第20話 円卓会議 その1

 場所は文芸部の部室、日時は祝日の午前中。ナナミが招集した、学園カーストを統べる四人による、円卓会議。澪は自分の邸宅でと申し出たのだが、ナナミがアウェーでの開催を嫌い、有利不利のない部室が選ばれたのだ。そして、四人がテーブルを囲み相対してすでに一時間……。澪が、給仕したテーブルの紅茶に手をのばしながら、ぼそりとつぶやいた。


「ブルガリアから取り寄せたローズヒップティー。すっかり冷めてしまいましたね。ご列席の方々の熱は上がる一方なのですが」


 言いながら、カップに口をつけ、優雅にそれを含む。一時の静寂のあと、にらみ合っていた四人が再び口論を始めた。


「だから、いったでしょ! 妻である私が最優先なのは晴斗も求めてることなんだし。私が満足できるように、少し控えてってだけの話!」

「なんでナナミセンパイが最優先なの? 妻とか(笑)。カンケイないっしょ」

「関係大有りだから! 晴斗が私を妻に選んだってことだから!」

「ハメただけっしょ? 晴斗センパイは知らなかったっていってたし。そもそも、その妻とやらに満足できてないから、晴斗センパイはアタシたちにお熱なわけだし。『具合』がよくないんじゃないの?」

「あ゛?」


 売り言葉に買い言葉。サリーの放った一撃に、ナナミがヤンキー顔でガンを飛ばす。対するサリーも引くようすがない。


「晴斗センパイのモノは、学園の女子みんなが求めるすばらしいものっしょ。それに、ナナミセンパイの具合が見合ってないんじゃないの? なんつーか、釣り合ってないとか? 月とすっぽん?」

「誰に何いってるか、わかってんの? 胸も尻もないお子様がよくいえた義理よね。かわいそうで哀れだから晴斗が慰めてくれてんの、わかってる?」

「アタシと晴斗センパイがしてるとこ、いっかい見せてあげたいってカンジ。アタシに襲いかかる晴斗センパイ、ケモノだから。もう、ものすごいから。アタシのこの小柄なカラダのミリョク、女のナナミセンパイにはわからないっしょ」

「そのあたりにしておいてください。話がまとまるものもまとまらなくなります」


 澪が、ののしり合っているナナミとサリーの間に割って入った。


「ナナミさんは、私たちに控えめにしてほしい。私たちは、ナナミさんに現状を受け入れてほしい。そうですね?」

「まあ、そう」

「そうっす」


 ナナミとサリーが、澪に同意した。


「確かに、ナナミさんの気持ちはわからないではありません。夜にさあこれからという場面で、晴斗さんに元気がないのは、控えめに言っても落胆します」

「なら、アタシたちにガマンしろってこと?」

「そうは言ってません。ナナミさんが私たちより優勢されるべき理由はなにもありません。ですが……」


 澪はいったん言葉を切り、テーブルの三人を見渡す。ナナミ、サリー、黙って話を聞いている沙夜が、同時に澪を見つめる。


「晴斗さんに負担がかかりすぎているのも事実です。実際、最近の晴斗さんは前より元気がなくなってきたと思いませんか?」

「たしかに」


 サリーがあいづちを打った。


「晴斗センパイ、前より時間が減ったし、回数も減ったし、シャニムニってカンジじゃなくなってるのはたしか」

「そうね。妻である私との夜の営みも、前は喜んでという感じだったんだけど、今だとお勤めだからしかたなしというようすで……。色々、雑になってきてるし……」

「人一倍精力旺盛な晴斗さんといえど、昼夜なく私たちが求めていては疲弊するというものも道理だと思いませんか?」

「まあ、それは澪さんの言う通り。だから私が言った通り、サリーさんたちは少し控えて……」


 ナナミが自分の流れになったところで再度提案するが、サリーは再び拒否をした。


「アタシ、そんなに週の回数多くないんだけど。それに、イロイロえらそうなこと言ってるけど、澪センパイが一番回数多く晴斗センパイを拘束してるの、しってんだけど? 澪センパイ、最近だとホテルでいろいろ道具を使って晴斗センパイにイジメてもらって喜んでるの、しってるんだけど」

「茶化さない……。話を脇道にそらさないでください!」

「澪センパイ、お尻をぶたれるのが大好きで、声がすごいからって晴斗センパイアタシにもどう? とか言ってきて、晴斗センパイにヘンなセイヘキつけるのヤメテもらいたいんだけど」


 澪の顔が、みるみるうちに真っ赤になる。やがて澪は湯気を立て、ヤカンのように頭のてっぺんから蒸気を吹き出しながら、両手で顔を覆って黙り込んでしまった。


「ああもう! 話が進まない!」


 ナナミが、その奇麗にとかしてあったブラウンショートの髪を掻きむしって、苛立ちをあらわにしたところで、いままでずっと黙っていた沙夜が、ぽつりと提案してきた。


「三組を、ローテーションにしてはどうでしょうか?」


 三人が、一斉に口を開いたその沙夜を見た。

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