第9話 義妹沙夜 その2

「私もここに入部することにいたしました」


 入ってきたのは、義妹の沙夜ちゃんだった。沙夜ちゃんは、サリーと同じ学園の一年生だ。サリーに加え、沙夜ちゃんにも上級生に隠れファンが多いらしい。


 守ってあげたい『学園の妹』。昨日サリーに教えてもらったのだが、その沙夜ちゃんに加え、澪とサリーと幼馴染のナナミは、この学園の『四大美花』と呼ばれているらしい。沙夜ちゃんまでもがやってくるとなると、俺の周囲にその四大美花がすべてそろってしまうことになる。


 澪が不承不承、俺から離れて沙夜ちゃんを迎え入れる。部室内には俺と美花三人の、計四人。黙って立っているわけにもいかない。澪が紅茶を入れて、四人でテーブルに着いてお茶をすることになったのだった。


「リーフのテロワールを引き出したストレートティーなのですが……。沙夜さんもサリーさんもお気に召さないようですね」

「…………」

「…………」


 澪が入れた紅茶を、四人で黙って口に運ぶ。沙夜ちゃんはしずしずと、サリーはぶっちょうづらで。互いに相手の出方をうかがっているような落ち着かない時間を最初に打ち破ったのは、沙夜ちゃんだった。


「澪先輩。お義兄さまとの情事、存分に楽しまれたようで」


 俺は飲んでいた紅茶を噴き出してしまった。それを見ているはずの沙夜ちゃんなんだが、全くかまわずに聞いてくる。


「裏サイトでも随分とご機嫌の様子。念願かなったのは、他人事ながら喜ばしいとは思います」

「そうですか……。晴斗さまの義妹さんに祝福していただけて、素直にありがとうございますとお返事申し上げておきます」

「ですが……」


 沙夜ちゃんがいったん言葉を切り、澪の頬がピクリと震える。


「あまり裏サイトではしゃがれるのは、正直どうかとも思っています」

「と、言いますと……」

「あそこは学園の女生徒たちみなが見ております。ただでさえお義兄さまの評判は高いのに、澪さまが手を付けるのに成功したとなると、お義兄さまに群がる女生徒達がさらに増えてしまいます。それは、澪先輩にとっても本意ではないと思っています」

「…………」


 澪は、それを聞きながら自分で入れた紅茶をすすってはいるが、渋い表情。沙夜ちゃんがさらに畳みかけてくる。


「実際、澪先輩が行為の事実をネットに暴露した直後に、サリーさんがお義兄さまにアプローチしてきたわけでありますし」


 ちらと沙夜ちゃんがサリーに目を当てると、サリーが猛然と反論してきた。


「アタシに文句つけるの、筋違いじゃないかな? 誰とヤろうと、そんなの本人の自由じゃん!」

「サリーさんに文句をつけているわけではありません。この学園にお義兄さまをお慕いしている女性は、大勢おります。その女性たちにも、自分の情熱をお義兄さまにぶつける自由はもちろんあります。ですが、それと私や澪先輩の利益は、また別の話になります」


 え? 沙夜ちゃん、なんて言った? 俺を慕っている女子が学園にたくさんいる? マジなのかそれは……という俺を置いてきぼりにしながら、美花たちの会話は続いていく。


「すいぶん正直というか、ぶっちゃけた話ジャン、沙夜。素直に自分も晴斗センパイとヤリたいって言えばいいジャン」

「ヤリたいです」


 沙夜ちゃんがはっきりときっぱりと言い切ってきた。俺は、再び口に流し込んでいた紅茶を噴き出す。


「ヤリたいんですが、私は義妹になります。血の繋がりはなく、法的には何の問題もないのですが、一つ屋根の下で一緒に近しく暮らしてきたという事実が逆にお義兄さまの情欲を覚めたものにしてしまう原因にもなっています。なんというか、新鮮さがない……とでもいいますか」

「自業自得ジャン。晴斗センパイと一緒にお風呂はいったり好き放題にハダカを見たりできて、さらにヤレるなんて虫のいいことあってたまるかってカンジ」

「いえ、裸とかそこまでは出来ておりませんが。たまにお風呂上りのお義兄さまの下着姿を拝見させていただいてはおります。眼福ではあります」


 え? そうなのか、沙夜ちゃん! 俺のお風呂上りをそんな目でみてたの!? その俺の心の突っ込みが聞こえるはずもなく、沙夜ちゃんたちの会話が続いていく。


「で。この部活の話を聞いて『これだ!』と思い立ったのです」

「この部活は、私が晴斗さまとの逢瀬を重ねるために作ったものです。邪魔されるばかりか、あまつさえ利用されてはたまったものではありません」

「申し訳ありませんが、私にも私利私欲はありますので、利用させていただきます」


 沙夜ちゃんと澪が、無言でにらみ合う。サリーはその脇で、きょろきょろとこの先の展開に落ち着かないといった様子。


「家で色っぽい格好をしても、お義兄さまにはスルーされてしまいます。ですが、ここならば。この学園内の密室ならば、お義兄さまは私を受け入れる他はないと思い立ったのです」

「私が、私と晴斗さまだけのために作った愛の巣です」

「巣の設営、感謝いたします。丁寧に使わせていただきますね」

「私が認めるとでもお思いですか?」

「実は、隙を見て、お義兄さまの紅茶にネットで仕入れた媚薬を入れておきました♡」


 言い放った沙夜ちゃんが、いきなり立ち上がって制服を脱ぎ出したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る