第5章 温泉旅行編(第38話~第41話)
第38話 旅館到着
「「「「温泉旅館だーーーーーー!!!!」」」」
俺と澪たちは、バスから降りると同時に、バンザイをして同時に叫んだ。山奥の保養地にたたずむ、日本家屋風の豪勢な旅館。俺たちは、自分たちで「休暇」をとって、ここにまで保養にやってきたのだ。
あの近江さんとのデートのあと、俺は澪たちに一部始終を話して助言を求めた。澪たちを巻き込んではいけないという思いはあったものの、俺の手には余るとも考え、家族同然の仲間たちにどうするべきかたずねたのだ。
澪と沙夜ちゃんは難しい顔。サリーはなんとかなるっしょという気楽な考え。ナナミはきっぱりと断るべきという断固とした対応をすすめてきた。
二、三日、曇った雰囲気が俺たちの間にただよったのだが、近江さんがあれ以来学園には来ているものの用事はすんだという様子で俺たちには接触してこなかったこともあって、空気も徐々に変わり……。
「ちょっと……休みたいキブンね」
そのサリーの一言がきっかけになって、話が弾んだのだ。
「なら、休暇をとって保養に行きませんか? お義兄さまも疲れているでしょうし」
「いいですね。今度の週末には三連休があります。近場の熱海にでも……」
「でも。三日だとわりとあわただしくない? 行きと帰りで、のこり一日っしょ」
「ですから、『休暇』をとりましょう」
「「「「?」」」」
その言葉がわからずに、残りの四人がみんな沙夜ちゃんをみつめる。
「学園を『自主的』に休んじゃいましょう。一週間ほど」
そういう沙夜ちゃんの提案があって、俺たちは一週間の保養にやってきたのだ。
上品な初老の女将さんに出迎えられ、渡り廊下から露天風呂付きの離れにまで案内された。上質な古民家のような室内に荷物を置き、俺たちは「あー!」と開放感一杯に大きく背伸びをしたのだった。
浴衣に着替え、澪が備えてあった緑茶を入れてくれて、みんなで座卓にすわりながらのんびりし始める。
「癒されますね、晴斗さま。一息いれたら、露天風呂などいかがでしょうか?」
「おフロ! ってゆーか、オンセン! タワマンのおフロもせまくないけど、広いのダイスキ!」
「ならさ。みんなで一緒に入らない? 変な意味じゃなくて」
ナナミが提案してきた。
「この離れには男湯と女湯がありますが、せっかくなのでナナミさんの言う通り、みんなでゆっくり入りましょう、お義兄さま」
沙夜ちゃんの返答に、俺も同意した。
座椅子に背を預けながらのんびり緑茶を飲んでいると、いつものにぎやかなけんそうが嘘のような気分になってくる。この離れは周囲を森に囲まれているので、雑音がないのがいいところ。
俺たちはお茶を飲み終わった後、ゆるりと脱衣所に移って、特に恥ずかしいとか慌てるとか言う事もなく、のんびりした気分で露天風呂に足を踏み入れたのであった。
◇◇◇◇◇◇
「ここって、男湯?」
両腕を大きく広げて、湯舟前からサリーが振り返ってきた。ほんのりと湯気に染まる身体を、特に隠すこともない。身体を流し終えた澪が、しずしずと足からお湯につかりながら、「女湯です。晴斗さまには申し訳ありませんが、こちらの方が部屋に近かったので」と返答してきた。
「違いはほぼないと思います。ただ、こちらの女湯の方が広いので、よりゆっくりできるのではないでしょうか」
沙夜ちゃんが、そう言って微笑んできた。その沙夜ちゃんも、澪の隣につかる。
「お義兄さま。私の隣へ……どうぞ」
沙夜ちゃんがうながしてきて、俺も身体を流してから、湯舟につかった。俺に続いて、石畳ではしゃいでいたサリーも、どぼんと湯舟にダイブしてきて、お湯から顔を上げて楽しそうな顔を向けてきた。
「コドモみたいにはしゃいでるの、アタシだけだけど、センパイも楽しいっしょ?」
「楽しいというより、気分イイ。お湯につかって、極楽って感じだ」
「シュチニクリン? エロ漫画とかにあるあるシチュ。ここで五人で、とかいうやつ」
「そういう気分じゃないなぁ~」
サリーへの俺の答えに、澪と沙夜ちゃんが、同時にふふっと可愛らしく笑う。
「確かに私も、普段ならお義兄さまと一緒にお風呂など平静ではいられませんが、今は落ち着いて平穏を楽しみたいという気分です」
「沙夜さんに同意いたします。こうやってみなさんと一緒にお湯につかっていると、日ごろの苦労が溶けていく。そんな風に感じます」
そう続けた沙夜ちゃんも、澪も、穏やかでリラックスしきっているという表情。俺の気分もそうなんだが、このままサリーの言った通りのエロいシチュエーションに進む雰囲気じゃない。
「えー! それはそれで、楽しくない! せっかく若い男女が露天風呂なんだから、やることもやりたいってカンジ」
「夕食後に、食欲を満たしてからでよろしいでしょう。露天風呂は逃げませんので、サリーさんがそういうシチュをお望みなら晴斗さまがかなえてくれるでしょう。私も、晴斗さまとは、ここでしてみたいです」
「そうですね。せっかくの温泉なので、ここを使わない手はないでしょう」
「ヤタッ! エロいシチュ、ゲットだぜ!」
サリーに、澪と沙夜ちゃんも同意し、食後の俺の運命は決まったようだ。もちろん、俺も嬉しいことは嬉しいんだが、いつもタワマンでもみくちゃになっているため、しばらくは落ち着いた安寧を味わいたいと思う、お風呂のひとときなのであった。
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