第47話 定例会


 会議室は、真ん中に長テーブルが置いてある、高級な応接室のようだった。朱色の絨毯やカーテンに彩られ、貴賓室だといわれても違和感はない。


 そのテーブルには二人座っていた。一人は、近江さんと同じ騎士制服をまとった、金髪ロングヘアの見目麗しい女性。貴族令嬢のような見姿で、きれいな姿勢で、椅子に腰かけている。


 もう一人は、甲冑をまとった、ガタイのいい黒髪短髪の女性。椅子にドッカと座り腕組みをしているさまが、女性ながらイカツイ。


 貴族令嬢も、ガタイのいい女性も、体格差はあるもののどちらも若く、二十歳前後の年齢に見えた。


「男連れとはいいご身分だな、近江。十二騎士に取り立てられて、さっそく男あさりか?」


 ガタイのいい女性が、皮肉めいた口ぶりで、嫌味とともに近江をねめつけた。麗しい女性が、そのガタイをたしなめる。


「近江さんも、女王陛下が見初めた殿方に手を出すほどの馬鹿ではないでしょう。あまりに露骨な表現は、女王陛下への叛意とみなされますよ」


 近江さんはそれらを気にする様子もなく長テーブルに座り、俺もうながされて椅子につく。各々、離れた場所に座りながら、定例会とやらが始まった。



 ◇◇◇◇◇◇



「ですから、港北市と港南市はすでに私の管轄です。企業献金を引き上げるという案についてですが……」


 会議が始まってから、近江さんが説明を始めた。十二騎士になりたてとは思えない流暢な口ぶりだ。


「まてよ、近江」


 ガタイが、近江さんに異を唱えてきて、論争になった。


「港北市はもともとお前が活動していたところだからいいが、港南市はこの宮殿エリアを預かる俺の近隣都市になる。その献金額は、認めない」

「ですが、私のわずかな領地だと、この額でないと経営が成り立ちません」

「勝手な言い草だな。領地が少ないのは、ホワイトリリーにそれだけの貢献しかできていないということだ。男を見つけてきただけで、デカい顔ができると思うなよ」


 無言で見つめ……にらみ合う、二人。近江さんの味方をしたい気持ちはあるが、オブザーバーとしての参加である俺は、成り行きを見守るのみ。


「学園とやらで男に囲まれて、魂までふぬけたか?」

「はい。ふぬけました♡」

「近江……」


 ガタイの表情が険しくなる。「正気か?」という疑念と、軽蔑だろうか。そのガタイを挑発するように、近江さんは続けてきた。


「晴斗くんは、さすがに女王陛下が見初めただけの殿方です。その晴斗くんを見つけてきたのはホワイトリリーに対しての十分な貢献だと自負しているのですが……。あ、すみません。体格ばかりで女性の魅力に欠ける対馬さんには殿方の価値などわかりませんね。これは失礼いたしました」

「出ていけ、男にしっぽを振るメス! ここは騎士身分の者だけが出入りできる場所だ!」

「私も末席とはいえ、十二騎士に連なる身分です。非礼は認めません!」


 しまいには、いまにも殴りかからんばかりの勢いで、ガタイが立ち上がった。その状況を止めたのが、今まで黙って見ていた金髪令嬢だった。


「その辺りにしておいてください、近江さん、対馬さんも。二人とも、あまりに無礼な言動は、女王陛下に対する不敬になりますよ」

「…………」

「申し訳ありませんでした」


 立ち上がっていたガタイが無言で椅子に座り、近江さんは殊勝に謝罪の言葉を告げた。


「とにかく、女王陛下と晴斗さまの婚姻の儀は、一ヵ月後です。場所は、この宮殿内の、紅玉の間。その時に備えて、警備を万全にしなくてなりません。反対派、反対組織が何をやってくるのかまだわかってはおりません」


 金髪令嬢が、二人の後を締め、最後に俺にたずねてきた。


「定例会はこれで終了となりますが、晴斗さまは何かご質問がありますでしょうか?」


 聞きたいことは山ほどあった。しかし、場の雰囲気は悪く、いちいち細かくたずねるのはためらわれた。俺は、おずおずと、深堀しない程度に聞いてみた。


「十二騎士なのに……三人で決めていいんですか? あとの九人とか、女王陛下とか?」


 金髪令嬢の代わりに、ガタイがいちいちうっとおしいという声音で答えてきた。


「各々、あちこちに散らばっていて、集まるのは最高会議のときと、婚姻の儀のような重大儀式のあるときだけだ」


 そんなこともわからないのか、というガタイに続いて、金髪令嬢が少し詳しく深掘りをしてくれた。


「みなさん、おいそがしいのです。メガバンクの頭取や政界フィクサーが、地方企業の上納金の話の為に顔を出せる時間もありません。定例会に出られるメンバーで、決められることを決めているのです」

「はい。すいません」


 十二騎士に関して知らなかった情報が手に入ったので、よしとして引き下がった。するとガタイが、今気づいたという口調で、金髪令嬢に聞いてきた。


「そういえばお前は、ここの定例会にいつも顔を出してるな?」


 そのガタイの指摘に、金髪令嬢がさりげなく答える。


「私も各騎士方さまと同様にいそがしい身なのですが、この王宮は女王陛下がお越しになる場なので、特別なのです」


 特にその金髪令嬢の言葉にガタイが突っ込むこともなく、会議はそのままお開きになった。


 近江さんもなかなか言うなと感心し、女王の婚約者とはいえ心象のよくない十二騎士からするとこの程度かとわかったものの、俺自身はオモチャになったようで、あまり気分はよくなかった。

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