アルカナ魔剣士学院編
第5話 クラス選別試験
翌日、俺は荷物をまとめて、ユーリと共に学院を出て、王都へと向かった。
数日掛けたどり着いた王都は、俺らのいた町よりも何10倍も大きかった。
建物も、市場の大きさも、店の数も、何もかも。
そんな光景に驚きながら馬車に揺られ、巨大な城門を潜り、俺らは王都へと入り、新しい学院へと向かった。
見慣れない景色に見惚れること数10分、俺たちはついに新しい学院へとたどり着いた。
「ほら、カイン、着いたよ」
「ああ」
馬車を降り、聳え立つ、巨大な学院の前にて立つ。
アルカナ魔剣士学院。
魔剣士育成学院の中でも、特に優れた学び舎として名前を上げる五大魔剣士育成学院の一つ。
その有名さたるや、毎年世界中から入学希望の優秀な学生たちがわんさか集まる。
そんな超が付くほどのエリート校に俺は進学した。
進学できたんだ。
俺は、チャンスをもらえたんだ。
感動のあまり、打ちひしがれていると、校門から着物を着た幼女がこちらへとやって来た。
「あ、美沙雪さん!」
「やあ、カインくん、ユーリくん、よく来てくれたね」
彼女がコツコツと音を立てながらこちらへと歩み寄り、数日ぶりの再会に喜んで、僕らは少し世間話をした。
「どうだい、王都は?」
「そうですね、びっくりしました。何と言うか....全部大きいです」
「ははっ!、確かに、そうだな!、王都は確かにでかい!、して、どうだ、旅は順調だったか?」
「そうですね、実はーー」
と言う感じで、美沙雪さんは俺たちのここまでの旅の話を聞いたり、王都でやりたいことなどを一通り聞いていった後、仕事があるとかなんとかで早々に去っていってしまった。
「じゃあな。あ、そういえばだが、試験には遅れるんじゃないぞ」
「わかってますよ」
「そうか、じゃあ、また後でな」
彼女が去っていった後、俺とユーリは早速、美沙雪さんの言っていた試験の場へと向かう。
入学したのに試験を受けるのか?、と最初に俺も疑問に思ったが、どうやら今後のクラス分けをするため、生徒全員の実力を測るために模擬戦を行うらしい。
これを教えられた時、美沙雪さんが「君なら大丈夫だ!」と太鼓判を押していたが、正直俺は不安だ。
なんせ何回も言うが、ここは超名門校。
大陸中のエリートが集まる、夢の場だ。
ぽっとでの俺なんかが本当に大丈夫なんだろうかと、未だ不安は多く残る。
でも俺は、ユーリ、そしてこの学院に誘ってくれた美沙雪さんを信じることに決めた。
やれるだけのことはやろう。
そう決意を胸に、俺はユーリと一緒に急いで試験会場へと向かった。
☆☆☆☆
敷地内を歩き、俺たちは校舎の少し遠くに設置されてあった闘技場へとやってきた。
そこからはすでに多くの歓声が聞こえており、もうすでに勝負が始まっていたことを示していた。
闘技場内へと入ると、俺たちは上へと向かい、闘技場の観客席へと赴いた。
数百とあろう席のほぼ全てがすでに満席状態。
皆、熱気を持って、模擬戦を注意深く見ていた。
俺とユーリは空いている席を探し、ちょうど2席空いているところに座った。
俺たちは早速模擬戦を観戦して、何試合か見た後に段々と顔色を変えた。
「す、すごいな....」
「うん....すごいね....」
それは、この模擬戦、いや、この闘技場にて行われている模擬戦、その全てが高水準で行われているからだ。
まるで熟練の戦士たちが戦うような、目にも止まらぬ素晴らしい攻防がそこでは行われていた。
これを一介の学生、しかも入学して間もない新入生が行うなんて....。
「五大学院....そう呼ばれる理由が、少しわかった気がするよ....」
「本当....彼らだけでも結構高いレベルだよ....」
改めて、この学院の凄さがわかる場面に俺とユーリは驚愕する。
その後も何試合か観戦した後、ユーリの名前が次に呼ばれ、彼女はそれに従うまま赴いた。
ついにユーリの番だ。
「じゃ、そろそろ出番だから行くね。ちゃんと見ててよ、カイン」
