第17話 争奪戦 その4

 行為のあと、俺と澪がベッド上でその余韻に浸っていると、血相を変えたナナミが部室に飛び込んできた。裸で抱き合っている俺たちを見て、問いただす。


「やっちゃった!?」

「はい。やっちゃいました♡」


 ニッコリと答えた澪。ナナミは、その澪をにらみつけながら、さらに続けてくる。


「休み時間に晴斗の様子を見に行ったらいなくて、聞いてみると澪さんが連れ出したらしいから……。もしやと思ってきてみたんだけど……」

「晴斗さまが約束してくれました。妊娠するまでは、私に付き合ってくださると♡」


 澪がにこやかな笑みを見せ、それを目にしたナナミが、いきおい俺に言葉を向ける。


「妻である私を一番に考えてくれるって言ったじゃない!」

「それは心にとめてある」

「私を満足させて幸せにしてくれるって言ったじゃない!」

「もちろんその責任は果たす。でも、澪を無視することはできない。俺ががんばれば、みんなが幸せになれる」

「晴斗にできるの? 私がおざなりにならないの?」

「しないつもりだ」

「ぐぬぬ……」


 俺がベッドから起き上がって向き合うと、ナナミはビシッと指を突き付けて言い放ってきた。


「なら、社会通念上するなとは妻の私でもさすがに言えないから、澪さんの中にいっぱい注いで、ちゃっちゃと妊娠させちゃいなさい!」

「ちゃっちゃとって……」

「そうじゃないと、私とのココロとカラダの交流に影響が出るでしょ!」


 険しい顔で命令してくるナナミ。表情に不満が満ちてはいるが、納得せざるを得ないという状況。この世界の常識は、理解した。そのルールに従うと、妻がいるいないに関わらず、多くの女性に手を出すことは、むしろ非難よりも称賛されることなのだ。とそこに、俺たちの会話を様子見していた澪が、割り込んできた。


「晴斗さまはお優しいですね。でも、その慈悲に甘える権利があるのはナナミさんだけではありません」

「なにがいいたいの?」

「ちゃっちゃと終わらすか、じっくり取り組むかは、私と晴斗さまが選びます。例えば、本筋を外れての胸や口や後ろでのプレイ。夢が膨らみますね。長いお付き合いになりそうですね、晴斗さま♡」

「な……!?」


 その、自分の希望を無視した澪の強力なセリフに、ナナミは絶句する。一糸まとわない澪が、同じく真っ裸の俺に抱きついてくる。


「裏サイトで書き込んでいましたね、ナナミさん。口でされたとか胸を試してみたとか、嬉しそうに。でも、後ろはまだのご様子。興味があるけれど、躊躇もあるのだと。私はいまさっき、後ろを経験してしまいました♡ 私も晴斗さまも初めてでした♡」

「…………」


 それを聞いたナナミは、衝撃を受けて沈黙した。そのまましばらく放心していたが、気を取り直した様子で、鬼の形相で俺に向けて言葉を叩きつけてきた。


「晴斗! それほんとなの! 私とこんどチャレンジしてみるって、昨日の夜話したじゃない!」

「ウソだウソ! 全くのでたらめ! 澪がお前をからかってるだけ!」

「あら、晴斗さま。私たちの初めての経験をもったいぶらなくてもいいじゃないですか。どれほどの快楽なのか、ナナミさんにもじっくりとお話だけでもお裾分けして差し上げましょう」

「晴斗!!」

「ウソ! 澪もいい加減にやめてくれ! 意地悪するなら付き合うのはナシにする」

「すみませんでした。全くの嘘出鱈目です。ノーマルな事しかいたしておりません」


 澪は、ほんとうにあっけなく、謝ってきた。


「本気にするところだったじゃない!」


 ナナミは、ふーふーと荒い息をしながら、なんとか自分の気を静めるという様子。その場面で、ベッド横に投げ捨ててあった俺のブレザーから音がした。立ち上がって上着のポケットからスマホを取り出すと、サリーからのメッセだった。


 大切な話があるということで、無視するのも悪いと思った俺は、その場は一旦お開きにした。指定された時間である昼休みに、サリーとの約束の場所に出向いたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る