04
「まだ明るいね」未怜が駒のように辺りを見回しながら言う。
「そうだな」
「桜次第だけど、京都だし寺社行くか?」ガイドブックを片手に四季が先導しながら言う。
「うん、ありがとう」
「じゃあバスだね、椎奈が検索します!」
椎奈に言われるがままに近くのバス停に行き、少し待つとバスが来たので乗り込んだ。
「未怜、熱心に窓の外眺めてるな」
「うん、なんかピンとくるのないかな~って」
釣られて窓の外に目をやる。京都とは言えども駅近くなので近代的な町並みが広がっている。ただ雰囲気はあるように感じる。
「あ、見て! ちっちゃい祠みたいなのあるよ!」
「え? どれだ?」
言われて探すが景色がすぐに流れて見つけられなかった。
その後も窓の外をぼんやり眺めていると目的地に着いた。階段を上っていくと神社があり、その道中にお土産屋が軒を連ねている。狐のお面や食べ物など様々だ。少し日は落ちてきているがまだまだ人は大勢いて賑わっている。
「人すごいな」
「私みたいに幽霊もいるかもよ」
「幽霊ジョークが板に付いてきたな……」
神社の境内に入ってお堂に行き、賽銭を投げて二礼二拍手一礼をする。しかし肝心の願い事は思い浮かばなかった。未怜がいなくなってすぐは帰ってきてほしいと祈った。その未怜が帰ってきて、今一緒にいる。それ以上何を望むべきだろうか。目を開けて横を見ると未怜はまだ手を合わせていた。前からそうだった、世界を、人の幸せを祈る。
「英司と桜、奥に千本鳥居あるから行こーぜ」
四季と椎奈は一足先に終わったらしく、次のスポットに向かおうとしている。未怜と一緒に追いつき歩いていくと左右に狐の像があった。
「はい、チーズ」
記念に写真を撮って、千本鳥居の中を進んでいく。進んでいくにつれてなんとなく心が浄化されていく感じがして腕をさする。
「綺麗だねー」
すぐ近くから未怜が言う。
「中学の時の修学旅行で来たよな。確か班は違ったけど」
「うん、厳かな感じ」
言い慣れない様子で「厳か」のところを鼻に皺を寄せて言った。夢中でずっと歩いていくと大小様々な塚と狐の像が並ぶ薄暗い場所に出た。不安になってくるほどの迫力がある。
「だいぶ暗くなってきたな戻るか」
四季の言葉で踵を返して戻る。同じ場所を通るが行きと帰りでまた違った気持ちになる。心なしか風も背中を押している気がする。そのまま下山しバスに乗った。帰りのバスで未怜が言っていた小さな祠を探すがやはり見つけられなかった。
ホテルに着くなり四季が手を叩いて言う。
「飯にするか」
その足でホテルの食事場所に向かう。案内された席で少し待つと料理が運ばれてきた。刺し身、天ぷら、鍋と徐々に並んでいく。
「「「いただきまーす」」」三人で手を合わせる。
「どうぞ〜」未怜が答えた。
薬味のねぎとみょうがを刺し身と一緒に箸でつまみ、醤油にくぐらせ、白い湯気を上げているご飯と一緒に口に放る。
「「「うまー!」」」
そのままの勢いで他の品に手を付け、その度に感嘆して食べ進めていった。
たらふく食べて、ふらつきながら部屋に戻る。
「椎奈この奥のベッド独り占めー」と言いながらダッシュでまだ荒らされていない方のベッドにダイブする。スプリングが大きな音をたてた。
「私もー、ギリギリ届いた!」
腕を広げてベッドにダイブする未怜を尻目に俺もベッドにダイブする。しばらくゴロゴロしていると四季が目の前にコントローラーを差し出してくる。目線を上げるとニヤニヤと笑う四季とスタンバイ画面のレースゲームである。
「負けねーぞ」
「ちょっと椎奈も混ぜてよ〜」と横から椎奈が顔を覗かせ、四季の隣に寝転がった。四季の気持ちを思うと
「狭いだろ〜」
「いいじゃん!」
「私は前から見る専〜」
未怜は宙に浮いた状態でゴロゴロしている。
*****
「ってやべ! 風呂の時間何時までだっけ?」
ゲームに熱中しているとあっという間に時は過ぎ、いつの間にか満腹感は消えていた。そして風呂の時間が。
「夜は……一時までだわ」
「あと三十分くらいじゃん! 英司! と桜! 入るぞ!」
「忘れてたー、後ろ向いとくから早めにね!」
急いで着替えとタオルを持ち部屋を出る。
「「おおー極楽極楽」」
もう時間も遅いからか大浴場に誰もいなかった。広すぎる湯船に浸かると疲れがじわじわと溶け出していくような感覚になる。ガラスの外の竹と岩のオブジェを眺めていると心も落ち着いてくる。四季も湯船に浸かって深く息を吐いて天井を仰いでいる。未怜は少し離れて壁を睨んでいる。
「未怜も不便だな」
「ホントだよー!」
「桜も不憫だしもう上がるか」
部屋に戻って少しすると椎奈も戻ってきて、少しゲームの続きをして眠りについた。と言っても寝れず目を開けていると暗闇に目が慣れてきた。隣で横になっていた未怜も眠れないらしく目が合った。
(そういえば幽霊も寝るんだな)
(確かに、まあ今は寝れないけどね)
(二人はもう寝たみたいだな)
(すぐ眠っちゃったね)
心地よい沈黙が流れる。時間もゆったりと流れ、空気もしっとりと肌を撫でる。
(ん)
ベッドの上で体を起こして未怜が両手を広げる。その意味が分かっていても躊躇する。
(……触れられないだろ)
(良いから)
その言葉に誘われるように両手の中に飛び込む。何も感覚はないし、匂いもしない。しばらくそうしていたが、落ち着くと同時に触れられない悲しみが次第に胸を締め付け、やがて離れた。ネックレスを首から外し、そして眠りについた。
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