第31話 捜索

 一方、晴斗が連れ去られた当日。


 澪たちは帰宅したのだが、先に帰った晴斗の姿はなかった。夜になっても、その晴斗は姿を現さない。LINEでメッセを入れても、電話をしても連絡がつかない。夜十時を過ぎて、澪たちは晴斗の身に何か問題が起きたのだと確信するにいたったのだった。


 まず最初、警察への行方不明届の提出とともに、マンションの管理会社に連絡をした。管理会社と澪の家はつながりがある。管理室で防犯カメラを確認すると……。いた! 晴斗だ! 雨に濡れた美由紀と何か話したのち、美由紀の室内に入っていく。


「晴斗が美由紀さんと……? 迷惑してたんじゃないの?」

「晴斗センパイ……。浮気……?」

「晴斗さまに限ってそんなことはありません。管理室の記録を見せてください」


 澪が業務日誌を確認すると、宅配や郵便などの他に、民間救急が呼ばれていた。呼んだのは、周防美由紀。日誌には、そうある。


「民間救急とは普通ではありませんね。通常の救急車ではないのですか?」

「民間救急って……。ただの民間会社がやってる、一回十万円もするってやつ?」

「お義兄さまの体調に何かあったのでしょうか? それとも、雨に濡れた美由紀さんが体調を悪くして、お義兄さまが付き添ったのでしょうか?」


 時刻を確認して、防犯カメラの映像を見る。


「見て。誰かが担架で運ばれてる。美由紀さんじゃない。美由紀さんはそばに立ってる」

「シーツで顔が見えませんが……。おそらくお義兄さまなのでしょう」

「心配です。晴斗さまが体調を崩したのなら、運ばれた病院から連絡があっても……」


 澪たちは、その民間救急の会社に確かめようと電話をかけた。しかし、つながらなくて、メールにも返答が返ってこない。ネットで調べると、HPどころか、それらしいページが全くなかった。四人は、実体のないペーパーカンパニー、あるいは正体不明のあやしい団体だと結論付けた。


「やはり晴斗さまは、何かの事件に巻き込まれ……。警察に通報しましょう!」

「それはもちろんだけど、澪さんのつてでも探してちょうだい」

「シンパイしすぎ、かも? 晴斗センパイ、いまごろどっかでクシャミしてるかも?」

「サリーさんは、さすがに楽観的すぎます。お義兄さまの安全が第一です」


 澪たちは警察に連絡して、澪の家にも手を回してもらうように図った。そして、管理会社の権限で、四人は美由紀の部屋に侵入した。通常、各部屋の鍵は管理会社でも保管していないのだが、急を要するということで、合鍵サービスを呼んだのだ(違法)。


 中に入ると、荒れた様子は皆無だった。むしろ、室内はきれいに整えられ、つい先ほどまでここにいたのだと感じさせた。


 四人は手分けして、晴斗の行き先を探る。澪は実家と連絡をとり、ナナミはおいてあったパソコンを調べ、沙夜は机の書類に目を通し……。


 だが、晴斗に届く手がかりは見つからない。手がかりを全て消し去るのは不可能だ、という実証データを心のよりどころにして、澪たちは探索を続けるが徐々に焦りがつのり。


 と、ひとり何をしたらよいのかと困りながら部屋を歩き回っていたサリーが、その足を止めてぽつりをつぶやいた。


「これ……」

「なに、サリーさん。いまは調べものでいそがしいから……」

「この写真の山、アタシ、しってるなーって。この近くにあって、小学校のときのハイキングで行ったことあるんだけど」

「そんなことはどうでもよくて、いまは晴斗の……」

「でも、他はみんなきれいな風景なんだけど、なんでこれだけ近所の山なのかなって。ほんと、有名でもないただの山だし……」


 声を聞きつけて、澪と沙夜もやってきた。四人、その額縁を見る。


「サリーさん。この山にほんとうに行ったことがあるのですか?」

「うん。あるよ。たしか、隣の駅から……」

「これは、どこかしらの家屋からとった写真の様ですね」


 四人、顔を見合わせて、うなずいた。


「ちょっと調べるのに時間かかるかもしれないけど……」

「調査して特定してもらう価値はあると思います」

「画像解析会社に送ってみましょう。うちの系列に、あるはずです」


 澪の提案に従って、その山の写真が、解析会社に送られた。解析会社の人は夜中にたたき起こされただろうが、申し訳ないと言っている場合ではない。特定には数日かかるということで、澪たちは再び美由紀の部屋の捜索を始める。


 警察に任せるべきことなのだが、その警察はすぐには来てくれない。晴斗の身に何か起こったという事実が、澪たちを駆り立てるのであった。

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