「鶴の復讐」

昔々、貧しい男が雪の降る山道を歩いていると、一羽の鶴が罠にかかって苦しんでいた。男は哀れに思い、その鶴を助けた。鶴は感謝の鳴き声を上げ、飛び去っていった。その夜、男の家に美しい女性が現れた。彼女は「家事を手伝わせてください」と言い、男と一緒に住むようになった。

彼女は毎晩のように機を織り、美しい反物を作り上げ、それを売ることで男の生活は次第に豊かになっていった。ただし、彼女には一つの条件があった。「決して、私が機を織っているところを覗かないでください」と。

男はその約束を守っていたが、次第に彼女の機織りの音に異様な違和感を感じるようになった。夜になると、部屋から聞こえてくる音は、ただの機織りの音ではなく、何か重く、骨をきしませるような音が混ざっているのだ。男は次第に恐怖を感じ、ついにその禁を破る決心をした。

ある夜、彼は機を織る部屋の隙間からそっと中を覗いた。そこで彼が目にしたのは、人間の姿をした女性ではなかった。部屋の中では、助けたはずの鶴が、己の羽をむしり取り、血まみれになりながら反物を織っていた。白い羽は赤く染まり、機に絡みついていた。

「なぜ……覗いたのですか……」

その声が背後から響いた。驚いて振り向くと、そこには再び美しい女性が立っていた。しかし、その顔はどこか歪んでおり、瞳の中には怒りと悲しみが渦巻いていた。彼女は静かに言った。

「あなたが私を助けてくれたことは、感謝しています。でも……もう元には戻れないのです。私はあの時、罠で傷つけられた体のままで、生き続けるしかなかった……。この姿は偽物、あなたが見たのが私の本当の姿です。あなたが約束を破った今、もう一度羽をむしる苦しみを繰り返さなければならないのです……」

男は恐怖で体が凍りついた。次の瞬間、女性は彼の目の前でゆっくりと鶴の姿に変わっていった。しかし、その姿は助けた時の美しい鶴ではなかった。羽はボロボロに傷つき、血にまみれていた。

「私を覗いた者には……罰がある……」

その言葉とともに、鶴は男に襲いかかった。男は逃げ出そうとしたが、鶴の鋭いくちばしが彼を捕らえ、次第に男の意識は暗闇に包まれていった。

翌朝、男の家は静まり返っていた。村人たちが様子を見に来たとき、彼の姿はどこにも見当たらなかった。ただ、家の中には血の染みついた白い羽が散らばっていたという。人々は恐れ、その家には二度と近づかなかった。

それ以来、雪が降る夜には、どこからともなく鶴の鳴き声が響くという。その声は哀れでありながら、どこか冷たい怒りを感じさせるものであった。村人たちは、決してその声に耳を傾けてはならないと口伝え、静かにその夜を過ごすようになった。

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