『タイムロス』 中の2
その、15日深夜のことである。
町長さんとして大活躍中の異邦人さんは、本名さえ明かしていないが、もはや『町長さん』で、通っていた。
怪物は、どこに現れるかはわからないが、必ず現れるはずである。
ぼくは、たまたまその日は当番に当たっていたので、その時間には町長室にいて、町長さんと世間話をしていた。
この人は、言わば、シンドバッドみたいな人で、滅び去った地球のあちこちを渡り歩いてきた強者らしい。ほらふきにしては、話が出来すぎているし、地理の知識も確かなものである。なにしろ、古い地球全図を見ながら、その地域の詳細を語ってくれるのだ。
『町長さんは、ぜひ、学校あたりで、講演会をするべきですよ。』
と、ぼくは勧めた。
『そりゃ、請われたらやりますよ。』
『まあ、みんな、音頭を取ってなにかしらをするということは、しなくなりました。指導者だ、と見られたら命に関わりますから。』
『はあ……あのです。ほんとに、食べられたのですか。』
『いやあ。ぼくは、見たことないんです。長老と、そのつぎの年寄りだけが見ています。丸飲みだったそうです。』
『なるほど。しかし、あまりに、あり得なさそうな話ですが、じつは、まるで無いわけでもありません。かつて、池の女神さまという存在があり、罪人を飲み込んで地獄に連れて行く、という話がありましたようです。古い日本では‘’幸子さん‘’と呼ばれていました。』
『はあ。幸子さんですか?』
『はい。しかし、分子破壊爆弾が使われるようになり、世界がバラバラになって以来は、影を潜めています。』
『そら、いわゆるオカルトでしょう。』
『まあね。しかし、あなたの話と、何が違いますか? 幸子さんにも、目撃者は多数ありましたようです。』
『む。あなたは、旅の途中で、何人くらいの生きている人類に会いましたか。つまり、どのくらい、生き残っているのでしょう?』
『ざっと、18人です。』
『はあ?』
『ほんとです。みな、まあ、地獄に垂らされた糸にぶら下がっているようなものですよ。ここは、大量の人々が生き残っていた唯一の例ですな。』
『ショー、ック!』
『まあ、しかし、同じくらいの町があるという噂はききましたよ。探そうとしましたが、見つからなかったが。道もなく、川もなく、あまりに雪山が深くて、進めませんでした。』
『はあ。いやじつは……』
ぼくは『MOSI』信号の話をした。
『ああ。そういえば、とある都会の跡地の地下シェルターの、無線室で、マイクをにぎったまま亡くなっていた方がありましたな。』
『なんと? うーん。』
『まあ、確率は低いですよ。気にしないほうがよい。』
『そうですね。確かめようがないですね。』
と、その。まさにその瞬間であった。
町長室の中に、ふいに、少年が現れた。
ちゃんと、小さな紫色のスーツを着込んで赤いネクタイを締めていた。不思議なオーラを放っている。
『アの。お尋ねします。ここには、指導者さんは、いますか?』
すると、答えなくてはという衝動に駆られたぼくを差し置いて、町長さんが答えた。
『ぼくが、町長ですが? なにか?』
町長は、べつに操られたという感じは、しなかったのである。
『おー。素晴らしい。ぜひ、いっしょにきてくれろ。』
😚😚😚😚😚
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