ぶんぶく茶釜

「ぶんぶく茶釜の呪い」


昔々、ある寺に貧しい和尚が住んでいた。寺は古く、何もかもが朽ちかけており、修理をするお金もなく、和尚は困り果てていた。そんなある日、寺の片隅で埃まみれの古い茶釜を見つけた。少し錆びていたが、立派な造りの茶釜で、使えばお金を少しでも稼げるかもしれないと思った。


喜んだ和尚はその茶釜を磨き、村の祭りで茶を振る舞うことに決めた。


祭りの日、和尚が湯を沸かし始めたその時、茶釜から不気味な音が聞こえてきた。金属がきしむような音で、湯気が立ち上るにつれて、茶釜はまるで生き物のようにうねり始めた。驚いた和尚が茶釜を覗き込むと、茶釜の取っ手の部分が蛇のように伸び、足が生えてくるのを見てしまった。


茶釜が突然、狸の形に変わり、「助けてくれ!」と叫びながら寺の中を駆け回ったのだ。


村の人々もその光景を見て驚き、茶釜の変貌に恐れおののいた。和尚は驚きながらも、必死に茶釜を捕まえようとしたが、茶釜は逃げ回りながら怪しげな笑みを浮かべた。


「お前は、もうこの茶釜に取り憑かれたんだ。私を捨てることはできないぞ……」


その言葉に、和尚は凍りついた。何とか茶釜を押さえ込んで寺に戻したものの、それ以来、寺の中では奇怪なことが起こり始めた。夜になると茶釜から狸の笑い声が聞こえ、周りには見えない影が徘徊しているような気配が漂う。


和尚は耐えきれなくなり、茶釜を手放すことにした。ある日、隣村の道具屋に茶釜を売りに行き、「古く立派な茶釜です」と言って渡した。


道具屋は喜んでその茶釜を引き取ったが、その晩から異常な出来事が起こり始めた。道具屋の家では、茶釜から絶え間なく不気味な笑い声が響き、家中の物が勝手に動くようになった。茶釜を捨てようとするたびに、茶釜は道具屋の前に戻ってきて、必ず不気味な声で囁いた。


「私はお前のものだ。お前は私から逃げられない……」


恐怖に駆られた道具屋は村の人々に助けを求めたが、誰もその茶釜に近づこうとはしなかった。ついに道具屋は茶釜を井戸の底に沈め、村を離れることにした。


だが、それからしばらくして、村では不思議なことが起こり始めた。井戸からは狸の笑い声が夜な夜な響き、村人たちは次々に病に倒れていった。村の長老たちは恐れ、あの茶釜が呪われたものであることを悟ったが、手の施しようがなかった。


やがて、村は静まり返り、誰も住まなくなった。そして、今でもその井戸に近づくと、夜になると遠くから狸の笑い声が聞こえてくるという。


「私はまだここにいる……誰か、私を見つけてくれ……」

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