おむすびころりん
「おむすびころりんの闇」
昔々、ある山奥の小さな村に、おじいさんが住んでいた。おじいさんは優しく、いつもにこにことしていて、誰からも好かれていた。ある日、おじいさんは山へ薪を取りに行き、休憩の合間に、おばあさんが作ってくれたおむすびを食べようとした。
ところが、手に取ったおむすびが、うっかり転がり落ち、あっという間に近くの大きな穴に落ちてしまった。おじいさんは「おむすびが転がっちゃった」と残念に思いながらも、好奇心に駆られ、穴の中を覗き込んだ。
「中には何があるのだろうか?」とおじいさんは思い、穴に入っていくことにした。
穴の中は驚くほど広く、奥へ進むと、小さなネズミたちが集まっていた。彼らはにこにこと笑い、おじいさんを歓迎してくれた。ネズミたちは「おむすびをありがとう」と言って、宝物の入った箱をおじいさんに差し出した。
おじいさんはその宝物をもらって家に帰ると、中には大量の金銀財宝が詰まっていた。おじいさんは大喜びし、村中の人々にその話を語り、村人たちは感心していた。
ところが、欲深い隣の男がその話を聞きつけると、自分も同じように金銀財宝を手に入れようと企んだ。翌日、その男はわざとおむすびを持って山へ行き、同じように穴へと入っていった。
しかし、彼が穴に入ると、そこには笑顔で迎えてくれるネズミたちではなく、不気味な暗闇が広がっていた。穴の中は妙に湿っていて、腐敗したような匂いが漂っていた。男は不安に駆られながらも、奥へと進んでいった。
しばらく進むと、薄暗い中で何かが動く音が聞こえた。すると、巨大なネズミが現れ、男をじっと見つめていた。ネズミの目は赤く光り、その表情には先ほどのおじいさんが見た温かさは一切なく、どこか冷たいものが感じられた。
「おむすびはどこだ?」とネズミが低い声で尋ねた。
男は震えながらおむすびを差し出したが、ネズミはそれを無造作に飲み込み、再び男に向かって囁いた。
「おむすびだけでは足りない。お前の欲が招いたことだ……代償を払え。」
突然、地面が崩れ落ち、男は暗闇の底へと引きずり込まれていった。男の叫び声が響いたが、穴の中は次第に静寂に包まれ、再び静かになった。
翌日、男が家に戻ってこないことを不審に思った村人たちは、山へ捜索に向かった。だが、男の姿は見当たらず、あの大きな穴も忽然と消えていた。ただ、不気味な静けさだけが山中に漂っていた。
それ以来、その山には誰も近づかなくなった。村では「欲深い者は、あの穴に呑まれて二度と戻ってこない」という話が伝わり、満月の夜には、山の中から男の叫び声が風に乗って聞こえてくるという。
「おむすびが……ころりん……」
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