『タイムロス』 中の1


 『このまちには、町長さんも議員さんもいないと聞きました。怪物が出てたべられてしまうから、と。それは、本当ですか?』


 『あんた、どこから、来なすった?』


 マスターが不審げに尋ねた。


 『あなたがたは、この高い山の向こうになにがあるか、ご存じですか?』


 『もちろん。昔は、大都市があったが、いまは、何もない。おいらも山の頂上まで上がってみた。何回もね。あんなものは、他で見たことがないがね、まあ、地獄だ。凍りついた地獄だ。しかも、ここ何十年もなにも変わらない。誰も調べにも来ない。政府が滅亡した証拠だし、世界も多分ない。あれば、たぶん、もう、何かの痕跡を掴んでいる。海からもなにも来ない。侵略にも、助けにも。しかも、魚は殆ど取れないし、取っても危なくて食えないだろ。』


 『たしかに。わらしは、その廃墟のさらに向こうにある山の向こうの小さな海のさらに、その、彼方から歩いてきたから、よく分かるのです。そこの人々は、全滅した。わらしが最後の生き残りだ。ここで始めて人を見たのです。』


 『ほう。信じないとは言わないが、意味はないかもな。』


 『うんだ。この先の、海は、なかなか越えられないだろう。こいつは、太平洋だ。不可能ではないがな。わらしは、それも、考えているが。』


 『おろかな。ま。勝手だがな。』


 『そうだ。そうさな。しかし、暫くはここに、滞在したい。そこで、もし、怪物を退治したら、町長として置いてもらえるかな?』


 『まあ、みんなに諮って、同意が得られたら。しかし、どうやって、あんなのを退治する? 身体は自由自在に伸びたり縮んだりする。でかいときは、体高が90メートルに達する。小さいときは、子供なみだ。なんにでも化ける。にんげんなどひと飲みだ。』


 『あなたは、それを見ましたか?』


 『ああ。子供の頃な。』


 『最近は?』


 『指導者が、いなくなったから、ない。』


 『ふうん。いいでしょう。みなさんの了解が得られたら、わらしを指導者に、つまり、町長さんに選びなさい。良いですね? 食事の支給以外は望まない。』


 

 その男は、町長さんになった。


 しかも、ばりばり仕事をした。


 怪物用の防護施設や、塹壕や、攻撃のための砦も作った。


 まあ、簡略なものであるが。


 そうして、次の15日が来た。


 

    🦖ガオー🎵

 


 


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