さるかに合戦
「猿の呪い」
昔々、ある山奥の村に猿と蟹が住んでいた。蟹は真面目で働き者だったが、猿はずる賢く怠け者で、いつも人を欺くことばかり考えていた。
ある日、猿が柿の種を持って蟹に近づいた。「蟹よ、この柿の種をやろう。植えれば大きな柿の木が育つぞ」と言い、蟹が持っていたおにぎりと交換させた。蟹は親切な猿の言葉を信じ、柿の種を植えた。
日々水をやり、世話をすると、やがて大きな柿の木が実った。柿がたわわに実った頃、猿が再び現れ、「木に登って熟れた柿を取ってやろう」と言った。蟹は感謝して待っていたが、猿は熟れた柿を自分だけで食べ始め、蟹には硬くて食べられない青い柿を投げつけた。青い柿が蟹の体に当たり、蟹は重傷を負ってしまった。
苦しむ蟹を置き去りにし、猿は高笑いしながら山に逃げた。
村では蟹の仲間たちが怒り、猿に復讐を誓った。栗、蜂、臼、牛糞が集まり、猿を討つために策を練り、猿が住む山奥の小屋に向かった。猿が何も知らず小屋に帰ると、仲間たちは次々に襲いかかり、猿は倒された。
しかし、その夜、蟹たちが猿の亡骸を片付けようとすると、猿の死んだ目が突然見開き、冷たい声が響いた。
「お前たちも、ただでは済まさない……」
猿の体は冷たくなっていたはずだが、動かぬ体からは怨念のようなものが漂っていた。蟹たちは恐れおののき、急いでその場を立ち去ったが、その晩から奇怪な出来事が起こり始めた。
蟹の家の周りでは、夜になると柿の実が勝手に落ちる音が響くようになり、誰もいないはずの家の中で猿の笑い声が聞こえることがあった。仲間の栗は突然、高熱を出し、体が焼けるように苦しんだ。蜂は巣から一晩で姿を消し、牛糞は風にさらされて跡形もなく消え去った。
ある晩、蟹が眠っていると、不気味な気配で目を覚ました。暗闇の中、部屋の隅から猿がこちらをじっと見つめていた。猿は低く呟いた。
「お前が始めたことだ……すべて、お前のせいだ……」
蟹は体が動かず、恐怖に震えながらその場に固まった。猿の亡霊はゆっくりと蟹に近づき、最後の言葉を囁いた。
「次は、お前だ……」
次の朝、蟹は家の前で動かなくなっていた。村人たちはその死を不審に思ったが、誰も真相を知ることはできなかった。猿の亡霊が村を彷徨い続けるという噂が広まり、村人たちは決して柿の木に近づかなくなったという。
夜になると、今でもその村では、どこからともなく猿の笑い声が聞こえるという。その声を聞いた者は、二度と村に戻ってこなかった。
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