「ああ、ここでしっかり見てるよ」
彼女はスッと席を立ち上がり、そのまま闘技場の観客席を抜ける階段を下っていった。
すると数分後、観戦していた今の試合が終わり、ユーリの模擬戦が始まろうとしていた。
司会進行役の女性がユーリと対戦相手の名前を呼ぶと、彼女は颯爽と現れる。
髪を煌びやかに靡かせ、その美しい銀髪を揺れる彼女の相手は、屈強そうな男性魔剣士。
大きく体格差がある彼女と対戦相手だが、ユーリは動揺する素振りを一切見せない。
しかし、男性魔剣士はその体格差を見てか、余裕そうに闘技場で笑う。
あの満面の笑み、彼はもう内心勝った気でいるのだろう。
だが、その体格差はユーリ相手では通用しない。
両者定位置に着き、その時が訪れるのをじっと待つ。
そして、数瞬の後、試合開始の合図が鳴り響く。
「では、試合開始!」
試合のゴングが鳴り、男は自分の持つ大剣を大きく振るう。
まるで巨人が振るったかのような勢いを持つその大剣は、その巨体とは裏腹に猛スピードでユーリへと迫る。
早く、鋭く迫る剣筋だが、それがユーリに当たることはないだろう。
前の学院で見た彼女の技は、こんなものたやすく対処していたからな。
今回も大丈夫だろう。
そう安心する俺とは裏腹に、ユーリの行動に俺は心底不安を抱く。
「ユーリ?」
なんせ、彼女は一歩も動かず、ただ対戦相手を見たまま硬直していたからだ。
剣も抜いていない。
剣はもうすでに彼女の一歩手前まで近づいており、彼女がそれに当たるのにそう時間はかからないだろう。
「ユーリ、避けろ!」
異変を感じ取った俺は、彼女に回避の指示を大声で叫ぶ。
しかし、彼女が動くことはなくて、あの大きい大剣が刻一刻と彼女に迫る。
そんな彼女の不穏な行動に、誰もが彼女の負けを確信する中、ユーリは小さく口を開き、その男へと言い放つ。
「弱いね」
「は?」
瞬間、目前へと迫っていた大剣は大きく弾き返され、その衝撃に耐えられなかったのか、大男は後ろへと吹き飛ばされた。
「なっ...!」
バランスを崩した男を前に、ユーリは手加減することなく接近し、そのガラ空きになった腹へと剣を振るい、その男を一発で場外へと吹き飛ばした。
「そこまで、試合終了!」
強く吹き飛ばされた男は意識を失い、白目を剥きながら倒れてしまった。
それを見て、試合終了の合図と共に歓声が闘技場に鳴り響く。
それを当然かのように受け止めたユーリは、後ろを振り返り、出口を通って優雅に帰ってきた。
席へと戻ってきたユーリは、腰にある剣の位置を調整しながら、俺の隣へと座った。
「カイン、あんな大声で叫んだら恥ずかしいよ」
「あ、ああ、ごめん」
「まあ、いいよ。で、どうだった私、すごかったでしょ?」
「ああ、すごかったよ」
「ふふん、でしょ?」
満面の笑みで微笑みかける彼女に少しドキッとしながらも、次は自分の番だと思い出し、席を立つ。
「よし、次は俺だな。頑張ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい、頑張ってね」
観客席に座るユーリへと手を振りながら、俺は階段を下る。
剣を拵え、深呼吸をし、俺は模擬戦の準備を整える。
数分後、俺と対戦相手、どちらも準備が整ったのを確認すると、司会の女性が進行を始める。
「さて、では、次の模擬戦が最後のものとなります!、本日、来ていただいた多くの新入生には感謝を申し上げます。さてさてさて!、ではそんな前置きは置いておいて、本日最後の対戦票を発表します!!」
ドンと、闘技場の観客席付近にて設置してあるスクリーンに二人の学生の顔と名前が浮かび上がる。
「クレア・リーズフェルト新入生対、カイン・ツキノ新入生だあああ!!」
そしてその名前を聞いた瞬間、爆発したかのように、観客席からの歓声が最高潮に高まる。
黄色い声援が飛び交い、選手入場前だと言うのに本日最高の盛り上がりを見せる。
