第19話 争奪戦 その6
夜。その日のお勤めが終わった後。隣で寝ていたナナミが、うーん納得いかないという声音で、うなるように不満を漏らしてきた。
「晴斗。なんか、元気なくない? 前は、こんなんじゃなかったと思うんだけど」
「え? そうか? 前と変わりないと思うけど。プレイがマンネリ化しているからそう感じるだけなんじゃ……」
「いえ。違うわね、これは。力強さもそうなんだけど、私に向けてくる熱量が前に比べてぜんぜんたりない。結果、私は不完全燃焼というか物足りない」
裸のナナミが、同じく何も着ていない俺に覆いかぶさって、直上から見下ろしきた。
「白状しなさい! 何か原因があるんでしょ!」
「それは……」
「私に魅力がないわけじゃないことはわかってる。体調もいいし、自分的にも自信がある。ただ、晴斗の元気がないだけ」
「…………」
なんと言ったらよいのかと迷っているうちに、俺はナナミの前に正座させられた。さとしてくるナナミに、俺は素直に謝った。
「すみま……せん」
「これは、はっきりいって夫婦関係の危機よ。真剣にとらえなさい。で、原因はなに?」
ここまで問い詰められて、しらを切るわけにもいかなかった。ナナミへの愛着があって、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「実は、ナナミの他に、澪と沙夜ちゃんとサリーともしているんだが……」
「うん。それは知ってる……っていうか、サリーとも?」
「ああ。成り行きで、沙夜ちゃんとホテルに行くとき、サリーも一緒に混ざってる」
「まあいいわ、それは。で、原因はなに?」
「最初は俺が頑張れば問題ないって思ってて、その判断に間違いはなかったとも思っているんだけど、想像以上に澪もサリーも沙夜ちゃんも激しくて。モブで陰キャながら、ためこんだ精力だけには自信があったんだが、延長戦を何回も要求されて……。正直、あれほど消耗させられるとは……想像して……なくて……」
「…………」
ナナミが、複雑な顔をして押し黙った。ふぅと、大きな吐息をつく。のち、こめかみに手を当てて困ったものだという表情を浮かべた。
「理由はわかったわ。私が原因じゃないってことも、確認した。で、その澪さんたちにもう少しだけ遠慮してもらうことはできないの? 軽めに済ませてもらうって感じで」
「澪たちもローテーションを待ってるわけだから、存分に満足したいって気持ちがあるのは理解できる。俺からすれば毎日だけど、向こうからすると数日に一度のペースになるから」
「でも、晴斗はもたないんでしょ?」
「澪たちの要求を全て飲むと、そう」
「うーん……」
再びナナミが、どうしたものかと、かぶりを振る。
「ちなみに、ナナミが一番軽いというか、楽っていうか……」
「あ゛!?」
「いや、ちがうんだ! ナナミのことをけなしているわけじゃなくて、沙夜ちゃんたちは同時に二人だし、澪はあれでストレスをため込んで重いところがあるから……。ナナミとするのが一番快適だって話」
「まあ、それなら許す」
「ふぅ……」
不用意に口を滑らせたのを、いけないいけないと、反省する。実際のところ、たまになら沙夜ちゃんたちや澪とのプレイは刺激的なのだが、毎日となればナナミ相手が快適だという話だ。と、ナナミが決意したという口調で言い放ってきた。
「これは、円卓会議ね」
「円卓会議……?」
「四大美花による紛争解決会議を招集するわ。謀略と策略を張り巡らせた討論形式による女の決戦よ。晴斗を誰にどれだけ割り当てるかという」
「な……」
過激なセリフに黙らされた俺の前で、ナナミの瞳に炎が浮かんで燃え上がっている。絶対に勝つ、俺を奪い取るんだという決意の揺らめき。
「そこまでしなくても……」
「シャラップ!」
ナナミは俺を黙らせた。
「男は黙って女性に注いでいればいいの! 誰がお相手するかは、女である私たちが決めること! 男は注いだ量が魂の価値! 女は注がれた数が魂の価値!」
ナナミはもはや俺の言葉を聞いてはいない。澪たちと、対話の形をとった女の戦いを制すのだと、その目に決意を揺らしているのであった。
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