わらしべ長者
「わらしべの呪い」
昔々、運に見放された貧しい男がいた。男は生まれてこのかた、何をやってもうまくいかず、貧しい生活を送っていた。そんなある日、男は観音様に願掛けをしに行き、そこで「最初に拾った物を大切にし、それを元に幸運を手に入れよ」というお告げを受けた。
男は観音様の言葉を信じて帰る途中、ふと道端に一本のわらを見つけた。それが自分の幸運の始まりだと思い、そのわらを大切に持って歩き続けた。やがて、男は次々に物を交換していき、わらが蜜柑に、蜜柑が反物に、そして次々と大きな財産に変わっていった。
ついに、男は大きな屋敷を手に入れることになった。立派な屋敷と土地、美しい妻までも手に入れ、男はわらしべ長者として知られるようになった。だが、彼が手に入れたものには、誰も知らない暗い秘密があった。
夜になると、男の屋敷では奇妙な音が聞こえるようになった。床下から、かすかに何かが這い回るような音。男は気味が悪く思いながらも、気にせず眠ろうとしたが、その音は次第に大きくなり、ある晩、ついに天井裏から何かが滴るような音が聞こえてきた。
「ぽた、ぽた……」
不安に駆られた男は、天井を見上げると、そこには赤黒い染みが広がっていた。恐る恐る梯子を使って天井裏を覗くと、そこには恐ろしい光景が広がっていた。
かつて男が交換して手に入れた物――反物や蜜柑、古い道具の中から、次々と人間のような手や足が飛び出していた。それは、この世のものではない、異形の存在だった。彼らは無表情のまま、男をじっと見つめていた。
「我らの物だ……返せ……」
男は恐怖で震え上がり、屋敷を飛び出した。だが、外に出てもその声は追いかけてくる。
「返せ……元の持ち主に……返せ……」
男が手に入れたものは、すべて他人の運や命を吸い取る代償として得たものだった。わら一本から始まったその連鎖は、次第に人々の不運を吸い寄せ、そしてそれが今、すべて男に降りかかろうとしていた。
男は次の日から、次第に不運に見舞われ始めた。作物は枯れ、屋敷は崩れ、妻は突然の病で亡くなった。手に入れたはずの富も消え失せ、再び何もかも失った男は、かつての貧しい生活に逆戻りしてしまった。
最後に残ったのは、一本のわらだけだった。男はそれを握りしめ、涙を流しながら呟いた。
「こんなはずじゃなかった……」
しかし、その瞬間、わらは男の手の中で黒く変色し、ひび割れた。そこからは、不気味な声が聞こえてきた。
「始まりに戻れ……全てを失え……」
その声とともに、男の姿は次第に闇の中に溶け込み、やがて誰も男を見かけることはなくなった。村人たちは男の屋敷が荒れ果て、誰も住むことができなくなったことに気づき、そこには決して近づかなくなった。
わらしべ長者としての名声は、いつしか「わらしべの呪い」として語り継がれるようになり、今でもその屋敷の跡地では、夜になると「返せ……」という声が風に乗って聞こえてくるという。
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