かぐや姫
「竹の中の囁き」
昔々、ある竹取の翁が、竹林の中で一際光る不思議な竹を見つけた。その竹を切ると、中には小さな美しい姫が座っていた。驚きつつも翁はその姫を家に連れ帰り、かぐや姫と名付けて育てた。姫は成長するにつれて、その美しさは人間離れしたものとなり、多くの求婚者が彼女の元を訪れた。
しかし、かぐや姫はどの求婚者も冷たく拒絶し、誰にも心を開くことはなかった。それでも彼女の美しさに取り憑かれた男たちは、次々に無謀な試練に挑み、命を落としていった。ある者は、遥か彼方の海で沈み、ある者は深い山で行方不明になった。彼らの失敗は運命のように重なり、村では「かぐや姫が男たちを呪っている」との噂が立つようになった。
ある夜、翁はかぐや姫の部屋から奇妙な声を耳にした。囁くような低い声が、何かを話しているようだった。耳を澄ませると、それはかぐや姫の声だった。しかし、その声は冷たく、まるで彼女の体の中から別の何者かが話しているかのように感じられた。
「月が……私を呼んでいる……もうすぐ、全てが終わる……」
恐ろしくなった翁は、かぐや姫に何が起こっているのか問いただした。だが、かぐや姫は静かに笑みを浮かべ、「何も心配することはありません」と言うばかりだった。しかしその笑顔は、どこか不気味で、不自然なものに見えた。
その後、かぐや姫は月の満ちる夜、ついに「月の使者が私を迎えに来る」と告げた。翁とその妻は必死に止めようとしたが、かぐや姫は穏やかな顔で静かに座り続けていた。月が雲間から現れると、空に怪しげな光が差し、何者かの影が地上に降り立った。
それは、人の形をした影だったが、その顔ははっきりとは見えず、ただ冷たく光る目だけが輝いていた。影はかぐや姫の前に立ち、手を差し伸べた。その瞬間、かぐや姫はその手を取ったが、その顔には以前には見られなかった冷酷な笑みが浮かんでいた。
「人間の世界は、もう飽きたわ……」
彼女のその言葉を聞いた翁は、恐怖で声も出せなかった。月の使者と共にかぐや姫は空へと昇り、やがて完全に消えてしまった。しかし、その後も村では奇妙なことが起こり続けた。
かぐや姫の姿を見た者たちが、次々に奇妙な病に倒れていった。彼女がいた部屋に残された竹の切れ端からは、夜な夜な不気味な囁き声が聞こえるようになった。
「私を……月に返せ……」
竹取の翁は、その後ほどなくして、狂ったように竹林へと姿を消した。村人たちは恐れ、その場所には誰も近づかなくなった。
かぐや姫の話は、いつしか「月の呪い」として語り継がれるようになった。村の人々は月が満ちる夜、誰も外に出ることはなく、竹林の中から響く囁き声に耳を塞いで、震えながら夜を過ごすようになったという。
「月は……私を……返せ……」
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