第4章 ホワイトリリー接触編(第33話〜第37話)

第33話 近江さん その1


「なんの用だ、近江。こんな校舎裏に呼び出して。俺に一発ヤッてほしいのか?」


 甲斐は、目の前に立っている近江に、卑猥な言葉を投げかけた。だが、その淫猥な言葉とは裏腹に、甲斐には苛立ちが目立つ。足はせわしなく動き、手を握ったり開いたり。


 そんな甲斐を前にして、近江はふふっと可愛らしく笑う。


「甲斐君。最近、女の子が相手してくれないみたいね。困ってる?」

「困ってねーよ! 俺をバカにするためにこんなところに呼び出したのかよ!」

「晴斗君を馬鹿にして、澪さんを敵にしたのがまずかったね」


 この、甲斐ににっこりとほほ笑んだ近江は、晴斗たちのクラスメートだ。セミロングのサラサラヘアがよく似合う、学園でも四大美花に次ぐほどの人気を誇る明るい子。晴斗たちとはたまに教室で会話をするし、一度だけだが「ナナミさんと結婚したんだってね!」と、晴斗、ナナミ、沙夜の登校途中に声をかけたこともある。


 対する甲斐は、男子カースト上位のイケメンエリート……だった生徒だ。澪と晴斗の馴れ初めのとき、つまりあの放課後の教室で、晴斗を「ショボいゴミ」と言い放ってから、潮が引くように周りから女子たちが離れていったのだ。今の甲斐には、妊娠のためという釣り文句をエサにしても、抱ける女生徒はだれ一人いない。


「そんなにイライラしないで。イイ顔が台無しだよ」

「だからバカにしてんのか、メス! お前がヤらせてくれんのかよ!」

「私のお願い聞いてくれたら、ヤらせてあげる。口でも胸でも前でも後ろでも。好きなところに何回でも、好きなだけ」

「おまえ……」


 甲斐は反応を止めた。信じられない言葉を聞いた甲斐は、固まって言葉を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る