第32話 解放

 美由紀に拘束されて数日がたった。その美由紀といえば、足の錠はといてくれなかったが、腕は自由にしてくれた。


 窓からの光からすると、昼過ぎだろうか。おなかがすいたころあいに、トレーに鍋焼きうどんを持ってきてくれた。それを膝の上に置いて、麺をすすった。空腹だったお腹に、やわらかいうどんとあたたかいつゆが、染み込んでいく。


 ベッド淵に座って、その俺を横目で見ていた美由紀。俺は、食べながら声をかけた。


「食事を持ってきてくれるのはいいんだが、いい加減、自由にしてくれないか。食べにくくてしょうがない」

「私が食べさせてあげるから」

「あの四人がしたことないからだろ?」

「ご名答。私の性癖じゃないけど、あの四人がしたことないって考えるだけで興奮するわ」

「お前、変質者だな」


 そんな会話をしてから、また夜が来る。美由紀は再び、裸になって俺の上にかぶさってくる。お互いに無防備な形で重なっているからだろうか。美由紀に対する警戒心、恐怖感が薄れていって、目をつむる。美由紀と肌を合わせながら、意識が底に沈んでいく。



 ◇◇◇◇◇◇



「お前は敵じゃないように思えるけど、俺を自由にはしてくれない。俺がお前のモノになるまで続けるのか?」


 俺はあるとき、用意された山菜おじやを食べながら、美由紀に聞いてみた。


「ここでゆっくりと過ごしているのは、できれば晴斗に自発的に私たちの仲間になってほしいから」

「俺みたいなモブ高校生が仲間になって、どうなるんだ?」

「私たちの組織はホワイトリリーに比べれば小さなものだけど、貴方は『あの子』に対する切り札になるわ」

「だから……。『あの子』っていったい誰だ?」



 ◇◇◇◇◇◇



「私の仲間になって。後悔はさせない。私は、あの四人の代わりになれるわ」

「無理だな……。それに仲間っていったいなんなんだ? ホワイトリリーと敵対しているようだが……。それを話してくれないと始まらない」

「仲間になってない人には話せないわ。話してから仲間にはなりません、ではすまないもの。貴方をどうにかしなければならなくなるわ」



 ◇◇◇◇◇◇



 そんな会話が数日続いた昼過ぎだろうか。美由紀との日々は唐突に終わることとなった。ベッドで美由紀が作ったサンドイッチを食べているときに、ドアがバアンと開いて、いきなり澪たち四人が飛び込んできたのだ!


「動かないで、美由紀さん! 警察にも連絡したから!」


 第一声は、ナナミだった。警棒みたいなものを手にもって、こちらに構えている。他、澪やサリーや沙夜ちゃんも、さすまたやスタンガンみたいなものを各々手にしていた。


 ベッドに座っている美由紀を囲むように、じりじりとわずかずつ近づいてくる四人。美由紀は、ふっと笑って、そのベッドから立ち上がった。


「思ったより早かったわね。貴女たちが来るのは、ここを引き払ってからのはずだったんだけれど」

「晴斗を解放しなさい! あなたがしたってバレてるんだから、逃げられはしないわよ!」

「それはどうかしら、ね?」


 言い終わると、美由紀は胸元から何かを取り出して、ナナミに向けた。――拳銃――だった。


「晴斗を仲間にしてから退去するつもりだったんだけど……出直しね。反省はしているけど、後悔はしていないわ」


 拳銃を向けられて、露骨にたじろいでいる様子のナナミ。美由紀は他の三人にも銃口を向けて威嚇する。


「動かないでね。撃ちたくはないから。あと、晴斗」

「なん……だ?」

「目的を別にして、貴方をあの子に取られたくなくなったわ。愛着が生まれたと思ってもらっていいわ」


 そう言い残して、美由紀は拳銃を四人に向けあとずさりながら、部屋の扉から出ていったのだった。



 ◇◇◇◇◇◇



 俺はすぐに開放された。泣きついてくるナナミや澪を引き離すように、あとから駆け付けた警官に連れられて、病院に向かった。


 入院は一週間だった。心身共に健康を確認し、体力を回復してから、警察で調書がとられた。隠す理由もないので、知っていることは全部話した。


 マンションに帰って、普段の学園生活に戻った。不思議なことなんだが、俺が登校したときには、美由紀はすでに転校したことになっていた。捕まったという話はどこからも聞こえてこなくて、報道等も一切されなかった。俺も澪たちも、追加で警察に呼ばれることもなく、風の噂で捜査が中止になったと聞いた。


 理由はわからない。わからないが、澪は俺のことを案じて、個人的に調査を続けてくれていた。しかし、ある日、祖父に呼び出され、やめるようにたしなめられたらしい。「澪が手を出しているあれ。あれはよくないねぇ。子供が遊びで手を出していいもんじゃない」、という話だった。


 そして今日は、俺の快気祝いのパーティーだ。ダイニングに入ると、豪勢な七面鳥がテーブルに鎮座し、周囲をアルコールなしのシャンパンとグラスが飾り立てている。


 四人が、クラッカーを鳴らして祝ってくれた。ただその姿は、スケスケのネグリジェや、黒ガーターのエロランジェリー。


「やっと、晴斗さま復活ですね♡」

「まってたんだから、このときを! 今夜は寝かさないから、覚悟しなさいよ!」

「センパイの最初は、クジで勝ったアタシだから!」

「あせることはありません。夜はまだ始まったばかりです。ねぇ、お義兄さま♡」


 ずずずいっと俺に迫ってくる四人の圧。もう待てなくて、ガマンもできないという火照った顔。それに負けそうになりながら、同時に嬉しさもかみしめる。


「やっと完全体になったばかりなんだぞ。俺の身体も少しは案じてくれ」

「なんか、最初に学園で美由紀と絡んだときにキスを奪われたそうじゃない。あと、捕まってたときに私たちがしたことのないプレイとかしたって! 警察の調書に書いてあったって、澪の知り合いの警部補が教えてくれたわ」

「不可抗力だろ? 俺が責められる覚えはない」

「これは……。私たちにもそのプレイを披露していただかねばなりませんね♡」


 俺は、四人に押しつぶされてソファにうずまり、もみくちゃにされる。四人の舌が、俺のカラダ中をはいまわりはじめる。


「不安と緊張が溶けて、もう我慢が効きません。今晩はもう無理だと言われても離しません」

「最初はクジで勝ったアタシから! もう二週間もシテないんだから、五回くらいはレンチャンで楽しませてよね!」


 その澪たちの手や舌での刺激で、俺の中の欲情がムクムクと起立した。いきおいサリーにおおいかぶさり、そのまま行為に夢中になっていく。


 元の日常にもどった俺たちの、いつもの光景。あふれる恋心と欲望を興奮のままにぶつけあう、幸せに満ちた夜が……ふけていくのであった。

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