第53話 シャーリー、暗躍する その1

 晴斗たちと、踏み込んだ会話をしてから一週間後。対馬は自分の菜園に、ふらりやってきた。だが普段の様子とは少し、いや、だいぶ違う。


 動きは重くカラダのハリもない。寝ていないのだろうか。目は赤くはれ、その下のクマも目立つ。一目で疲れているのだとわかる、そんな様子だった。


 その対馬は、心を落ち着けるように、久しぶりの農作業を始める。草をむしり、トマトの手入れをし……。と、背後からその対馬に向かって声をかける者がいた。


「菜園のお手入れですか? 普段と同じお仕事は、気持ちが落ち付きますものね」

「シャーリーか。お前が呼び出したから来てみれば……。用がないんだったらこんなときに……」

「その様子だと、とても大切な方のようですね。行方不明の弟さんは」

「なぜ……お前がそれを知っている!」


 対馬は、言い捨て様に立ち上がった。いきおいシャーリーに鋭い目を向けるが、微笑みを浮かべて立っているシャーリーは、穏やかな調子で予想していなかった言葉を投げかけてきたのだ。


「知っていますよ。どうやって弟さんがさらわれたのか。弟さんの今の居場所も」


 ふふふと、シャーリーは対馬に不敵な笑いを送ってくる。好意的な微笑ではない。対馬を取って食おうという、狩猟者の表情だ。


「お前が弟を……」


 対馬が、そのシャーリーをにらみつけた。その憎悪の視線を受け止めながら、シャーリーは対馬に近づいて、その肩に触れた。


「この地区の領主で、王宮の管理者でもある対馬さん。貴女の協力が必要です。事が成った暁には、十二騎士筆頭に取り立てて、無事に弟さんも返して差し上げましょう」

「きさ……ま……」


 対馬は今すぐにこの女を殴り飛ばして弟の居場所を吐かせたいのだが、小さいころから一緒に生きてきたたった一人の肉親を人質に取られては、どうすることもできない。


「あとわずかで、女王の婚姻の儀があります。その前日に、女王はこの宮殿に入場される予定です」


 怒りに身体を震わせる対馬の耳に、聞きたくはないシャーリーの言葉が、流れ込んでくるのだった。

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