「では、入場していただきましょう!、まずは、千年に一度の天才と謳われるこのお方!、四大貴族が一つリーズフェルト家の長女にして、神童の呼び名を冠する彼女、クレア・リーズフェルト選手うううう!!」
大々的に披露された対戦相手は、入場と同時に更なる声援を掻っ攫う。
「来たぞ!、天才児クレア・リーズフェルト!!」
「う、美しい....」
「はぁあ、リーズフェルト様....ガクン」
大人気あるその風貌に、腰まで伸びるブルーサファイアのような色の髪と瞳。
その鋭い眼光には、絶対的自信を纏わせ、他を圧倒させるような威圧感を放つ。
一眼でわかる。
彼女は多分、今まで模擬戦で見てきた人の中で、群を抜いて強い。
多分、今までのどんな新入生よりも、さらに。
ゴクリと息を呑み、俺は緊張からか冷や汗を垂らす。
目の前の強者に本能的に怯えるように、俺の体は段々と緊張を催していく。
コツコツと歩き、闘技場中央へとたどり着いた彼女を確認した司会役は、彼女の対戦相手となる、俺の名前を読み上げた。
「そして、続いては!、この不運?、いや幸運?、に見舞われた災難な対戦相手の発表だあ!!、詳細は一切不明、唯一の情報は理事長自らがスカウトして来たと噂される、謎のスーパー魔剣士、カイン・ツキノ選手だああああ!!」
そして、俺の前の門が開き、俺は緊張の面持ちで闘技場中央へと向かって歩きだす。
ただし、先ほど紹介された彼女とは違って、俺の時の歓声は一切ない。
ただヒソヒソとした話が、観客席を駆け巡り、疑心を呼ぶだけだった。
「おい。お前、あいつ知ってるか?」
「いや、全く。お前も知らないのか?」
ヒソヒソと観客の間で俺の正体を探ろうと話が進む。
この学院の理事長が自らスカウトした奴、それはどんな奴なのかと、期待と疑念を持って。
しかし、そんな疑いの目を多く向けられる中、観客席にいる一人の学生の些細な言葉を皮切りに、俺へと向けられ視線の色が刺さるような黒さに変わる。
「おい、あいつ、田舎の学院にいた、無能魔剣じゃないか?」
「無能魔剣って、あの魔力も剣技もダメダメな劣等生のことか?」
「それがあいつだってんのか?、だとしたら、どんな不正をしたんだよ....」
あの学生が漏らした些細な情報が観客の間で広く伝播し、俺の評価は一気に地の底にまで下がる。
気まずい雰囲気の中、闘技場中央へとたどり着いた俺は、対戦相手である彼女の前にて立つ。
次第にヒソヒソと話していた奴らの中から、ブーイングや陰口のようなものまで囁かれ出し、俺にものを投げつけるものまでいた。
このブーイングと野次の嵐を見た彼女は、俺のことに少しばかり興味を持ったのか、試合開始の合図の前、話しかけてきた。
「ねえ、あなた」
「あ、はい、なんですか?」
「あなた、無能魔剣なんて呼ばれて悔しくはないの?」
そうクールに問いかける彼女の瞳には、憐れみの中に、何か激しく怒りのようなものが感じられた。
もしかして、こんな俺のために彼女は怒ってくれているのだろうか?
いい人だな。
そう思いながら、俺は迷惑はかけまいと、彼女の質問に返答する。
「大丈夫ですよ、いつものことなんで」
「....そう」
そう素朴に答えた彼女の眼には、悲しさなどの表情は消え失せ、怒りの念が露呈して見えるほどにそれを強く、俺に一瞬だけぶつけてきた。
そんな敵を見るような目でこちらを見る彼女に、俺は少しばかりの恐怖を覚える。
ひょっとして彼女は俺の心配などしていなかったのだろうか。
それとももしかして、今の一瞬で怒らせてしまったのだろうか。
うーん、わからないな。
まあ、後で彼女に聞いてみるとしよう。
今は模擬戦に集中だ。
彼女の最後の表情を気にしながらも、俺はそれを一度忘れ、目の前の敵に相対する。
両者定位置へと着き、剣の柄を握り、抜刀の構えを取る。
「安心なさい。そんなごちゃごちゃ考えている間に叩きのめしてあげるわ」
「....それは、楽しみだ」
これより、模擬戦が始まる。
「試合、開始!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます