第48話 王宮の日常

「晴斗さま……。あ、あともう少しで……私たちは、ふ、夫婦に……なれるのですね」


 王宮に来てから、二週間が経っていた。その間、俺は王宮の作法や規律を学び、夜はたまに訪れる美咲と肌を重ねる。そんな日々を過ごしていた。


 その美咲は今、ベッドで俺にしがみつきながら、あえぎとともに言葉をこぼしてくる。俺はその美咲を組み伏せながら、荒い呼吸とともに聞いてみた。


「そんなに……俺と夫婦に、なりたいのか?」

「はい、な、長年の……夢でした」


 美咲が身をよじり、シーツを手でにぎりしめながら答えてくる。


「ここにくる前は、なんとか澪たちとの生活を守るために、お前をどうにかしようと、たくらんでいたんだが……」

「はい。承知して……おります」

「でもお前が後宮を、澪たちを認めてくれたので、お前やホワイトリリーを是が非でもなんとかしなくちゃとは……もう思ってない。もちろん俺を解放してほしいのは、そうなんだが」

「はい! 承知して、おります!」


 答えてきたのち、美咲がひときわ高い声を上げて、動かなくなる。俺はその美咲の上にかぶさり、ぜーぜーと荒い息。二人して、しばらくそのまま動かずに、呼吸を整える。


 美咲が、その俺に顔を向けて、頬に手を添えてきた。


「私は、晴斗さまを不幸にはしたくありません。私は、晴斗さまと夫婦になりたいのですが、その結果晴斗さまが不幸になるのは、望んでおりません」

「ありが……とう、美咲。最初に美咲に謁見したときは、こんなにわかってもらえる女性だとは思っていなかった」


 と、ふふっと美咲が嬉しそうに、微笑みをこぼした。


「私を、少しは好きになっていただけましたか? 肌を重ねて、愛着を感じていただけましたか?」

「それは……」


 頭の中に、澪たち四人の顔が浮かんだ。美咲を前ほどは嫌悪していない。美しい少女だし、濃厚な蜜のようなカラダだとも思う。しかし、澪たちと同じように愛せるかと問われたら、はいそうですとは、まだいいかねる。


「いいのです、晴斗さま。私は晴斗さまと夫婦になれるだけで幸せです。ゆっくり、わかり合っていきましょう」


 その美咲が、俺に口づけをしてきた。俺も美咲の舌を吸い、再び欲望の赴くままに美咲の上にのしかかる。


 美咲のあえぎ声が響き始め、俺の荒い呼吸音と混じり合いながら、王宮の密室での二人だけの夜が更けていくのであった。



 ◇◇◇◇◇◇



 そして、何度か目の自宅タワマンへの帰宅。おフロ場は、すでに椅子やテーブルが持ち込まれ、リビングの様になっている。もちろん浴室なので、リラックスしているとはいえ、みんな素っ裸。


 椅子上の俺の膝に、澪が腰かけてきた。俺に体重をあずけてくる澪。そのお尻の肉の感触、背中の肌触りが生々しい。


「晴斗さま。実は私たちも、その女王さまと晴斗さまの結婚式に招待されているのです」

「え? そうなの? マジか?」

「はい。そうなのです。正直、あまり嬉しい催し物ではないのですが、私たちとホワイトリリーの力関係を考えると、出ないわけにもいかないかと」

「うーん……」


 招待したのは、おそらく美咲なのだろう。悪意はないのだと思うが、女性至上主義のホワイトリリーに男がぞろぞろと女性を連れていくのは、控えめに言って印象は最悪だ。


 美咲の庇護があるから危害を加えられはしない。しかし逆にいえば、その庇護がなくなればその限りではない。そんなことを考えていると、澪と入れ替わりに、沙夜ちゃんが俺の膝上に載ってきた。今度は対面して、俺に抱き着くように。


「私たちは、ホワイトリリーの女王に、お目こぼしされている状態になります」


 沙夜ちゃんが、澪のあとに続けて会話を進める。


「ホワイトリリー内部の力関係がどうなっているのかは、サリーさんに報告はもらっておりますが、不透明な部分が多いです。ですので……」

「うん。ですので?」

「王宮での動きには細心の注意を払ってください。十二騎士に対しても、女王さまに対しても」

「ああ。わかった」

「鼻の下を伸ばして、若くて美しい女王さまにおぼれている場合ではないんですよ♡」


 沙夜ちゃんが、俺と美咲の夜の営みを見ているかのように、言ってきた。その後、俺に正面から口を絡めてきた。


「おぼれるのは、私たちだけにしてください、お義兄さま。私たちとの積み重ねを実感してください」


 沙夜ちゃんが、俺の上で腰を振り始める。その感触に揺さられる俺に、澪、サリー、ナナミも絡みついてきた。


 ホワイトリリーに、仮の後宮として認められた俺たちのタワマンで、沙夜ちゃんたちとの夜が更けていく。王宮と家を往復する毎日の中で、ほっとひと心地つける時間。いや、沙夜ちゃんにのしかかられてそれどころじゃないんだが……。



 ◇◇◇◇◇◇



 そんな折だった。俺に、ある人物が接触してきたのは。

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