第3話 決闘とお誘い
俺は山頂を下る。
先ほど時計の時間を見た限り、決闘までの時間は1時間もない。
そして、普段この山頂を降りるのに要する時間は約1時間。
まさにギリギリの状況。
「間に合うか....ッ」
今の全力を持って、俺は猛スピードで山頂を駆け降りる。
木々を躱し、生い茂る林を抜け、とうとう学院が見えてくる。
「よし....!」
さらにスピードを増して、俺は学院の端に設置してある闘技場へと向かう。
受付まで辿り着き、俺は大慌てで選手入場確認を取る。
「すいません、今来ました!、12:00から決闘予定ののカイン・ツキノです!」
「え、あ、はい、少々お待ちください」
驚いたような顔つきで後ろの名簿を確認しに行く受付の女性。
多分、急な入場で驚かせてしまったんだろう。
なんせ、大慌てここまで来たからな。
間に合ってるといいんだが。
すると、確認が取れたのか、受付の女性はこちらまで駆け寄り、俺の闘技場入場手続きを行なってくれた。
ただーー。
「カイン・ツキノさんと、ミルト・ハイネストさんの決闘は確認しました。ただし、12:00からではなく、11:30からのようでしたが.....」
「な....」
俺はその事実を聞いて驚きのあまり、固まってしまう。
決闘の時間を聞き間違えたのか?
いいや、そんなはずはない。
あいつはしっかりと12:00に決闘だと言っていたはずだ。
そして時間が違うということは、それはつまり.....。
「俺は、嵌められたってことか....?」
瞬間、絶望と怒りの感情が体の奥底から湧き上がる。
あの裏山を下るのに最低1時間はかかる。
そして、俺があそこを出発した頃には時刻はすでに11:00を切っていた。
俺の身体能力じゃ、どう考えても30分でここまでは辿り着けない。
それはつまり.....俺は、決闘を受けるまでもなく敗北したということだ。
「クソッ....!」
自分の足を殴りつけ、怒りを滲み出す。
「ミルトの奴、どれだけ人のことをコケにすれば気が済むんだ....!」
このままでは、俺は決闘という神聖で伝統的な勝負を何の理由もなく
というより、まあ、大方それが奴の狙いだろう。
奴は余程のことをしてまで、俺のことを陥れたいんだろう。
それがよくわかる一手だ。
「ふう.....落ち着け....」
俺は一旦深呼吸をし、怒れる自分の心を鎮め、次第に募っていく不安に頭を悩ませる。
どうする?
恐らく、俺が何をしようと、何を言おうと、皆はミルトのいうことを信じるだろう。
『無能魔剣』と蔑まれる奴と、この学院5本指の学生のどちらを皆は信じるだろうか。
そんなの、俺でも後者の言うことを信じるだろう。
「どうすれば....」
この絶望的状況の打開策を頭の中で必死に考えていると、先ほどの受付嬢が困り顔で話しかけてきた。
「あ、あのー....」
「ハッ、すいません。俺、失格ですよね....」
こんな状況を察して、暗い顔で彼女を見る俺だったが、彼女はキョトンとした顔でこちらを見た。
「えーと、あなたが失格になる理由は分かりかねますが.....とりあえず、控室で待機していただく形でもよろしいでしょうか?」
「え?」
そう言って、サクサクと作業を済ませる女性。
俺は困惑の2文字を頭から離せずに、彼女へと迫った。
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
「はい?、どうかされましたか?」
未だ何事もないように振る舞う彼女に、俺は理由を聞く。
「試合は11:30に行われたんですよね?」
そう言う俺に、彼女は「それは違いますよ」と首を横に振りながら言った。
「生徒様、それは違いますよ。11:30に行われたんじゃなくて、行われるんですよ」
「はい?」
「えーと、ほら、時計があそこに」
そう言う彼女が指差す方角へと顔を向けると、そこには11:10へと針が刺されてある時計があった。
「あ、あれ?」
俺は思わず、違和感を覚える。
俺は確かにあの裏山を11:00に下山したはずだ。
そして今は、11:10。
それはつまり、俺が10分でここまで辿り着けたということか?
それは、あり得ないと思うが.....。
「時計の時間、見間違えたか?、まあ、とりあえず向かうか」
一礼し、受付嬢に感謝を言い渡す。
にっこりとした笑顔で手を振る彼女を横目に、俺は控室へと向かった。
以前、拭えない違和感は残ったが、俺は来る決闘に備える。
いよいよ、俺と奴の決闘が始まろうとしていた。
☆☆☆☆
「ふう......」
緊張で手が震える。
俺はすでに控室を出ており、闘技場の選手入場口の門までやってきていた。
観客の歓声が多く聞こえ、このイベントが盛大に盛り上がっていることが分かる。
「大丈夫だ....あれだけ修行をつけてもらったじゃないか....」
人生を賭けた戦いに、俺は修行の日々を思い返し、自分を鼓舞する。
そしてついにーー
「ーーさあ、やってまいりました!、おまちかねの決闘の時間です!、今回の対戦カードは....ミルト・ハイネスト対『無能魔剣』ことカイン・ツキノ選手です!」
「「「おおおおおおおお!!」」」
司会の声と同時に、さらに大きい歓声が闘技場に響き渡る。
同時に闘技場中央への道を塞いでいた鉄の扉がゆっくりと上がる。
どうやら、選手入場の時間のようだ。
「では、お二人に上がってもらいましょう、どうぞ!」
両者、西側と東側に設置してある門から登場する。
同時に歓声は最高潮へと達し、ミルトを黄色い声援が包む。
「ミルトぉぉおおおお!、やっちまええええええ!」
「きゃーー!!、ミルトくん、かっこいいいいいい!!」
闘技場中央へと来た俺とミルトは軽く挨拶を交わす。
これもしきたりだ。
「いやあ、すまねえな、無能魔剣く〜ん。闘技場の雰囲気ぜーんぶ、持ってっちまってよぉ」
嫌味なほどにムカつく顔をする彼。
だが俺は然程、奴を気にすることはなかった。
「ああ、別に構わないよ」
なぜなら俺は先ほど、こちらを不安そうに見てくる、観客席にいるユーリが見えたからだ。
今回は彼女のために戦っている。
俺が勝手にやったことだが、それでも俺はこいつを必ず倒さなければいけない。
そして、それ以外を今、気にしている暇は俺にはない。
そんな落ち着いた表情をしている俺が気に入らなかったのか、彼は額に青筋を浮かべながら高圧的な態度で迫る。
「ああ?、この無能の分際で余裕こきやがって.....後悔させてやる」
大きく舌打ちをし、開始位置まで俺と奴は下がる。
両者剣を抜き放ち、その時を訪れるのを静かに待つ。
そしてついに、試合開始の合図が鳴り響く。
「それでは、試合開始です!」
瞬間、ミルトは試合開始のゴングと共に、一直線でこちらへと向かってくる。
猛スピードで突進してくる彼は、一瞬で俺との間合いを詰めて、剣を上段へと構え、振り下ろす。
「死ねえええええええ!」
そう叫びながら迫る彼に、俺はある一つの違和感を覚えた。
(?、なんだこれ.....遅すぎる.....)
