第24話 我慢できない面々 その3
俺は、澪との行為を終えて休んでいた。ただ、俺は寝そべっているのだが、澪はベッドの上で座禅の姿勢。すべて満たされて安寧の中という表情で、その落ち着きはらった顔つきのまま、俺に対して謝罪してきた。
「すみません、晴斗さま。晴斗さまに狼藉を働き、あまつさえ情けをいただくという形になってしまいました」
さらに、澪は素っ裸で丸見えのまま、続けてくる。
「私、解脱し、悟りの境地に達しました。もはや、煩悩には惑わされることはありません。全てが平穏で平静であり、心は穏やかな水面。波一つ立っておりません」
菩薩のような微笑みを浮かべている澪。澪のことは好きで、もちろん悪くは思ってないんだが、先ほどまでベッド上であれだけ乱れておいて、いざことがすんで満足しきったとなると、この態度。
人の話に耳を傾けるいい子なんだが、いざ自分のこととなると、しっかりしているようでいてダメダメな部分もあらわになる。率直な感想なんだが、口にするとまためんどくさいので黙っておく。いいすぎか? 澪、ごめんな。
「言っとくが、裏サイトに投稿とかしないでくれよ。今回のことは緊急避難措置というか、他の女性陣には秘密でのことだから。バレると色々問題だし。これで一週間はもちそうか?」
「一週間と言わず、一ヵ月でも一年でも、大丈夫です。私は悟りを開いたのです」
言ったのち、澪が静かに目をつむった。その顔は穏やかさに包まれており、先ほどまでの焦燥にかられた、もはや我慢は限界だという様子はみじんも感じられない。
「すべてが穏やかで満たされております。このような境地に達したのは、晴斗さまとお付き合いしている四大美花では私が最初ではないでしょうか」
微妙に、ナナミたちに対するマウント臭が感じられるが……。まあ、それはいいとして。
「なら、一週間は無事平穏に過ごせそうでよかった。円卓会議で決めたことだし、我慢が効かないからといって澪だけ特別扱いするってのは、他の子に対して申し訳ないと思ってたところだから」
「悟りの境地に達した私がもはや我慢が効かないということはありません。一週間後、穏やかな平穏に満ちた交情を、再び重ねましょう。それまで、しばしのおいとまです」
にっこりと天使のように微笑む澪。よかった。サリーに引き続き澪にまで問題が生じるとなると、一応の安定が図られている俺たちの間に亀裂が生じることになる。俺は、妻の立場にいるナナミは大切にしたいのだが、澪たちもむげにはしたくない。みんなのことが好きだからなのだが、この世界の常識に染まったのも理由の一つだと感じている。
「じゃあ、澪。今週はもうお手合わせかなわないが、日常生活はよろしく頼む」
「はい」
穏やかに、しかしはっきりと答えた澪をベッド上に残して、保健室を後にしたのであった。
◇◇◇◇◇◇
そして、それから二日ほど経った朝の教室。いつもどおり、澪が入ってきたのだが、様子が前日とかなり違う。「おはようございます」のクラスメートへのあいさつがなく、焦った様子で俺の隣の自分の席にまでやってきて。
「は、晴斗さま……。あの……。そのですね……」
顔を赤らめて、もじもじと、なにやらトイレでも我慢しているような挙動。
「解脱したのですが……。悟りを開いたのですが、三毒根本と言われるように煩悩は手強くてですね……」
目を伏せ、手をすり合わせて、俺を真正面から見られないという様子で続けてくる。
「何が言いたいかと申しますとですね。その……、私も人間ですのでこの世で生きている以上肉体から逃れることはできないのでありまして……」
澪の表情から察するところがあった。今週の最初に俺に頼んできたときと一緒。何一つかわりない。
「言っていることはよくわからないが、言いたいことはよくわかった」
「はい……。私も自分で解決しようと様々な手を尽くしたのですが、かなわず。そのような状態でして、申し訳ないのですが……」
「これからホームルームなんだが、保健室でいいのか?」
「はい!」
俺は頭をかきむしり、澪は顔を上げて顔をきらめかせた。俺は、その澪と連れ立って教室を出たのだが……。別に、澪とするのが嫌というわけじゃない。むしろ、俺みたいなモブ陰キャからすれば、こちらからお願いする立場なのだが、ひとつは俺の体力的な問題。四人を相手にするというのは、俺の好き勝手なペースならいざしらず、求められるのにこたえていくのはかなり厳しい。
もう一つは、四人の間に優劣をつけたくないという、俺の個人的なわがままの問題。前の世界なら一人を選べ、ということなのだが、そうなると三人は切り捨てることになる。俺ごときに好意を寄せてくれている相手を振るのは、どうしても申し訳なく感じてしまう。男性に困らない美少女たちなので、なおさらということになる。
廊下を歩く俺に腕を絡めてくる澪。足取りが軽く、顔には悩みが晴れたという笑顔が浮かんでいる。
まあ、高校生程度の俺たちが悟りとか無理だよな……と思った、保健室への旅路なのであった。
◇◇◇◇◇◇
「ダメ、このままじゃ! 円卓会議!」
その晩の夜のお勤めのあと、ベッドで、ナナミが俺に言い放ってきた。行為中は悩みもなく快楽を楽しんでいるという様子だったのが、終わったとたんに豹変した。どこから情報を仕入れたのか、俺がサリーにパンツを提供したこと。我慢が効かなかった澪と寝たこと。すべてナナミにバレていて、そのナナミは鬼の形相。
「晴斗も晴斗だからね! 私たち四人で決めたことをおしゃかにして! サリーさんと澪さんのわがまま通した晴斗も同罪だからね!」
「すいません。反省してます」
俺は、何も言い返せずに誤った。言い訳の余地はない。ナナミと沙夜ちゃんはちゃんと約束を守っているのに、サリーと澪は破ったのだ。それに俺も加担したことになる。言い訳できるはずもなかった。
「だからもう一度、円卓会議。今度は晴斗も参加だからね!」
「え! 俺もか?」
驚いた俺は、声を上げた。学園のカースト最上位に君臨する四大美花。その意思決定機関である円卓会議。それに俺も参加しろとナナミはいう。
「そもそも、晴斗がえこひいきするからこうなったんだから! 女性みんなを愛するのが、男の価値! でしょ!」
ナナミが言い放った、この世界の常識。一人を選ぶのも難儀なことだが、選ばないのも大変なことだと実感する。女性陣をみな愛せと要求される理不尽。俺はえらくもなんともないんだが、大奥に出入りしていた昔の殿様の苦労みたいなものを実感している、夜更けのベッド上なのであった。
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