ブライター✩デイズ

丹花

あの日

 あの日、夢を見た。

 綺麗なスポットライトを浴びて、綺麗な衣装を着て歌い、踊るアーティスト。大きなドームに響き渡る歓声。

 そこにいる誰もがその時間だけは誰もが日常を忘れ、笑顔になる。まるで異世界だ。

 私も例外じゃない。

 初めて聞いた音楽だったし、初めて見たアーティストだった。なのに、どうにも胸が高鳴ってうるさい。

 あの日、私は夢を見つけたんだ。


*


 少女にとってきっかけは些細な出来事だった。


『明日、空いてるよね?WhiteLilyホワイトリリーのライブに行く子が急に行けなくなっちゃって、代わりに来てくれない?』


 天崎潤奈あまさきるなの幼稚園からの幼馴染である日野明音ひのあかねは、いつの間にか今大人気の韓国のアイドルにどハマりしており、会話をする時も事ある毎にハヨン様が〜ヨントンが〜とか最早暗号かのような言葉を使うようになった。

 一方で潤奈は明音とは違い、芸能人やインフルエンサーにはあまり興味が無い。

 熱中している事は何かと聞かれたら、十年間続けてきたバレエと答えるが、昨年の冬に辞めて以降踊っていないし、バレエに関する仕事に就きたいかと言われればそうでは無い。

 夢も無かったのだ。

 まだ中学2年生という若さではあるのだが、きっとこの先自分は地元の高校・大学に進学し、OLになって……恋愛もそれなりに出来たら尚良。そのくらいに考えていた。

 WhiteLilyとは明音が最近熱中しているハヨン様とやらが所属してるグループであり、芸能に詳しくない潤奈でもニュースや街中で度々耳にするグループだ。

 しかし、潤奈は生憎興味が無い。

 興味が無いアイドルのライブに2時間や3時間と拘束されるのは苦であるだろうし、断ろうか悩んでいた時だ。


『明日暇って言ってたよね?夜公演だから、16時に京セラドームに集合ね!』


 何という事だろう、潤奈はまだ行くと返事をしていないのに勝手に暇だと決めつけられ、行く事にされてしまった。

 傍からこのトーク履歴だけ見れば、明音はとても横暴に見えるだろう。しかし、これが許される間柄なのである。

 臆病で人見知りの潤奈とは違い、明音は活発で名前の通り明るく、学校でも陽キャと言われる部類だ。

 明音の自由奔放さには時折呆れる事もあるが、それを毎年許させてしまうのが彼女の凄い所でもある。

 仕方が無い、こういうライブを経験しておくのも良いだろう。

 そう思い、潤奈は『了解!』と書かれたスタンプだけ送信し、明日の用意を済ませてからベッドに潜り込んだ。


 翌日、京セラドームにて。


「昨日は急にごめんね〜?でも潤奈と一緒に行けるなんて、凄く嬉しい!」

「韓国アイドルのライブを経験しておくのもいいかなって。ところで、明音の推しのハヨン様?はどの子?」


 ライブ会場には横断幕やフラッグが沢山あり、うちわやらペンライトやらを持ったファンが数多くいる。

 全体写真には五人写っており、五人グループなのだろう。

 その中のセンターに立って写っていたセンター分けの黒髪ロングの人にどうも目が行った。


「ねぇ、ハヨン様ってこの人?」


 その真ん中の人を指さして明音に聞くと、首を横に振られた。


「その人はホワリリの最年少メンバーでセンターのユナ!私の推しはこっち」


 すると、明音はユナと呼ばれた人の左隣の人を指さした。


「どう?ハヨン様可愛いでしょ?あ、もしかして潤奈はユナが好き?」

「好き……というか凄く目が行くというか。真ん中だからかな?」

「ふっふーん!潤奈はお目が高いなぁ!ユナは韓国では超売れっ子女優としても名前が知れてるの。歌もダンスも上手だし、何よりこのビジュアル!もう女神でしょ?正真正銘ホワリリのセンターで黄金マンネなんだ」


 興奮気味にそう言う明音を宥めながらも、マンネ?とは何なのかよく理解出来なかったが、凄いのはよく分かった。

 開場時間になり、ゲートを潜る。

 スタンドと呼ばれる席に行くと、アリーナ席にいる尋常じゃない数の人に圧倒された。


「わ、凄い人……」

「そりゃドーム公演だもん。それでも倍率やばかったんだからね?」


 これだけの人がいるのに倍率がやばかっただって?全員入れないのか。まずそこに驚いた。

 会場にいるファンの男女比率はちょうど同じくらいに見える。男女どちらにも愛される彼女達はきっと凄いのだろう。


 ――きゃああああああ!!!!


 その時、耳を割くかのような叫び声……いや、歓声が響く。

 ライトは落とされ、映像演出が始まった。

 映像が全て終わると、幕が上がり、スポットライトを浴びる五人の女の子がいた。

 その時、私は息が止まる感覚がした。


「皆さーん!会いたかったでーす!」

「私達、今日をずっと楽しみにしていました!」


 カトコトではあるが、スポットライトを浴びた彼女達は可愛らしい日本語で挨拶をする。

 やがて可愛らしいキャッチーな曲からバラードまで、数多くのパフォーマンスを披露した。

 目が離せなかった。ここにいる全員がこんなに熱狂し、熱中する気持ちがわかる。

 輝かしい彼女達の姿に心を撃たれた。

 一本しか無かった目の前の道に、鮮やかな色の道がもう一つ出来た。そんな感覚がした。

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ブライター✩デイズ 丹花 @tanhua

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