騎士が飛び込んできた。膝を折ってそのシャーリーに報告する。


「第三席のローズマリー旅団が第七席邸宅に突入いたしました。第四席が関西離宮を制圧。第十席は福岡地区にて戦闘継続中です」

「これは……クーデターです!」

「はいそうなります。おバカな元女王陛下にも、やっとお分かりのようですね。クーデターになりますので、おとなしくお縄についてくださいませ」


 ふふっとシャーリーが、腕を組みながら美咲に邪悪な笑みを送る。と、その場面で、入り口付近からカンカンと剣を戦わせる音が響いてきて、数人が部屋に乱入してきた。


「晴斗くん! 無事?」

「近江さん、なぜここに!?」


 美咲が驚いている間に、近江さんがシャーリーたちを押しのけ、俺たちに逃げ道を作ってくれた。美咲は、再度疑問を口にする。


「近江さん……。なぜここに……?」

「俺が呼んでおいた。美咲、こっちだ!」


 俺は、立ち呆けている美咲の手を取り、助けに飛び込んできてくれた近江さんとともに、寝室を逃げ出したのだった。

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