02
「英司くん、四季くん、椎奈ちゃん、よく来てくれたね。上がって上がって」
流石に少しやつれているようだが思ったよりは元気そうに見える。上がって少しすると仏壇があり、笑う彼女の遺影に順番に手を合わせる。食卓を囲んで座り、未怜に囁きかえる。
(見えてなさそうだな)
(幽霊とかは子どもの方が見えるって言うだろ)四季が訳知り顔で囁く。
(未怜はどう? 会えて)椎奈が訊くと未怜は少し笑って答えた。
(元気そうで良かった。でも自分の仏壇見るのは不思議な感じ)
椎奈が口を開く。
「未怜って生前京都とか好きでした? 縁とかあったり」
「未怜が京都? 昔旅行では行ったけどねえ……どうかしたの?」小母さんが麦茶を出しながら、少し考えて言う。
「特にはないんですけど」
出された麦茶の氷が小気味よい音を立て崩れる。
(そろそろ出るか?)
未怜に目をやると目に涙を溜めている。
(もうちょっとだけ……)
久しぶりの再会なんだ、当然だ。
「小母さん、今未怜に伝えたいことってありますか?」止めようとする未怜を無視して小母さんに尋ねる。
「そうね、ありがとうとおやすみかな」小母さんは目を赤く染めながら、それでも力強く言った。
(泣かせに来ないでよ……)
未怜がひとしきり泣いたのを確認して未怜宅を後にした。
スマホの画面をこちらに見せながら四季が喋りだす。
「よし、じゃあ京都へ行こうというわけだがお金はどうする? 二泊三日として新幹線にホテルで大体このくらいかかりそうだけど」
「俺はバイトであるけど……」
「椎奈もお年玉あるかな」
「私はお金かかんないし!」
空気が凍る。言った本人は笑っているが、幽霊ジョークとでも言うのだろうかまだ笑えるような心境にない。
「……よしじゃあ一旦家戻って一時間後駅集合にしよう。新幹線とホテル予約しとくから安いので良いよな?」四季がやっとの思いで言葉をひねり出し、一旦解散ということになった。
*****
未怜は俺に取り憑いたと言っても過言ではないらしく俺から離れられないようだ。俺について俺の家に来た。
「うわー久しぶりに来たなー」部屋を見回しながら彼女は言った。
「そうかもね、記憶はどうなの? その……召された時の記憶とかその後とか」
「んーなんかあった気もするけど忘れちゃったな」
「そっか」
二泊三日分の服と、カードゲームや携帯ゲーム機をスーツケースに詰める。
「そういえば指輪ネックレスにして付けてくれてるんだね」
「うん、未怜からのプレゼントだし」
振り向くと本棚を眺める未怜の姿があった。手を伸ばすがその手は空を切った、触れている部分が冷たく縮んでいく感覚に襲われる。髪の一本一本まで生きているが如くそこに存在しているのに、触れることができない。それが決定的な気がして少し目を背ける。
「残念だけどエロ本は置いてないよ」
「そんなんじゃないよー、何読んでるのかなー?って」
喉を鳴らすように笑いながら答えた。あの頃の空気感が思い出されて懐かしくなる。前に部屋に来た時もこんな事を話したような気がする。
「未怜は物に触ったりできんの?」
「できないみたい……」少し暗い声で答えた。
持っていこうとした服についている糸くずが目につき、つまんで放り投げる。
「京都でその目的を果たしたらさ、未怜は消えんのかな」
「さっきから質問ばっかりー……分かんないよ。でも消えてもさ、英司や四季くん、椎奈の記憶の中で生き続けるよ」不安げな彼女の声で、部屋が一気に湿っぽくなる。空気を変えるつもりで意識して明るく声を出す。
「……もう行くか、四季はもう駅で待ってそうだし」
「うん……」
「その前にトイレだけいい?」
途端に空気が和らいだ。
「……後ろ向いてる」
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