花咲か爺さん

「枯れた花」


昔々、ある村に優しい老人が住んでいた。彼は花咲か爺さんと呼ばれ、どんな枯れた土地でも、まるで魔法のように美しい花を咲かせる力を持っていた。村人たちは彼の花咲く姿を称賛し、彼の家には毎日のように人々が訪れた。しかし、そんな老人には一つだけ不吉な噂があった。


「彼が花を咲かせる時、どこかの誰かが命を失う」と。


最初は、誰もそんなことを信じなかった。花咲か爺さんの庭には四季折々の美しい花が咲き誇り、村を彩っていたからだ。しかし、次第に村の人々は気づき始めた。彼が花を咲かせた直後に、村の誰かが突然亡くなることが何度か続いたのだ。最初は偶然だと思われたが、何度も繰り返されるうちに、村人たちは恐怖に苛まれるようになった。


ある日、近くに住む若い夫婦の家に不幸が訪れた。夫が突然亡くなり、その直後、花咲か爺さんの庭に新しい花が咲いていたという。妻は悲しみの中で、夫が亡くなる直前に「耳元で誰かが囁く声を聞いた」と話していた。その声はこう言ったという。


「次はあなたの番だ……」


村人たちはついに耐えかねて、花咲か爺さんの家へ押しかけた。「もう花を咲かせないでくれ!」と懇願する村人たちの叫びに、老人は静かに頷き、庭に咲く花をすべて枯らすと約束した。


だが、その夜、老人の家から不気味な光が放たれた。村の人々は恐る恐る彼の家に向かうと、庭には見たこともないほど美しい花々が咲き乱れていた。そして、その中央に立っていたのは、以前とはまったく違う雰囲気を纏った花咲か爺さんだった。


彼の目は暗く、笑みは冷たいものだった。


「皆のために、花を咲かせているのだ。美しい花のためには、代償が必要だよ。花が咲くたびに命が消えるのは、昔からの約束なのだ……」


村人たちは後ずさりし、家に逃げ帰った。翌日、村では再び誰かが亡くなった。そして、そのたびに、花咲か爺さんの庭には新たな花が咲いていた。彼の家は次第に恐怖の対象となり、誰も近づかなくなったが、彼の花は決して枯れることなく、夜ごとに妖しく咲き誇り続けた。


そして、村の人々は気づいた。花咲か爺さんは花を咲かせるたびに、村の誰かの命をその花に捧げていたのだ。その後、村では誰も花を愛でることがなくなった。夜になると、風に乗って囁き声が聞こえるという。


「次に咲く花は、誰の命だ……?」

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