第22話 我慢できない面々 その1
「それが、きょう私たち四大美花で決めたことなんだけど」
「話はわかった」
夜、ナナミとのお勤めが終わったのち、俺はベッドで報告を受けていた。
「ナナミたちがそれでよくって、みんなうまくいって満足してくれるならそれでいい。俺が文句言って台無しにするつもりはない」
「妻の私としては、他の誰かに抜けてもらいたかったから頑張ってみたんだけど。ごめんね」
「なんでナナミが謝るんだ? ナナミは俺のこと、いっぱい考えてくれてるじゃないか。実際に負担かかっていたのは事実で、その為に円卓会議を開いてくれたことに感謝してる。ナナミは俺のことを考えてくれてる」
「ありがと♡」
ナナミが、俺の頬にキスをしてきた。お勤めの最中は口どうしを絡め合いなので、今はこういったフレンチな軽い接触が逆に心地よくて、安らぎを感じる。
「でも晴斗。晴斗は、その日の気分で好きなときに好きな女を抱くんだみたいな男の欲望的なものってないの? 私たちは、互いに妥協しながらも晴斗を独占したいっていう女の欲望的なものはあるわよ」
「ないわけじゃないんだが……」
俺は、考えながら言葉にする。
「わりと澪もサリーもナナミも沙夜ちゃんもみんな均等に好きっていうか、グラマーな澪のあとでのサリーは新鮮で、サリーの後にナナミがくると馴染んでてほっとする」
「そこは、私が一番だって言い切って欲しかったところなんだけど」
「個性があって、みんな大好きだから、嘘はつけない」
「スキ♡ そういうのもひっくるめて、晴斗が大好き♡」
ナナミが、俺の口を強引に奪って、カラダを絡めてきた。本当に女性陣たちは底なしだと舌を巻きつつ、もう一回戦くらいする余力はあることに安堵する、その日の俺なのであった。
◇◇◇◇◇◇
で、沙夜ちゃんとサリーが抜ける一週間が始まった。初日は何の問題もなく過ぎたのだが、まだ二日目だろうという段階で、いきなり問題が発生した。休み時間に、サリーが俺の教室前に姿を現し始めたのだ。
それも、一回や二回じゃない。一時間目と二時間目、二時間目と三時間目。そして昼休みと、まるでストーカーのように廊下から俺の教室をのぞき込みながら、まるでヤニの切れた喫煙者のように落ち着かない様子で廊下を歩き回る。いらいらしているのがはた目からでもまるわかりだ。
さすがに無視することもできずに、昼休み、そのサリーに「どうしたんだ?」と声をかけた。背後から呼びかけたとたんに、ひゃっとサリーは飛び上がった。
「い、いきなり声かけないで、晴斗センパイ!」
「なんでストーカーみたいなことやってんだ? 俺に用があるなら教室に入ってきて……」
「ダメ!」
俺が会話を続けようとした瞬間、サリーが俺から数歩あとずさり、顔の前に手をかざして拒否の姿勢を見せてきた。
「ダメ……って?」
「アタシに話しかけないで!」
「いや、そういわれてもここに来てるのはサリーで……」
「今、晴禁中だから」
「意味わからん」
「だから、晴斗センパイと接触禁止中だから!」
俺と接触禁止中? 沙夜ちゃんが提案した、俺の割り振りのことだろうか?
「それって、行為禁止の条約だろ? 日常会話なら別に……」
「チュウトハンパってダメだって思ったから、いっそのことって思って自分で晴禁にしたワケ。でも、思ったよりツラくって、こっそりと晴斗センパイを見て、セイシン落ち着けようとしてたんだけど……逆効果だったみたい」
そうのたまわったサリーを見やる。顔が歪んで脂汗を流している。ぜーぜーとした荒い息が、まるで何かの禁断症状を思わせる。
「無理はよくないって思うぞ。普通に接して会話してるだけで、一週間なんてすぐに過ぎるから」
「それはそうかもだけど、一週間するのなしってのは、この若さだとそれはそれでツラい。晴斗センパイは誰かとはできるからいいだろうけど」
知ってはいたが、かなり前からサリーは複数人とのとっかえひっかえの行為をやめている。正直、女の子にそこまで想われるのは男としては嬉しくもあるんだが、サリーにとってはメリットもデメリットもあると思ってあとに続ける。
「俺のことを想ってくれるのはすごく嬉しい。それに間違いはない。でも、この世界の常識もあるし、我慢しないで他の誰かと……」
「ダマって! アタシに声かけないで! 私、もうそろそろガマン限界だから! 晴斗センパイに声で刺激されたら、ここでハダカになって襲いかかっちゃいそうだから! というか、襲いかかるから!」
「マジですか……サリーさん? あと一週間あるんだけど?」
「マジ。ちょっと、あと一週間、どうしようかって途方の暮れているトコロ」
言い終わると、サリーは脱兎のごとく逃げ出した。見る見るうちに背中が遠くなる。途中でコケて、ほんとに大丈夫かと思う間もなく、廊下の角を曲がって見えなくなったのだった。
◇◇◇◇◇◇
そして、その夜、そのサリーからメッセが届いた。いい案浮かんだ! という内容で、おれにあるものを持ってきてほしいというお願いだった。ちょっとこれは……とは思ったが、昼間のサリーの様子がつらそうだったのと、ラインの文面に馴れない丁寧語が羅列してあったので、承諾した俺なのであった。
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