それは彼の動きが、妙にゆっくりに見えたからだ。
まるで、大人が子供相手に遊んであげる時のように、ゆっくり、ゆっくりと奴は剣を振るう。
なるほど。
どうやら、こいつはよっぽど手加減をするのが好きらしい。
こんなところでも手を抜くなんて、よくもそこまで俺を馬鹿にできるな?
俺だって、これくらいなら簡単に避けられるぞ。
超低速に振るわれる剣を俺は軽く躱し、連撃が終わるその隙を見計らい、俺は奴の後ろ側へと回り込む。
(これは、俺を侮りすぎたお前への罰だ、喰らえ....!)
そして奴の死角へと入り込んだ俺は、自分の剣を横薙ぎに振るい、奴の胴体へと綺麗に剣を当てる。
今の俺ではどれほどのダメージは与えられるかわからないが、修行で少しは鍛えられただろう。
少し怯んでくれるくらいできたらいいんだが....。
「ゴフッ.....!」
「え?」
「「「え?」」」
横一線に振るった剣は、奴を怯ませるどころかミルトを吹き飛ばし、大ダメージを負わせることに成功した。
なんだ、どういうことだ?
一体何が起きて....。
困惑の表情を見せる俺に、床へと転がり落ちたミルトは、先ほど攻撃を喰らった横腹抑えながらヨロヨロと立ち上がる。
「てんめぇ....今どんなずるしやがったか知らねえが....てめぇだけは今ここで、俺の手でぶっ殺す!、死ねや無能魔剣士!」
怒りを爆発させ、今度は全身全霊で俺を迎えるミルト。
俺も剣を構え、奴の攻撃に備える。
(来る....!)
瞬間、ミルトは地面を踏み潰す勢いで大地を蹴り、猛スピードで突進する。
剣を横に構え、奴は魔剣を詠唱する。
「死ねええええ!」
奴の持つ剣が青き炎で包まれる。
勢いよく燃え盛るそれは、標的を焼き尽くさんと、俺に迫る。
しかし、やはり遅い。遅すぎる。
これでは簡単に避けれてしまう。
奴の魔剣が俺に当たる暇もないだろう。
怒りを露わに、俺は奴の魔剣を迎え撃つ。
「この後に及んで、まだ手加減するなんて....真面目にやれよ、ミルト!」
俺は奴の迫り来る魔剣を再度華麗に躱し、超至近距離へと迫り、奴の懐へと潜り込む。
まだ俺に手加減をするお前に、俺の成長を見せてやる。
修行の成果だ....!
「魔剣曲調:第一魔剣・雷火【
「は?」
瞬間、雷鳴の音と共に俺は瞬速の雷剣で奴を切り伏せる。
雷の如き速さで切られたやつは、自分の身に何が起きたとも知れず、白目を剥きながら倒れ込む。
俺が立っており、ミルトが倒れている構図を見て、闘技場に静寂が訪れる。
見れば皆、唖然としており、彼らも何が起こったかわからなかった様子だった。
すると、ハッとしたように意識を取り戻した司会役が試合終了の合図を言い渡す。
「ハッ!、し、試合終了!、勝者、カイン・ツキノ選手ぅぅうう!!」
未だ真実を受け入れられない過半数の閲覧者達。
その静かな空間の中で、小さくも力強く鳴り響く拍手が一つあった。
ふとそちらを向くと、サングラスにマスクをつけた、黒スーツ姿の怪しい女性が一人いた。
彼女は数瞬の後、拍手を止めると、俺の位置から数メートルはある観客席を「とうッ!」と言いながら飛び降り、俺と同じ場所へと降り立った。
彼女は華麗に着地をすると、闘技場で立ち尽くす俺へと近寄ってくる。
なんだ、なんだ?、と警戒する俺と観客を尻目に、彼女はズカズカと近づいてくる。
そして俺の目の前まで来た彼女は、俺の両肩をガッと掴み、勢いよく俺へと問うて来た。
「君、アルカナ魔剣士学院に興味はないかい?」
「は、はい!?」
それは、五大魔剣士育成学院の一つ、超名門のアルカナ魔剣士学院へのお誘いだった。
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