第52話 対馬の菜園 その2
また別の日。俺が王宮端の対馬の菜園を訪れると、サリーは先に来ていて、情報交換を行った。
王宮の基礎知識。十二騎士の各メンバーについて。女王派とシャーリー派について。俺から情報を得たサリーは、タワマンに帰って、沙夜ちゃんたちにそれを伝えることになっている。
シャーリー派に場所がバレているタワマンについては、ナナミを中心に、引っ越した方がいいという強い意見があった。しかし今の力関係を考えると、どこへ逃げても大差ないという澪や沙夜ちゃんの意見が主流をしめ、現状維持に至っている。
その、俺たちが王宮に送り込んだスパイであるサリーが、唐突に言ってきた。
「対馬さん、いないね?」
「確かに……。最近、見かけないな……」
「対馬さんのトマト、メチャクチャ美味しいんだよ。仲良くなったから、いてくれたら嬉しかったんだけど」
「対馬さんとはさらに話を進めたいから、連絡を取りたいんだが……。色々きな臭くなってきているから、ここの待ち合わせ場所も変えた方がいいかもしれない」
「でも、王宮で自由に行けて、ひとけがないところって、他にないジャン」
「まあ、それは……」
そこまで話してから、密会の場所に関しては次回以降ということで、今日はサリーとわかれた。確かにサリーが言う通り、安全で安心で秘密が守られる手ごろな場所が他にないのも事実なのであった。
◇◇◇◇◇◇
再び、菜園前でサリーと会っていた。俺は王宮や十二騎士の情報を、サリーは沙夜ちゃんたちが集めた情報を、互いに交換していると……。
「晴斗くん。ここにいたんだ。サリーさんと何のナイショ話?」
背中から声をかけられて振り返ると、近江さんがにこやかに立っていたのだった。
「ここを密会場所にするなんて、晴斗くんも王宮内に詳しくなったっていう証拠だよね」
「密会とかじゃないんだ。たまたまサリーと出くわしただけで……。いや……」
俺は、少し考えてから、言葉を変えた。
「サリーとここで密会していることは、内緒にして欲しい。近江さんなら、俺の立場はわかってもらえると思う」
俺とサリーが互いに連絡を取り合っていることは近江さんも承知のことで、下手に隠し立てしようとするのは印象が悪いと思ったのだ。と、近江さんはそれには興味がないという様子で、話題を他のことに変えてきた。
「ここの庭園端の菜園って、知ってるのは対馬さんの他にほとんどいないんだよね。こんな場所にあるから当然なんだけど、でも……」
「でも……? なにか問題でも?」
「その対馬さんなんだけど、ここ数日無断欠勤というか、連絡なしに姿を見せてないんだよね。もちろん私が知らないだけで、秘書さんとかには連絡を入れているのかもしれないけど」
「無断欠勤……なのか? 対馬さんに限ってとか言うと失礼だけど、体調不良とかじゃないといいけどな」
「あと……」
近江さんが、一泊おいて、背を向けた。それから、振り返ってきて、少しまじめな話なんだという表情で、俺につげてきた。
「シャーリーさんっているよね」
「反女王派筆頭、だろ?」
「うん。そのシャーリーさんなんだけど、ちょっと気を付けた方がいいかも?」
「気をつけている。前に誘われて脅されたし」
「そういうことじゃなくてさ。シャーリーさん、このところ様子おかしいんだよね、ちょっと」
「というと?」
俺が聞くと、近江さんが、腕を組みつつ考えながらという仕草で続けてきた。
「静かすぎるってカンジかな? 前は嫌がらせとか邪魔とか、それこそ嫌味を言うとか、けっこうしてきたんだけど、それがぴったりと止まって。ここのところ、姿も見せてないし」
「改心したんじゃないのか?」
ないな、とは思いつつ、俺がそういうと。
「ないでしょ、あの人に限って。何たくらんでるかわからないから、本当に気を付けた方がいいって話」
「わかった。忠告、心に留めておく」
「じゃあ、私は領地の港南市に戻るから。ここにもちょくちょく来るし、なにかあったら気兼ねなく連絡してね」
近江さんが手を振って去りかけたとき、俺はその目を見つめ返して、追い討ちをかけた。
「ほんとうに……信用するよ。近江さん」
「え? ほんとうのほんとうに本心からってこと? それでいいの? 私、裏切るかもしれないよ?」
「学園のときから見てきたから。自分の目を信じて」
「わかった。いいよ、信用して」
近江さんは、ニコッと笑って、今度はきちんと去っていったのだった。
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