一寸法師

「闇に潜む一寸法師」


昔々、子供に恵まれなかった老夫婦が、神様に願いを込めて小さな子供を授かった。彼の名は一寸法師。わずか一寸ほどの小さな体ながら、強い心を持っていた。しかし、その小さな体に隠された謎が、村に恐怖をもたらすことになるとは誰も思わなかった。


一寸法師は成長すると、自分の力を証明するため、都へ出て侍として名を挙げたいと旅に出た。打ち出の小槌を持ち、彼は都で大きな名声を得た。しかし、次第に彼の周りで奇怪な出来事が起こり始めた。


ある夜、都に住む侍たちが次々と行方不明になる事件が続いた。彼らの共通点は、一寸法師と知り合いだったこと。侍たちは一寸法師を可愛がり、飲みの席で彼の話を聞いていたが、次の日には誰も姿を見せなかった。彼らの家には、何の痕跡も残っていなかったが、床には小さな足跡が残されていた。


「この足跡……まさか一寸法師が……?」と、村人たちは疑いを抱き始めた。


不安が広がる中、一寸法師がある晩、打ち出の小槌を振り回し、念じた。すると、彼の体はみるみる大きくなり、普通の人間の大きさを超え、異様なほどの巨体に変わった。しかし、それと同時に彼の目つきはどこか異様で、体全体から漂う不気味な気配が村人たちを凍りつかせた。


「これが、真の力だ……」


かつての勇敢で無邪気な一寸法師はもういなかった。彼はその巨大な体で、侍たちを次々に捕らえ、彼らの命を吸い取るかのように、その巨体を維持し続けた。打ち出の小槌の力を使いすぎた代償として、彼は人間の魂を奪わなければ生き延びることができなくなっていたのだ。


村人たちは次第に彼を恐れ、誰も近づかなくなった。都は廃墟となり、一寸法師が現れた場所には、必ず小さな足跡と人の消えた跡が残されたという。


最後に見かけられた一寸法師は、再び小さな姿に戻っていた。しかし、その小さな体の中には、かつて自分が奪った多くの命の記憶が刻み込まれているかのようだった。彼は竹筒に座り、静かに笑みを浮かべる。


「どんなに小さくても、闇は潜んでいる……」


それ以来、一寸法師は村に姿を現すことはなくなったが、満月の夜、村外れの竹林に入ると、誰かが囁くような声が聞こえるという。


「私を……見つけてくれ……」

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